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T'S BAR 29夜 ROXY MUSIC

Manifesto / ROXY MUSIC

多くのケースで、ロキシー・ミュージックの最高傑作は「アヴァロン」である、ということになっています。

この評価について、私も概ね賛同しています。
世界観、楽曲、演奏、録音など、トータル・パッケージとして完成していて、認めないわけにはいきません。

でも、私が魅かれた悪魔的な妖しさや、予定調和を求めない危険な香り、新しい何かが生まれるアートなうねりのようなものは失われました。

良い香りのする瀟洒な海外リゾート。
太陽は沈みかけているものの、まだ空の色は青い部分を残していて、気温は日中の暑さを覚えているまま急激にさめつつある。
「アヴァロン」からは、そんな成功した大人が得られるような空気感を感じてしまい、若かった私は、どこか置いてけぼりをくらったピーターパンのような気分になってしまったのでした。

ロキシー・ミュージックは、ブライアン・フェリーさんというナルシスティックなヴォーカルがスタイルを体現しているバンドですが、実はその音楽性は変化を遂げてきました。
デビュー時は、長髪だったブライアン・イーノさんをはじめとする、各メンバーのエゴがぶつかり合っていて、とても魅力的です。
この頃のアルバムを、これぞロキシー・ミュージックだ、と言う人もいることでしょう。
イーノさんが抜けて、エディ・ジョブソンさんが入ると、演奏がまとまってきて、音楽的になってきます。
一旦、解散するのですが、数年で再結成。
そこで発表されたのが、この「マニフェスト」でした。
再結成後のロキシー・ミュージックは、アート・スクールの学生バンドのような危なさは失われて、スーツで演奏する大人でダンディなバンドに成長(?)します。

10年の活動期間で制作された8枚のスタジオ・アルバムは、それぞれの時期で変化し続けたバンドを表していて、どれが最高なのかは選びにくいです。
(ま、最高傑作をかける店ではありませんし・・・。)

今夜選んだアルバム「マニフェスト」は、リアルタイムで聴いたということで思い入れがあると同時に、バンドの過去と未来をつなぐ過渡期的な作品です。
悪く言えば中途半端でまとまりに欠けるかもしれませんが、曲は良いですし、ロキシー・ミュージックの魅力が程よく詰めあわされていると思うのです。

今の耳にはチープに聴こえる音色も、私のような年のリスナーにはむしろ良しなのです。