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T'S BAR 34夜 RUTHER VANDROS
Dance With My Father / RUTHER VANDROS
会社勤めを辞めることになった時、家族で旅行に行きました。
15年くらい前のことで、娘は幼稚園に入ったばかりだったでしょうか。
奮発して海外リゾートに行ったのですが、将来が閉ざされた気がしていた私は、不安と申し訳なさでいっぱいだったせいで気分転換どころではなく、その時のことをほとんど覚えていません。
ただ、夕食のときにバンド演奏が始まって、幼い娘を抱いて踊ったときの幸福感だけは、なんとなく心に残っています。
その娘が、高校を卒業しました。
いろいろ、いろいろ、いろいろありましたが、少しほっとしました。
バラードを歌わせたら天下一品のルーサー・ヴァンドロスさんはR&Bの歌手として知られていますが、若い頃はディビッド・ボウイやユートピアなど、ロック系のアーティストのバック・ボーカルも務めていました。
彼がメジャー・シーンで活躍した90年代、すでに40歳代でしたから、遅咲きの苦労人という感じでしょうか。
この「ダンス・ウィズ・マイ・ファーザー」は、彼が病に倒れた年に発表された作品で、その2年後には54歳で亡くなっています。
私は彼の生きた年を超えましたが、このタイトル曲を聴くと、あの将来への不安で押しつぶされそうな中、屈託なく笑う娘を抱いて踊った夜のことを思い出して泣けてきてしまうのです。
今夜は、この1曲のためだけに、このアルバムです。