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内科地方会の個人的ハイライト&若手医師の学会発表について思うこと

内科地方会で勉強になったなぁ…と思ったことをメモしたり感想を綴ったnoteです。

あとがきで徒然なるままポエムを綴ってます。



Venus plexus of Rektorzik


頭痛と左上下肢の運動・感覚障害
→多発単神経炎っぽいぞ
→頭部MRIで右内頸動脈錐体部周囲に造影増強効果を伴う血管壁肥厚あり
→血管炎じゃね?
→ステロイドで症状は良くなったが、血管壁肥厚は改善しなかった
→血管壁が炎症で肥厚して見えたんじゃなくて、Venus plexus of Rrktorzik(正常構造物)だったかも…

というケース。

レクトルジク静脈叢かぁ〜
初めて聞いた。

頸動脈管を通る静脈叢 (VP: venus plexus)に包まれた内頸動脈(ICA)のシェーマ
Folia Med Cracov . 2023 Oct 30;63(3):5-13. Fig.1より引用


inherited chromosomally integrated HHV-6


発熱、頭痛、意識障害
→髄液検査とMRIで脳炎疑い
→髄液多項目PCRでHHV-6検出
→いや、でも、免疫抑制状態でもない元気な高齢者であり得る?
全血、毛髪、頬粘膜細胞からもHHV-6Aを検出
→なーんだ、inherited chromosomally integrated HHV-6だわ(脳炎とは関係ねぇわ)

HHV-6のウイルスゲノムがヒト染色体に挿入されている状態なんですって。
初めて聞いた。

詳しく知りたい方はこちら(藤田学園医学会誌 2018 Vol. 42, No.1, pp.31〜36)

中枢性脊髄炎


ケースタイトルにこう書かれていたが

そんな言葉あるのかよ…


HSV2髄膜炎 再発3割


頭痛・嘔吐が持続
→ルンバール
→HSV2の髄膜炎と診断

HSV2は3割再発するって言ってた。
このケースも17年前にウイルス性髄膜炎の既往があったとのこと。

再発の間隔は数週間〜数ヶ月、時には数年に及ぶこともあるという。

Mollaret髄膜炎(再発性良性リンパ球性髄膜炎)ともいうらしい。


髄液をメイ・ギムザ染色するとMollaret細胞が見えるんだって。

Mollaret細胞
CMAJ June 06, 2006 174 (12) 1710-1710-a Fig.1より引用


痙攣後の高尿酸血症&AKI


以前にも痙攣した後、緊急透析を要するAKIになったことがある
→今回クラブで痙攣して搬送。またAKIだ。
痙攣とAKIに何か関連があるのでは…?文献検索だ!
→どうやら急性尿酸性腎症ってのがあるらしいぞ。
→今回のケースも残血清で尿酸 めっちゃ高いやん!これやん!
→背景に腎性低尿酸血症があって、運動後急性腎不全を起こしたのではないだろうか…。

というケース。

…拍手しちゃったわ。

研修医か専攻医かわからないけど
ちゃんとやってるなぁ…えらいなぁ…。

勉強になったよ。


POTS


起立性調節障害のサブタイプ、POTS(体位性頻脈症候群)と診断
→ミドドリン、β遮断薬、フロリネフで改善した。

というケース。

↑のリンクの分類を引用していた。

発表の内容自体は特段どうってことはないが
引用されてた分類の図(血圧と脈拍のグラフ)が印象的というか、わかりやすいなって思って印象に残ってる。


Hamman症候群


1型糖尿病でインスリンポンプ+SGLT-2阻害薬使用中だった
→ポンプ壊れたのでペン型に切り替えたが、嘔吐出現
→受診してDKAの診断。入院時のCTで縦隔気腫あり。

というケース。

Hamman症候群=DKAに縦隔気腫を合併する病態のことだって。

なぜ合併するのかははっきりしてないが、

  • ケトアシドーシスに伴うKussmaul呼吸

  • 強い嘔吐

  • 努力性呼気

で胸腔内圧が上昇するからでは?と考えられているらしい。

気腫は自然に吸収されますよ、と。


そういう名前がついてるんだねぇ〜
まぁ…だからなんだ、というケースではある。


脾臓損傷後に胸部脾症


20年前に交通事故で脾臓損傷→脾摘してた
→検診で胸部レントゲンで異常陰影を指摘
→CTで胸膜に多数の腫瘤が!なんじゃこりゃあ!
→PET-CTでは光ってない。
→開胸で腫瘍生検した
→なんと、脾臓組織だったぁ!(胸部脾症)

というケース。

へぇ〜ボタンがあるなら、5回くらい押したい!


バンダイHPより引用


似たようなケースレポートあるので貼っておく。

日呼吸誌 3(2), 2014

外科的生検で診断つける他には、
Tc99mスズコロイドシンチグラフィーが有用らしい。

あと、SPIO-MRIも。

※SPIO=超常磁性酸化鉄(superparamagnetic iron oxide)


損傷した脾臓が別の組織に飛んでいくの面白い!


BCG注入→播種性BCG感染症


膀胱癌術後にBCG膀胱内注入
→持続する発熱と肝障害
→肝生検で、類上皮細胞肉芽腫とラングハンス型巨細胞あり
→播種性BCG感染症と診断

というケース。

コンサルしてきた泌尿器科医の先生がそもそも疑ってくれていたらしい。

発表の中で
膀胱注入後にこれが発症する率 0.38%
とおっしゃっていた。

いや、まぁ、こういうのあるんだなぁ〜
知ってさえいれば、病歴から鑑別に挙げられるね!


塩素系漂白剤+炭酸系入浴剤のコンボで急性肺障害


シャワーヘッドを塩素系漂白剤で洗った
→そのシャワーヘッドで湯船を洗い流し、お湯をはった
→炭酸系入浴剤入れて、入浴
→咽頭痛、嘔吐、咳嗽などあり救急搬送。
→CTで両肺にびまん性すりガラス陰影
→これは、塩素ガス発生して急性肺障害来したんやなぁ


いや、この病歴取れたの凄くね?

シャワーヘッド洗ったとか、入浴剤使ったとか…

コナンばりの名推理やんけ。


スピロヘータ症による慢性下痢


慢性下痢で下部消化管内視鏡検査
→肉眼的所見は異常なし
→でも、ランダム生検じゃぁ!!
→病理「スピロヘータっぽいです」
→メトロニダゾールで症状改善!


いいですねぇ〜

慢性下痢で内視鏡所見異常なくても、ランダム粘膜生検で3割くらいは診断がつくんだって。

よく言われるのは、Collagenous colitisだよね。

病理はこんなふうに見えるんだって。

粘膜上皮細胞の表面の毛羽立ちがスピロヘータの菌体らしい
こちらより引用


人獣共通感染症で、飼っているイヌなどから糞口感染するとのこと。

発表では、「イヌ飼育(ピーシャ犬)」と犬種まで言及していたが、
ピーシャ犬なんて検索しても出てこないので、
あれはなんだったのか…謎に包まれています。


もしかして、ピーシャじゃなくて、ピンシャー?


なんかAOSDの症例


発表中に
「プロカルシトニンが陰性で、発熱しても自然に解熱を繰り返しているので、細菌感染は否定的でした」
と言っていて

そんなんで大丈夫か?

と思った。


腓腹筋捕捉症候群(膝窩動脈捕捉症候群)


初めて聞きました。

発表でも造影CTの画像を示してくれましたが
速くてよくわからなかった…

このサイトの画像をじーっと見ていると、理解できた。


複視で発症した側頭動脈炎


眼動脈の分枝が第Ⅲ, Ⅳ, Ⅵ脳神経や外眼筋に分布してるので、
視力障害じゃなくて複視で発症するケースも5〜10%程度あるとのこと。

勉強になります。


Garcin症候群(ギャルサン症候群)


初見では読めないね。

頭蓋底部に発生した悪性腫瘍によって、片側の脳神経が多発性に障害される病態のことらしいです。


何でもかんでも
「(人名)症候群」にするのやめてよ…って思う。


新しい星に名前つけるみたいにさぁ…


転院してきた疥癬


脳血管障害後、リハビリ病院等転々としていたが、発熱して急性期病院に転院
→皮膚乾燥してるし、保湿剤でも塗っておくか〜
→だんだん皮疹悪化してきた
→好酸球も上がってきた
→薬剤性の好酸球増多じゃないのか?
→Ns「この皮疹、カビじゃないですよね?」
→Dr「その線もあるか。調べよう」
→なんと、疥癬やった…

というケース。


こういう、「最初おもてたんと違う!」っていうケースがいいよねぇ〜

いいよ〜こういうの発表してほしいよ〜

疥癬の皮疹は実に多様で、見た目で他の皮膚疾患として誤診されたケースがたくさんあります!
と発表では、いくつもの誤診された皮疹写真を出してくれた。

ありがたいですねぇ〜
説得力があるプレゼンでした!


生シラス食べて条虫症


生しらすはもう食べねぇ!!!!



あとがき(若手医師の学会発表について思うこと)


9時〜17時まで、2画面同時視聴。

気になる症例の方の音声をONに、興味ない症例の方をmuteにしつつ。

疲れた…。

後半は集中力切れてきたので
↑のpick up例も比較的午前中のに偏っている気がする。


でも、勉強になったなぁ…

この2年、土日は大学院の授業があって地方会は参加できてなかった。


学生や研修医のことは、学会発表なんてクソつまんねぇじゃんって思っていたが、ここ数年はそうでもない。


まぁ、地方会で発表されるケースのうち、

個人的には「うーん…つまんないなぁ」と思うケースが8割くらいだけど、


時々

「すごおおおおおおお!」と思えるケースがあって

その希少性ゆえ、感動もひとしおというか


鉱山でダイヤモンドの原石ひとかけら見つけたぁ!みたいな感じ?

が楽しくなってきた。


内科専攻医の先生は、J-OSLERの修了要件に
学会発表や、学会参加の回数にノルマが課されてると思うんですが

人のふり見て我がふり直せ

という精神で、学会に参加するといいと思うよ。



例えば、

  • こういうスライド見にくいなぁ…

    • 文字の大きさ、フォント、色

    • 文字の量、配置

    • 画像の見せ方

  • こういうプレゼン、ようわからんなぁ

    • 速すぎて視聴者の理解が追いつかない

    • 論理が飛躍している

    • 学問的な面白みがない(新規性や教育的メッセージがない)

  • 質疑応答たじたじやなぁ…

    • こういうこと聞かれるのかぁ→想定問答しとかな

    • スライドに書いてる内容の質問が来るってことは、プレゼンで伝わってなかったってこと


とか、感想を書いておくだけでも
いざ自分の発表の時に役に立つと思うよ。


地方会は研修医や専攻医らの発表の練習の場と化していることが多い。

誰しも最初はある。

よく理解していない状態で発表することになっちゃうのも、研修医・専攻医だもの。
しょうがない。


参加する先生方は、ぜひ温かい気持ちで見守ってやってほしいな…と思う。

質問される時とか、ドキドキよな…。
わかんないこと聞かれたら萎縮しちゃうよな…。


吊し上げみたいな追及質問はやめたってクレヨナ…。


もっと、こう、優しく教え合うみたいな空気感になってほしいヨ…。



一方で、こうも思う。

研修医や専攻医の先生は、自分の発表の良し悪しが、自分の評価になるなんて思ってはいけないですよ、と。


お前の発表がポンコツだったら、

あ、指導医がポンコツなんだなぁ〜

って思われますし


あなたの発表がとても素晴らしかったら、

さすが、ちゃんと指導が行き届いてるなぁ〜

って思われます。


指導医の顔と名前を背負って発表してるんだ、というつもりで
ベストを尽くしてクレヨナ…。


でも、発表してるだけでめちゃくちゃえらいよ。

聞いてるだけの人間より、参加してない人間より、めちゃくちゃえらい。


これは間違いない。

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花嫁にもなれず、総合内科専門医にもなりきれぬ哀れで醜い可愛いサン
花嫁にもなれず、総合内科専門医にもなりきれぬ哀れで醜い可愛いサンをサポートしたいという気の触れたこだまたちはおらぬか!