【医師解説】海外旅行に持って行く薬リストと注意点!
これは前回の続きです。
※このnoteは、
海外旅行期間中、もっておくと良い薬は?
をお知りになりたい方向けです。
総合内科医が医学的知見と実体験をもとに解説します。
携行薬
まずは、携行すべき薬を、以下の2つに大きく分けよう。
持病に対して使っている常用薬(毎日飲んでる薬)
もし体調を崩した時のための予備薬
持病に対して使っている薬
例えば、高血圧の薬や、喘息の薬など、普段から毎日服用するよう医師から指示されているお薬は、必ず少しだけ多めにもっていく。
これは海外旅行に限らず、国内旅行でもそうなのだが…。
1週間くらい飲まなくても平気だろう、と自己判断して飲むのをやめてしまうのは危険なので、お願いだからやめてね…。
なければ現地調達!というわけにもいかない。理由は、
日本で流通している薬と、海外で流通している薬が異なる
同じ成分であっても、「商品名」が違うので、医師に伝わらない
旅先で、同じ薬が手に入る可能性はほぼないと思っておいた方がいい。
また、錠剤を落っことしてしまうとか、飛行機のトラブルで滞在期間が少し長くなるとか、を想定して、多めに。
機内に持ち込む用+スーツケースに入れる用とに、分けてパッキングしておく。
機内に持ち込む用には、ロストバゲッジ対策としても1〜2日分多めにもっておけると安心だ。
ただし、必要以上に多量の薬をもっていくと、持ち込みが認められない場合もあるため注意。
英文による医師の診断書が必要な場合も
渡航先の国によっては、英文の医師診断書を求められる場合もあるようなので、事前に確認を。
かかりつけ医に作成を依頼した場合、当日すぐにもらえるとは限らないため、最低でも2週間以上前、を目安に受診することをおすすめする。
ちなみに、エジプトの場合は、
らしい。
そうなんだろうけど、個人的には、
3つ目の条件(ドラッグストアで買った薬の英文資料)って無理じゃね?と思った。
英文は無理なので、パッケージ(箱)をそのまま持っていく、くらいではなかろうか。
海外旅行の際、特に注意が必要なお薬
向精神薬(睡眠薬や抗不安薬、抗けいれん薬など)
覚醒剤原料(ADHDの治療薬など)
医療用麻薬(がん性疼痛などに対して処方される)
申請をする場合は、こちらのWebページから。
申請には、医師の診断書が必要。
かかりつけ医に依頼を。診断書の作成は、医療機関によって、あるいは記載様式によって、設定額が異なるが、だいたい3,000円くらいだと思う。
締切は、出国or入国の2週間前まで!
時間的余裕がない場合でも、必ず地方厚生局麻薬取締部に電話で問い合わせを。
もしもの時の予備薬
一般的におすすめされる市販薬を列挙する。
解熱鎮痛薬
解熱薬、頭痛薬として。お腹を下した時の腹痛に対しても使って良い。
厚生労働省のWebぺージで、市販の解熱鎮痛薬の一覧があるので、参考まで。
「NSAID」に分類されるロキソプロフェンやイブプロフェンよりも、「アセトアミノフェンのみ」の薬の方が、胃や腎臓への負担が少なくて、より安心して使えると思う。
風邪薬(総合感冒薬)
風邪を治すものではなく、あくまでも症状を緩和するだけの薬。
医師の立場としては、「正直どれでも同じなのでどれを選んでもいい」し、「別に飲まなくても構わない」。
ただ、異国の地で、風邪を引いた時の心細さを思えば、何かしら手を打ちたくなるのもわからないではない。なので、持っていて良いと思う。
胃腸薬
市販薬をその効果等で大雑把に分類すると、
◆消化を助ける系
太田胃酸など。ほにゃららアーゼ、みたいな消化剤が入ってます、と書いてる。脂質の多い食事で胃がもたれるなどの場合に良い。
◆胃酸を抑え、胃の痛みを和らげる系
ガスターに代表される、ファモチジンという成分は、市販薬の場合やや量が少なめではあるが、医師が処方する医療用医薬品と同じ成分である。
他に、炭酸マグネシウム等の制酸剤の場合もある。
胃食道逆流症で、胃酸が上がってくる感じがするとか、胸やけするとか、胃炎の時に良い。
◆胃の粘膜を保護する系
スクラートやセルベールなど。スクラルファートやテプレノンという成分が、胃の粘膜を保護する。これらも医療用医薬品で使われる成分と同じ。
胃が痛む時に。
◆漢方系
大正漢方胃腸薬など。大正漢方胃腸薬は、安中散と芍薬甘草湯を配合しているらしい。
安中散は、胃痛や胃もたれを伴う神経性胃炎や慢性胃炎に用いられる漢方薬。
芍薬甘草湯は、就寝中や運動中に足がつるときや、生理に伴う腹痛、腰痛に用いられる漢方薬。
◆下痢系
正露丸:生薬が色々混ざっている。軟便、下痢、食あたり、水あたり、はき下し、くだり腹、消化不良による下痢、むし歯痛と、なんでも効く、らしい。(HPより)
ブスコパン:腸炎の時は、腸の蠕動(動き)によって痛みを生じるが、この蠕動を止めることで痛みを和らげる成分。
整腸剤
ビオスリー、ビオフェルミン、強ミヤリサン、エビオスなど…
効果に大きな差はないと思うので、どれを選んでもいい。
腸内環境を整える、という目的。
下痢になった場合に使ってもいいし、旅行の環境変化で「便秘」になる場合も想定されるので、予防的に飲んでいて良いだろう。
下痢止め
ストッパなど…
元々、過敏性腸症候群があって、ストレス負荷時に下痢しちゃうタイプの方なんかは、持っておいて良いと思う。
しかし、旅先で、ウイルスや細菌などの病原体による「感染性腸炎」にかかって下痢している場合は、やや注意が必要。
感染性腸炎の場合の下痢は、病原体を早く体外へ排出し、治癒を促進しようとする体の正常な反応である。
これを無理やり止めてしまうと、症状が長引いてしまう可能性が懸念されるので、医師としては、「感染性腸炎が疑われる場合は」あまりおすすめしない。
難しいのは、今の下痢が「感染」によるものか、「非感染(たとえば環境や摂取した水・脂質の変化)」によるものか、多くの場合、自分では判断がつかないということである。
これは、医師である私でも、自覚症状だけではわからない。
医師ならば、摂取した食物や、考えられる病原体の潜伏期間、随伴症状(発熱を伴う場合は、ほぼ感染だろう)、腹痛の性状、といった情報から、感染の可能性をある程度見積もることは、できなくはないが、確実ではないし、一般の方にはまず無理である。
つまり、下痢止めを飲むことは、基本お勧めしない、と受け取ってもらうのが良いだろう。
どうしても、というときは、次のような場合である。
・長距離のバス移動(バス内にトイレなし)
・長距離のフライト(トイレがあっても混む)
トイレに間に合わないことで、社会的にダメージを被るリスクがある場合は、やむなく下痢止め(or 胃腸薬で取り上げたブスコパン)を使っても良いだろう。短期間にとどめることをおすすめする。
便秘薬
酸化マグネシウムや、コーラック、センナなど…
おすすめは、「便を柔らかくする系」の、酸化マグネシウム。
排便の際にお腹が痛くなりにくく、自然な排便を促してくれる。便が固くなるタイプの方はこちら。
センナは、腸の蠕動を亢進させて、便を排出させるため、お腹の痛みを伴う場合がある。
飲んでからだいたい8〜10時間で効き目が現れるとされているので、夕食後や寝る前に飲んで、翌朝排便する、というタイミングを調節できるのが便利な点。
コーラックは、上記のような2つの効果がある成分を組み合わせているよう。
酔い止め
トラベルミンなど。
飛行機の揺れや、長距離のバス移動で酔いやすい方は、持っておくと良い。
眠気の少ない成分、と書いてあるものの方がおすすめ。
目薬
乾燥している地域なので、ドライアイ気味の方は、ぜひ潤す系の目薬を。
ソフトサンティアなど。
あと、砂漠に行く場合、砂埃などで目に異物が入ることが想定される。
そういった場合に備えて、洗眼薬もおすすめ。
サンが持って行ったのはこれ。外出先でも使える。
※まったくCOIはない。
あと、日頃から愛用しているアイボンのミニタイプ(ホテルで使用)。
機内に液体物を持ち込む場合、一定の制限があるが、ミニなら1ボトルあたり100mLなので、一応持ち込めはする。
1〜2週間の旅行なら(多分1ヶ月くらいでも)、1個で十分。
サンはスーツケース内に入れて持ち運んだ。
塗り薬・虫除けスプレー
ワクチン編でも書いたが、ワクチンで予防できない病気で、蚊が媒介する(蚊に刺されることで、感染する)病気がある。
したがって、虫除けスプレーは必須。
スプレー缶でも、ミストタイプでも、100mL以下のボトルであれば、機内にもスーツケース内でも大丈夫そう。(機内持ち込みの場合、合計量にも制限あり注意)
サンは、液体ミストタイプで100mL以下のものを、機内に持ち込んだ。到着後からすぐに使えるように!
それでも、万一、虫に刺された時、患部が腫れてかゆみや痛みを生じるだろう。
それに対する薬として、塗り薬を持って行っておくと良いと思う。
蚊に刺されて、赤く腫れるのは、蚊の唾液成分に対する「アレルギー反応」が局所で起きているからだ。
虫刺されに対するおすすめの塗り薬は、2種類に分けられる。
1. かゆみの症状を和らげる薬
2. 炎症を抑える薬
かゆみの症状を和らげるには、抗ヒスタミン薬と分類されるような成分(ジフェンヒドラミンなど)や、メントールなど、スースーする成分が配合されているものがおすすめ。
例えば、ウナコーワや、ムヒなど。
サンが日頃から愛用しているのは、ポケムヒ。
かゆみが強かったり、痛みまである場合は、炎症を抑える薬として、ステロイド外用薬がおすすめ。
例えば、リンデロン。軟膏、クリーム、ローションの剤形があるが、虫刺されの場所に使うのであれば、まず軟膏で良いだろう。
クリームの方がベタつきが少ない。ローションは頭皮など毛があるところに。
抗アレルギー薬
花粉やハウスダストに対して、アレルギー体質の方(アレルギー性鼻炎など)は、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)も携帯しておくと良い。
アレグラやアレジオンなど。
鼻炎になりやすい方は、点鼻薬もあると良い。
市販の点鼻薬は、大きく分けて2種類ある。
1.血管収縮成分やケミカルメディエーター遊離抑制成分配合のもの
2. ステロイド配合のもの
1の血管収縮成分やケミカルメディエーター遊離抑制成分配合のものは、即効性がある。
こちらの「ナザールスプレー」など。
しかし、頻用・長期間利用しすぎると、薬剤性鼻炎になるという副作用がある。
「使えばスッと楽になるが、すぐにまた鼻が詰まって、また使って…」という状況で、使うほど鼻詰まりがひどくなるという悪循環に陥るのだ。なので、使うとしても短期間に止めること。
ステロイド配合のものは、即効性はないが、炎症を抑えてくれる作用があり、アレルギー性鼻炎の根本に効くお薬だ。薬剤性鼻炎になってしまった場合も、ステロイド点鼻薬を使うことで治療する。
同じナザールという商品名で紛らわしいのだが、ナザールαAR はステロイド配合のタイプだ。
サンも昔、学生時代に、薬剤性鼻炎になったことがある。あの時はかなり辛かった。
近所にあった耳鼻科の先生は、とても優しくて、詳しく説明してくれて、ステロイド点鼻薬を処方してくれた。とても感謝している。
以降はできるだけステロイド点鼻薬を使うようにしている。
基本的には、ステロイド点鼻薬を使い、どうしても今だけは!(大事なプレゼンの瞬間とか、プロポーズの瞬間とか…)という場面でのみ、血管収縮成分の点鼻薬を単発で使うことをおすすめする。
サンが実際に持って行った薬
過去に処方してもらった薬で余っていたものや、市販薬を組み合わせて持って行った。
今回、診断書などは準備せずに入国したが、特に咎められはしなかった。
もし、過去に処方してもらった薬のあまりがない場合、予備薬として新たに処方してもらうことは可能だ。
ただし、基本的に症状がない場合の予防的な薬の処方は、「保険適用外」であり、「自費(クリニックごとに設定された価格)」になる。
「トラベルクリニック」などと検索してみると良い。
ワクチン接種など、自費診療メインでやっているクリニックがいくつかhitすると思う。
そこを受診すれば、トラベルセットや、風邪薬セット、などを購入することができる。
でも、まぁ、ここまで読んでいただいた方なら、おわかりだと思うが、ほとんどの症状は市販薬で対処可能。
抗菌薬はさすがに市販で売っていないのだが、
膀胱炎になりやすい女性の場合は、できるだけ排尿を我慢しないなど、予防的行動を取るようにすれば、準備しなくても大丈夫だと思う。
あと、下痢したからといって、基本的には抗菌薬を飲む必要はない。
頻度が多いわけではないが、万一、腸管出血性大腸菌(O-157)だった場合は、抗菌薬投与が仇となり重症化する危険性も指摘されている。
腸炎に限らず、医師の判断なしに抗菌薬を飲むことは推奨されない。だから、市販されていない。(海外では市販されている国もあるらしいが…そのせいで耐性菌が蔓延して大変なことになっている側面もある)
これで、健康面への不安はかなり解消されたと思うサンなのであった。
準備編はつづく
次回は、必要なグッズリスト&おすすめ機内グッズ編!
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