長男の産声を聞いた瞬間の出来事
※写真はイメージです。実際の私の長男ではありません。
私たち夫婦はいわゆる不妊症だった。
タイミング療法と人工授精を繰り返したが、なかなか子宝に恵まれる事はなかった。
経済的にも精神的にも徐々に疲弊してく中、奥さんの友達が次々と妊娠、出産をしていき、気がつくと奥さんは精神を病んでしまった。
不妊治療を体外受精へとステップアップする事になったが、それでも駄目だった。
命となりうる受精卵を受け入れる事ができなかった。私が殺してしまったと、奥さんは自分を責め続けた。
会話もなくなり、もう夫婦としてもボロボロになっていた。
しかし、とある出来事を機に、奥さんは精神的に回復していく。そして次の体外受精で、結果がどうであろうと不妊治療を最後にすると、奥さんは覚悟を決めた。
幸いな事に、その最後の体外受精で、妊娠に至り、私達は長男を授かる事ができた。
今でも忘れない。病院の待合スペースで出産を待っていた時。
遠くの方から小さい産声のようなものが聞こえた気がした。
隣にいたお義母さんが「今のそうじゃない?」と私に声をかけた時、病院の待合スペースの照明が、一段階パッと明るくなった。
気のせいというか、私の気持ちが高揚した事でそういう錯覚をしたに過ぎないのだとは思う。しかし、それでもあの瞬間の感覚は忘れられない。
「え?今、明るくなった?」と不思議に思って、実際に天井の照明を見回したのだから。
長男がこの世に産まれてきてくれた事で、私の世界は明るくなった。
そしてその明るさは、たぶん今も続いているのだと思う。