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涙のROCK断捨離 64.THE_CRANBERRIES「STARS/THE BEST OF 1992-2002」

ザ・クランベリーズ「スターズ」/THE CRANBERRIES「STARS/THE BEST OF 1992-2002」
2002年

ドロレス・オリオーダンという魅力的な女性ボーカリストによって世界的な成功を収めた、アイルランド出身のロックバンドです。
2018年、彼女の死去によりバンド活動は終了しました。

アイルランド出身の女性ボーカリストと言えば、シンニード・オコナ―エンヤが有名です。ザ・コアーズも女性ボーカルが印象的な、ポップセンスに溢れるバンドでした。
バンドでは、なんと言ってもU2がいますし、ブームタウン・ラッツスノウ・パトロールストライプスなどもアイルランド出身ですね。
地理的なものが音楽に影響を与えるということは、実際のところは分かりませんが、やはりあるような気がします。
北欧系ロックは、他の国のロックよりも、温度が低くて湿度が少し高い感じだったり、内省的で人との距離感が少し遠い感じがするのです。
また、ドロレスの歌声に、ケルティックな響きの魅力があると感じるのは私だけでしょうか。

このアルバムは、バンドのデビューから一時活動休止に入る前までに発表された5枚のアルバムからのベスト盤です。
いつものようにCDを聴きながらこれを書いているのですが、同時にアルバムの冊子を見て、やっぱりドロレスに魅かれてしまいます。
いい面構えです。
どの写真を見ても、目線は相手を見下すか、睨みつけるか、無関心であるようによそを向いています。
口は生意気そうに半開きだったり、多くの場合はへの字に曲がっています。
ファッションやヘアースタイルからは、女性的な色香が感じられません。
前の世代で言えばアニー・レノックス、今ならビリー・アイリッシュにも通じるようなエッジです。
このスタイルで恋愛から政治的な内容の歌まで、激しく、優しく、感情をさらけ出すように歌うのですから、これはもう、惚れてまうやろ、というわけです。
バンドの演奏は派手さこそありませんが安定感があり、しっかり彼女の個性をひきたてています。

彼らのデビュー曲「ドリームス」は、日本でもヒットしました。
松嶋菜々子を起用した飲料のCMソングとして使われたり、映画「恋する惑星」でフェイ・ウォンが「夢中人」のタイトルでカバーしたりしたので、
耳にすることが多かったことが要因だと思います。
ただ、「ドリームス」はクランベリーズの一面を表すだけで、全てではありません。
そのポップで美しいメロディが気に入ってファースト・アルバムを買った人は、全体を覆う意外なダークさに離れてしまったでしょうし、硬派なロック・ファンからはオシャレ系ポップ・バンドと誤解されて聴かれもしなかったかもしれません。実に勿体ない。

このベスト・アルバムは彼らの活動の良い時期が上手く総括されています。
ヒットしたデビュー曲はもちろん、初めてのひとにも親しみやすい曲が選曲されていると思います。
個人的には、暗い雰囲気の中にキラリと輝くヒット2曲が入ったファースト・アルバムがお薦めですが、ベスト・アルバム以降に発表された「ローゼズ」は胸に沁みる素晴らしいアルバムでした。
オリジナル・アルバムは8枚しか無いので、できれば、ベスト盤では無く、それぞれを聴いて欲しいアーティストです。

Spotifyで聴けます。
https://open.spotify.com/album/1JXjYl5WVr3wFgV3DMIHMl?si=hJHomM_JTtOZztSPmUQ5Zw

ドロレスの死後、2019年に、彼女の歌うデモ・テープをもとにバンドとしてまとめた、「イン・ジ・エンド」というアルバムが発表されました。
そのジャケットでは、楽器を手にした少年たちの中央で笑顔の少女が手を振っています。
ベスト盤の冊子の写真を見ても分かる通り、デビューからソロ作品も含めて、笑顔で正面を向くドロレスはいないのです。
そういうアーティストだったのです。
あの面構えの彼女とバンドメンバーたちが重なって、涙がこぼれそうになります。


写真の使用許諾に感謝します。
Photo by Diego Jimenez on Unsplash