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T'S BAR 93夜 FRA LIPPO LIPPI

Small Mercies  /  FRA LIPPO LIPPI

このアルバムが出た頃、美術大学生だった私は、このバンドの名前を英語の教科書の中で見つけていました。
美術大学の教材らしく、ルネッサンス期の画家がテーマになっていたのですが、中身はけっこうゆるいものでした。
バンド名になっているフィリッポ・リッピという画家は、聖人フラ・アンジェリコと同時代を生きた修道士で、なんと有名なボッティチェリの先生だったそうですが、その実、女好きで奔放な人だったようです。
そんな人の名前をバンド名にするなんて変わってるな、と思って興味を持ったのがレコードに手を伸ばした理由でした。

ポスト・パンク、ネオアコなどのジャンルで紹介されることがあるバンドですが、いわゆるギター・ポップではありません。
このアルバムはエレクトリック・ピアノの響きが美しい作品で、画家フィリッポ・リッピのエピソードを感じさせるような俗っぽさもありません。
ビートは刻まれますが機械的で、音圧は弱く、音の密度はスカスカぎみ。
静かで熱量の低い落ち着いた音楽です。

レコードは買ったものの、CDで買い直すほどには思い入れは無かったのですが、Spotify で見つけたので、ずいぶん久しぶりに聴いています。

80年代末には、あのウォルター・ベッカーの力を借りてアルバム制作をしたりもしますが、あまり成果は現れず、出来上がった音は相変わらずな感じでした。
フラ・リッポ・リッピは、まあ、それでいいのです。

ちょっと捉えどころのないバンドで、強くお勧めしたいというわけでも無いのですが、このアルバムの控えめな佇まいは、なんだかずっと心に残っていました。

深い恋愛感情があったわけでもないのになんとなく肌が合って、特別なきっかけも無いのに会うことの無くなった、若い頃のあの優しかった人のような、なんとも変な感じです。