日中投資促進機構の新春特別企画Webパネルディスカッションレポート|対中国ビジネスの可能性や課題、注目したい産業とは
日中投資促進機構では、2021年1月27日(水)に新春特別企画として桜美林大学教授 雷 海涛 氏、株式会社SUGEHARA & NA Associates 代表取締役 須毛原 勲 氏、株式会社サムライ インキュベート Partner 成瀬 功一 氏、3名のイノベーション専門家を招き、Webパネルディスカッションを開催しました。
「今こそ中国ビジネスのブレークスルー ~大企業が新規事業に取り組む壁、中堅企業が中国と付き合う限界に挑戦~」をテーマに、中国ビジネスの現状や展望について知見のある視点から議論が繰り広げられました。今回は、気になるWebパネルディスカッションの内容の一部をお届けします。
中国市場やベンチャーに世界が注目する理由
———中国の市場やベンチャーに世界が注目をする理由を伺いたいです。
須毛原:現在、イノベーション先進国と言われているのはアメリカと中国です。自国の市場が広いことはイノベーションの創出に有利になります。さらに中国は世界第2位のGDP経済大国で約1,500兆円、日本のおよそ3倍もの資産を持っています。2028年にはアメリカを抜いて世界1位になるとも予想されています。
特に、人口約14億人の巨大市場では、日本と中国で同じようなサービスを提供しても影響力や利益率が異なります。
例えば、日本のあるニュースキュレーションアプリは1,000万人のユーザーがいて時価総額10億ドル以上とされていますが、かたや中国のあるニュースアプリは中国内だけでも6億人のユーザーを抱えており、市場の違いが明らかです。その広大な中国市場でイノベーションを目指すというのは経済的に理にかなっていると思います。
また、中国はイノベーション大国と呼ばれており、新しい技術やビジネスモデルが次々と生まれています。とくに技術者は優秀な人材が豊富で、日本では3ヶ月かかるものが中国では2週間でできてしまうとも言われています。
中国で事業を始めることがすなわち、グローバルに新規事業を展開することになるかもしれません。
———成瀬さんはどうですか?
成瀬:中国市場の魅力は、須毛原さんがおっしゃる段違いの市場規模に加えて、新しいサービスを立ち上げ易いことが挙げられます。
中国市場が日本市場と違う点は2つあります。
1つ目は暮らしている国民が新しいサービスやプロダクトの品質に対して寛容なことです。
日本は国民がすごく厳しく、多少バグがある商品を出すと評価が大きく下がってしまいます。そのため、技術者も中途半端なものを出すわけにはいかず、重箱の隅をつつくような研究開発を行なうため、世に出すまでだけでも結構な時間と費用が掛かります。
結果、市場の声を踏まえた開発もできず、ニーズに合わないことに気づいてもサンクコスト効果で簡単には引き下がれず、ドツボにハマってしまうことが多い印象です。
逆に中国は、ある程度品質が低くてもメインの価値が得られるサービスはどんどんユーザーが増え、広がっていきます。
そのため、非常に立ち上げ期の成長をつくりやすい市場だと感じています。
日本には中国にはない研究力や事業アイデアは溢れかえっているにも関わらず、事業化していないことが、日本経済低迷の大きな要因の一つだと感じています。
我々は、日本で生まれた研究やアイデアを、中国で立ち上げ、その後にグローバル展開するというスキームを構築しています。もちろん、それに適さない分野もあれば、実行面での政治的・文化的な難しさもありますが、それをどう乗り越えて中国市場を取り込んで行けるかを真剣に考えなければいけない時代にあると考えています。
大手企業が中国を開拓するときに課題となるオープン・イノベーション
———大企業が中国で新規事業を開拓するときにぶつかる壁を、どのように克服するべきかという観点でお話を伺ってもよろしいでしょうか?
雷:大企業は、主力事業に全力投球して増収増益につなげていくことが第一優先事項だと思います。それは正しいのですが一定の時間が経過することで、どのような商品、技術も必ず陳腐化します。
あるタイミングで技術や商品が臨界点に達すると、デジタルカメラからスマホカメラ、DVDディスクからBlu-rayディスクというように選手交代の現象が起きるのです。
このときには、発想や意識の転換が必要となります。自前主義からの脱却や積極的に社外と連携していくなどオープン・イノベーションに取り組む姿勢が欠かせません。
日本の大企業はオープン・イノベーションが得意ではないというのが現状です。どの部分をオープンにするべきで、どの部分をクローズにするべきかという切り分けが上手にできないからです。
自社のコア技術としてできるだけ優位性を保つために、自社の情報は、全部外には出せないと決めてしまうのではなく整理が必要です。
———オープン&クローズの技術のせめぎ合いに関して、詳しくお話いただいてもいいですか?
雷:オープン・イノベーションの成功は技術そのものも大切ですが、さらに大切なのはマネジメントです。例えば、製造業でいうと、自前主義中心の日本企業は、部品製造から本体の組み立てまで全て自前のバリューチェーン上で行っているため、外部との製造工程の連携の経験が少ないです。そのため、明日からどの部分をオープンにできるのか、という基準がありません。前例のないことを素早く判断し、実行することは難しいところです。
最近流行している言葉で「イノベーションは必ずしも全部を0から作り上げるものではない。既存のものをうまく結合させれば、新しい1つのイノベーションが生まれる」というものがあります。
例えばiPhoneを見てみると、使われているタッチパネルなどの技術やアプリは必ずしもApple社が自前でやっているわけではありません。さまざまな技術を結合させて1つのイノベーションが生まれる体現になっていると思います。
このように、自前主義文化の濃い日本企業には馴染めない世界になってきています。あるパーツを切り分けてオープンにすることはそう簡単ではありません。
ただ、オープン・イノベーションを実現するためには意識改革が欠かせません。そのために限界が来ていることを認識し、いち早く着手すべきだと強く感じています。
———須毛原さんは新規事業を行うときのオープン・イノベーションについてどのようにお考えでしょうか?
須毛原:新規事業を行うときには、時間を確保したり新たな技術を育てたりと難しい面が多々あります。
そのため、ある程度成果を出している企業と連携していくオープン・イノベーションがとても大切になっていくと思います。
実際に中国で新規事業を立ち上げる方法
———実際に中国市場でビジネスをするには、どのように進めていけばいいでしょうか?
雷:日本と中国は文化や歴史で近い部分がありますが、ビジネスの視点で見ると思考回路がかなり異なります。
例えば、中国のEV車は日本や欧米の自動車作りの考え方と全く異なります。自社工場を持つことを前提に考えるのではなく、車のコンセプト設計とマーケット獲得ができるかというポイントに絞って考えています。
中国はPowerPointで車作りをしていると表現されることがあります。PowerPointを使っていかにきれいなプレゼンテーション資料を作成し、投資家やファンドを獲得するかが重要視されます。つまり、中国市場で必要なのは人材や資金確保が技術開発のためのアプローチなのです。
この辺りは中国と日本のロジックがピッタリ合うのはなかなか難しいかもしれません。しかし身を投じて新しいことを始める場合にはこのようなアプローチは必要だと思います。
また、模範解答のない市場なので、いろいろな形で戦略を描き、アプローチができる現地での人脈形成も大切な要素です。
———成瀬さんの体験から中国での新規事業の成功事例をご紹介いただけますか?
成瀬:日本企業の中国でのイノベーションはまだ始まったばかりで、企業の参入はこの2,3年で急増していますが、また成功事例は多くはなく、これから増えていく段階ですが、
某日系大手企業が中国スタートアップとの協業で事業創出した例をご紹介します。
その企業は中国市場への参入段階から支援しており、現地での事業経験もネットワークもなかったため、現地スタートアップと組む形式を選択しました。
それにあたり、まずはその企業の狙う事業領域に関連する中国スタートアップを、我々のデータベースや現地ネットワークから数百社集めてきて、一社一社見ながらどんな協業ができるか、事業アイデアを洗い出していきました。
そのなかから優先順位が高い50社ほどのスタートアップとディスカッションを行なって6社まで絞りました。そこからは各社のプロダクトをテストして最終的に組む会社を決めてます。
その後1年をかけて、共同開発や市場でのPoCを重ねて、間もなくローンチをする流れです。
他にも、中国でスタートアップする方法として公募型があります。テーマを決めて、一緒に事業を始めたいスタートアップに対して、協業アイデアを集める形式です。
集まった書類の審査や面談を行なってある程度絞り込み、共同でPoCをクイックに回していきます。最終的には協業する会社を10社ほどにして、早期に協業先を創出していく1年間ぐらいのプログラムです。
最終的に残った10社と資本業務提携や共同開発の契約に移ります。最初のスタートアップをアイデアから募集し協業のビジネスを立ち上げる公募型は、中国でとても増えてきています。
———実際に中国で事業を立ち上げるときに、雇用の現地化の難しさや進め方について伺えますか?
須毛原:私は中国に限らずアメリカやシンガポールでも仕事をしてきましたが、その国の事業はその国の人のものだと思います。例えば日本人がフランスに行って、フランスの事業ができるかといったらほとんどの人ができないでしょう。
欧米企業の多くは、優秀な中国人を採用してアメリカ本国のスタンダードで報酬を払います。成果報酬でKPIをつけることもあります。
現地化は丸投げとは異なるため、ガバナンスやコンプライアンスなどきちんと任せられる土台を作ったうえで優秀な人間に任せることが大切です。
現地のオペレーションを理解するうえで駐在員は非常に大きな役割を担っています。駐在員の役割分担を把握したうえで上手に優秀な現地の方に任せる、という考え方で現地化を目指す必要があるでしょう。
中国のベンチャーを見るときの視点
———中国のベンチャー企業を見るときには、どのような視点を持って判断をしたらいいのでしょうか?
須毛原:資金調達をしている場合は、どのような投資会社から資金調達をしているのかは、見ておきたいポイントです。アメリカのセコイア・キャピタルなどが有名ですが、実績のある投資会社がきちんと投資をしているというのは一つの目安になります。
あとは、商品と技術も見ておきたいところです。どのような資材を使っているのか、多少事業を進んでいるのであれば、どのような顧客を持っているのか確認します。中国でそれなりの企業に納入実績があるというのは、評価をするうえで大事なポイントだと思います。
最後に、一番大事なのは経営者やチームメンバーです。経営者と直接会って感じるものや相性は大切かなと思います。
———成瀬さんはどのようにお考えですか?
成瀬:私たちも直接会って議論することが大切だと感じており、将来的にどのように発展していきたいのか、調達した資金をどのように活用していきたいのか伺っています。
中国でスタートアップの協業を募集すると多数の応募があります。本当に長期的な目線で協業や互いの事業を成長させたいと考えている会社は、この機会をどう活用し成長につなげるのか、日本企業の利用方法を明確に考えています。
初期的なディスカッションでは、どれくらい真剣に考えているのかを確認し、その後にDDなどを実施します。と言っても内容は日本のスタートアップ の評価とは似て非なるもので、企業文化やマーケット、経営スタイルなど前提の違いは想像以上に発生します。
そのため、相手の経営や人材としての信頼性やプロダクトや技術の有望性を一番測れる方法として、本格的に投資や協業を実行する前に、ライトにでもPoCをした方が良いです。
スタートアップで注目したい中国産業
———中国市場ではライブコマースが盛り上がっていますが、日本で定着しないのはなぜだだとお考えでしょうか?
成瀬:日本でのライブコマースの普及は、これからだと思っています。
日本などの先進国は既存のマーケティングチャネルや購買方法が歴史的にとても発達しているため、わざわざ新しい手法を探す必要がありません。しかし、今後社会構造が変わりデジタルネイティブ世代が育っていくと、広がっていく可能性は高く、時間の問題だと感じています。
———最後に、ベンチャーやイノベーションのサポートをする立場から、比較的マーケットがホットでお話が比較的よく来る、盛り上がる産業の分野はありますか?
成瀬:中国で、特に魅力的なのは莫大な市場規模を生かしたデータやAIです。中国は人口が多くデータがオープンなので、データが非常に取りやすくAIを育てるには絶好の環境が整っています。
とくに日本の大手企業は、ソフトウェアなど時間のかかるAIを開発することが苦手なケースがあるので、ソフトウェアやAIデータの部分で中国のスタートアップをうまく活用するのは狙うべきポイントかなと思います。
集めたデータはローカライズが必要ですが、日本で少しずつデータを蓄積していくよりもよっぽどAIが育てやすいと思います。
最近狙い目なのは、サーキュラーエコノミーです。サーキュラーエコノミーとは、ビジネスとしてフードロスやリサイクル、CO2の削減などの循環型社会を実現するものです。サーキュラーエコノミーのスタートアップはグローバル全体で増えており、新興国でも今後の社会モデルを作るうえで重要な技術とされています。
上手にコンテンツ化する、もしくはマーケット側にプラットフォームを用意しておくことで、ハード面のコストを削減できるでしょう。このようなテーマのビジネスがいろいろな産業で生まれてきているというのは、注目すべきところだと思っています。
———大企業や中小企業問わず、まだまだ中国には目指せる市場があるということでしょうか?
成瀬:私たちが中国でベンチャーキャピタルや政府などのさまざまな機関と話しているなかで気付いたのは、日本の技術やノウハウは結構求められている、ということです。
特に、大学発の研究開発ベンチャーや中小企業、ニッチトップな会社の技術や資材を中国に持っていきたいという相談を中国側からもらうことが多いです。
これまで中国は先進国の生産エリアで経済発展をしてきたので、中国内で研究開発や知財はあまり発展しなかった背景があります。
そこで、日本や欧州から研究開発成果を取り込もうと考えているところがあります。しかし中国に取り込まれるのではなく、日本の企業が中国市場をうまく取り込んでいくとWin-Winな関係になれるでしょう。
中国市場の規模は日本の比ではないので、同じ活動をしても10倍くらいのインパクトを与えられます。中国と日本の関係をうまく築いていけると互いに成長できるという点も、中国市場を目指していくうえでの魅力かなと思います。
日本の大手企業と共に中国市場を目指す
今回は、日中投資促進機構が開催したWebパネルディスカッション「今こそ中国ビジネスのブレークスルー ~大企業が新規事業に取り組む壁、中堅企業が中国と付き合う限界に挑戦~」の内容を一部ご紹介しました。
日本とは規模が異なる中国市場を目指す理由や注目したい市場、そして具体的なスタートアップの方法が把握できたかと思います。
サムライインキュベートでは、日本のイノベーションをスタートアップと共に切り拓いてきた実績を基に、大手企業向けのイノベーション支援事業を提供しています。単なるコンサルティングやアドバイスに止まらずビジョンを共有し、変革に向けて共に挑戦と試行錯誤をし、成果が出るまで伴走します。
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