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ロシアのクルマ産業5/6
代表的な自動車メーカーКАМАЗ(KAMAZ/カマズ)について。
🚙名前の由来と背景
正式名称は「Камский Автомобильный Завод/Kamskiy Avtomobilnyy Zavod(=カマ自動車工場)」で、頭文字を取って当初の表記はКамАЗ(KamAZ/カマズ)。
工場のロゴには野生の草原馬が描かれている。
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9A%D0%90%D0%9C%D0%90%D0%97#/media/%D0%A4%D0%B0%D0%B9%D0%BB:KAMAZ_Logo.svg
1960年代、ソ連では大量の大型トラックが必要だった。ГАЗ/GAZ(ガズ)やЗИЛ/ZIL(ジル)(※1)の工場で大量の中型トラックが生産されていたが、需要を満たすことができなかった。そこで国は大型トラックの生産に特化した新しい工場の建設を決めた。
※1:ЗИЛ/ZIL(ジル)はロシアの大手自動車メーカー。
🚗ГАЗ/GAZ(ガズ)については、「ロシアのクルマ産業3/6」を参照。
https://note.com/samovar_i_pechka/n/nd3d937026ad3
1969年、新工場の建設がカマ川(※2)沿いで始まった。新工場の名前はこの川に由来する。工場は急ピッチで建設され、国内の2,000を超える企業、各種省庁や機関が建設資材や機器を提供した。建設には10万人もの労働力を動員し、日本を含め様々な国の企業700社以上から最新の設備/機器を購入した。
※2:ヴォルガ川最大の支流で、ロシアのヨーロッパ地域中央に位置している。
工場の建設と同時に、近隣のНабережные Челны(ナーベレジヌイェ・チェルヌイ)市(※3)の開発も積極的に進められた。1970年当時、町の人口は3万8千人だったが、35万人まで増やす計画とした。しかし、1985年に人口は約45万人に達した。
※3:タタールスタン共和国の工業都市。首都カザンに次ぐ第二の都市。
🚙ソ連時代における生産
工場が最初の車両を販売したのは1976年、大型トラックКамАЗ-5320(KamAZ-5320/カマズ5320)である。生産台数は記録的なペースで伸び、1979年には10万台に達した。1988年、トラックの生産台数は100万台を超えた。その頃、КамАЗ(KamAZ/カマズ)製のトラックは国内で約30%を占め、貨物輸送の分野では約60%を占めるまで成長した。
1988年に実施された企業活動の財務・経済調査によると、КамАЗ(KamAZ/カマズ)は操業開始から10年間、経営はかなり順調で約80億ルーブルもの利益を上げた。また同年、設立以来最大の生産台数も記録した(年間12万6千台以上)。
🚙スポーツ業界への参入
1988年、スポーツチームКАМАЗ-мастер(KAMAZ-master/カマズ・マスター)が設立され、ロシアや海外のラリーに参加し、何度も入賞を果たしている。レースではКамАЗ(KamAZ/カマズ)製のトラックを使用し、世界モータースポーツのスポーツトラッククラスでは最も有名なチームの一つである。
https://kamazmaster.ru/team/trucks
🚙小型乗用車への参入
1987年、小型乗用車の組立ラインが開設され、ВАЗ/VAZ(ヴァース)工場で開発された小型乗用車「Ока/Oka(オカ)」の生産が始まった。名前はヴォルガ川最大の支流であるオカ川に由来する。
余談だが、この工場で生産された「Ока/Oka(オカ)」は、一時期「Кама/Kama(カマ)」と呼ばれたこともあったが、これも工場のそばのカマ川に由来している。
https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%9E%D0%BA%D0%B0_(%D0%B0%D0%B2%D1%82%D0%BE%D0%BC%D0%BE%D0%B1%D0%B8%D0%BB%D1%8C)#/media/%D0%A4%D0%B0%D0%B9%D0%BB:SeAZ-11116_(red_colored).jpg
🚗АвтоВАЗ(AvtoVAZ/アフトヴァース)については、「ロシアのクルマ産業2/6」を参照。
https://note.com/samovar_i_pechka/n/n4dfe50f19af9
🚙90年代の危機
1990年、ソ連崩壊に伴い、КамАЗ(KamAZ/カマズ)工場を基にКАМАЗ(KAMAZ/カマズ)会社が設立された。これを機に、社名は大文字の表記となる。
90年代、ロシアの経済危機を背景に、同社の工場は不況に陥り、巨大な生産設備は事実上、停止状態となった。これに伴い、КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)の工業都市であったナーベレジヌイェ・チェルヌイ市は苦境に陥った。
1993年、工場群内のエンジン工場で大規模な火災が発生し、そのほとんどを失った。この影響で、生産台数は約2万台/年まで減少した。
その後、国の支援を受け、エンジンの生産を回復させることができたが、危機的状況は2001年まで続いた。7年間の赤字経営の後、ようやく5,700万ルーブルの利益を上げるに至った。
2003年~、トラックの生産台数が伸び始めた。
2006年、生産台数が約4万台/年に達した。以降、この生産能力は現在までほぼ維持されている。
🚙外国製部品
2000年代以降、同社は共同企業体を設立して外国企業との提携を開始した。これにより、海外製部品が調達できるようになった。
2005年、ドイツの自動車部品製造企業ZF Friedrichshafen AG(ZFフリードリヒスハーフェンAG)社との提携によりギアボックスを共同生産。
2006年、米国のCummins Inc.(カミンズ社)とロシア市場向けに140~300馬力のЕвро-3(Euro-3/ユーロ3)、Евро-4(Euro-4/ユーロ4)、Евро-5(Euro-5/ユーロ5)各標準エンジンを共同生産することで合意。
2007年、ドイツのKnorr-Bremse(クノールブレムゼ)社とブレーキシステムの共同生産で合意。
2008年、米国のFederal Mogul(フェデラル・モーグル)社とエンジン部品の共同生産に合意。
2014年、オーストリアPalfinger AG(パルフィンガーAG)社と、КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)製トラックに搭載するクレーン・マニピュレータの生産について、合同企業を設立することで合意。
2016年、ドイツのDaimler(ダイムラー)社と共同で、キャブ・フレーム生産工場の建設を開始。
🚙外国車の生産
ロシアで外国車を生産するための合弁事業が組織された。
2010年、ドイツのDaimler(ダイムラー)社と共同でMercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)の大型トラック、三菱ふそうの中型トラック「Canter(キャンター)」の生産を開始。
また、イタリアのCNH global(CNHグローバル;現在はCNH Industrial(CNHインダストリアル))社と共同で農業用と道路建設用の機械生産も開始(農業用機械は2年間で1500台を生産)。(なお、2013年には700台のトラクターとコンバインを生産する予定だったが、КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)社が共同事業から撤退し、保有していた株式もCNHに売却した。)
2010~2021年、約2万1千台/年のMercedes(メルセデス)トラックと、約1万1千台/年のふそうトラックを生産。
2015年、中国の自動車メーカーHawtai(華泰)と、中国ではКАМАЗ(KAMAZ/カマズ)トラックを、ロシアではHawtai(華泰)乗用車を生産することで合意。しかしこれは実現せず、2017年に提携も凍結となった(これはHawtai(華泰)社が自国である中国で、ロシアのトラックを生産するためのライセンスが取得できなかったためと思われる)。
2022年、ダイムラー社がロシアでの事業を停止したため、協業終了。
🚙ガスエンジン
КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)工場は操業当初から、トラックだけでなく、トラック用のディーゼルエンジンも生産してきた。また、車両の経済性と環境性能の両面を向上させる取り組みも行ってきた。
80年代半ば、ソ連の科学機関「Научный Автомоторный Институт(НАМИ)」(The Central Scientific Research Automobile and Automotive Engines Institute(NAMI)/ナミ)は、КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)工場と機械製造企業「Ярославский Моторный Завод(ЯМЗ)」(Yaroslavl Motor Plant(YaMZ)/ヤロスラブリ・モーター工場)と協力して、天然ガスとディーゼル燃料を混ぜ合わせるというディーゼルエンジンの改造方法を考案した。天然ガスは安価で、有害な排気ガスも少ない。そのため、ガス・ディーゼル・エンジンは使い勝手(コスパ)が良く、環境負荷も小さくなる見通しだった。1988年、ガス・ディーゼル・エンジンを搭載したトラックモデルがいくつか生産された。
2010年、同工場はガスエンジンを搭載したトラックの生産を開始した。このエンジンは、天然ガスのメタンだけで動く。
ただし、ガスエンジンには以下のようにメリットとデメリットがある。
★メリット
ガス燃料の価格はディーゼル燃料の1/2~1/3。
排気ガス中和システムはメンテナンスが不要。
大気中に排出される有害物質の量も、平均してディーゼル燃料の1/5。
★デメリット
КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)トラックのガス燃料は、200気圧の加圧下で圧縮した液体を、1本80リットルのシリンダー13本に保存する。シリンダーは車体で大きなスペースを取るうえ、燃料補給所の数もディーゼルほど多くない。
ガスエンジンを搭載したトラックのコストは5~10%高い。しかし、製造者側の計算によると、このコスト差は5~6年の運転で回収できるという。
2015年、同工場は最大8,000台/年の生産能力を持つガストラック組立ラインを開設したが、フル稼働には至らなかった。2017年11月までに、ガストラックの生産はわずか1,000台だった。
🚙自動運転トラック
2015年2月、ロシアのIT企業「Cognitive Technologies(コグニティブ・テクノロジーズ)」とКАМАЗ(KAMAZ/カマズ)社は、無人運転トラックの開発で共同プロジェクトの開始を発表した。
2015年秋、量産モデルのКАМАЗ-5350/ KAMAZ-5350(カマズ5350)をベースに、無人運転用の接続部品を搭載した最初のプロトタイプが公開された。
2021年12月、モスクワとサンクトペテルブルク間の高速道路でテスト使用されるトラックモデルの価格が発表された。アダプティブ・クルーズ・コントロールがついたレベル3の自動運転(Conditional Driving Automation)が可能なКАМАЗ-54901/KAMAZ-54901(カマズ54901)の価格は1,450万ルーブルで、自動化されていない同モデル価格の約2倍であった。レベル4の自動運転(High Driving Automation)のКАМАЗ-54907/KAMAZ-54907(カマズ54907)ガストラックの価格は、1,900万ルーブルが予定された。レベル4の自動運転モデルの制御には、運転席にドライバーは必要ないが、路上テスト時には試験エンジニアが運転席に同乗することになっていた。
2022年6月、КАМАЗ-6559/KAMAZ-6559(カマズ6559)の性能を持ちЮпитер 30/Jupiter 30(ジュピター30)と名付けられた、無人の鉱山用ダンプトラックが公開された。この車両は、大型トラックや掘削機の作業が必要な危険区域で、人を介さずに、掘削した岩石や鉱石を運搬するように設計されている。運転席は存在せず、2023年の試験的導入場所としてはケメロヴォ州(※4)の炭鉱が選ばれた。
https://kamaz-bauman.bmstu.ru/%D0%BD%D0%BE%D0%B2%D1%8B%D0%B9-%D0%B1%D0%B5%D1%81%D0%BF%D0%B8%D0%BB%D0%BE%D1%82%D0%BD%D1%8B%D0%B9-%D0%BA%D0%B0%D1%80%D1%8C%D0%B5%D1%80%D0%BD%D1%8B%D0%B9-%D1%81%D0%B0%D0%BC%D0%BE%D1%81%D0%B2%D0%B0/
2023年11月、KAMAZは無人ダンプトラック/Atlant 49(アトラント49)を公開した。炭鉱での運用を想定している。このトラックにはドライバーの状態を監視するシステムがあり、Юпитер 30/Jupiter 30(ジュピター30)のような完全自動運転ではないと思われる。こちらもケメロヴォ州の炭鉱でテストされる予定である。
https://www.tadviser.ru/index.php/%D0%9F%D1%80%D0%BE%D0%B4%D1%83%D0%BA%D1%82:%D0%90%D1%82%D0%BB%D0%B0%D0%BD%D1%82_49_%28%D0%B1%D0%B5%D1%81%D0%BF%D0%B8%D0%BB%D0%BE%D1%82%D0%BD%D1%8B%D0%B9_%D0%B3%D1%80%D1%83%D0%B7%D0%BE%D0%B2%D0%B8%D0%BA%29
※4:シベリア連邦管区にある州。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%A1%E3%83%AD%E3%83%B4%E3%82%A9%E5%B7%9E#/media/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Map_of_Russia_-_Kemerovo_Oblast.svg
🚙現在の状況
КАМАЗ(KAMAZ/カマズ)は現在、ロシア連邦最大の自動車メーカーである。
同社は、社名の由来となったナーベレジヌイェ・チェルヌイ市の工場団地を、またНефтекамск(ネフテカムスク)市(※5)に自動車製造工場НЕФАЗ/NEFAZ(ネファズ=Нефтекамский автомобильный завод/Neftekamsk Automotive Plant/ネフテカムスク自動車工場)を所有している。さらに、ロシア国内と海外数か国に100以上の拠点を有し、ウズベキスタン、アゼルバイジャン、インド、ベトナムに組立工場がある。
※5:バシコルトスタン共和国にある都市、首都ウファからは220 km離れている。
同社は従来、総重量14~40トンの大型トラックが主流であるが、中型トラックも生産している。
生産能力は7万1千台/年である。創業以来、出荷された車両は約240万台である。
2021年、同社の車両はСНГ/ CIS(=旧ソ連構成共和国)、東南アジア、中東、アフリカ、東欧、中南米の50カ国以上に輸出された(同年の車両および組立キットの総輸出台数は5,822台で、このうち46%が完成車、54%が組立キットであった)。輸出による売上高は約230億ルーブルに上った。
2023年、例年の生産台数とほぼ同じ4万1千台以上のトラックを生産した。ロシア市場では例年通り約3万1,000台のトラックが販売された。しかし、この1年間で、トラック販売の市場シェアは大きく落ち込んだ。2022年、シェアは約38%であったが、2023年には22%に低下した。これは、中国製トラックの販売台数が急増したためである(2022年、8万4千台→2023年、14万4千台へ増加)。さらに、2022年には欧米の自動車メーカーがロシア市場から撤退し、新モデル用の部品供給が中断した。これを機に、世界市場には中国の自動車メーカーが登場した。ロシアは海外での大きな市場シェアを失ったものの、国内でのトラック販売台数では首位を維持している。
現在、最新モデルのトラックに使用する部品はロシア製が70~80%、残りは主に中国製である。
引用元:
https://ru.wikipedia.org/wiki/КАМАЗ
https://ru.wikipedia.org/wiki/Набережные_Челны
https://kamaz.ru/about/history/
https://ru.wikipedia.org/wiki/КАМАЗ-мастер
https://ru.wikipedia.org/wiki/Ока_(автомобиль)
https://rostec.ru/content/files/press-release_KAMAZ-Cummins%20Inc.pdf
https://iz.ru/1416730/2022-10-27/daimler-sokhranit-doliu-v-kamaze-posle-ukhoda-mercedes-benz-iz-rossii
https://www.kommersant.ru/doc/2332345
https://daily-motor.ru/autonews/36579
https://www.autowp.ru/kamaz/5320?page=2
https://www.autoopt.ru/articles/products/2565520
https://www.autostat.ru/news/21013/
https://www.tadviser.ru/index.php/Проект:Беспилотный_автомобиль_КамАЗ
https://www.tadviser.ru/index.php/Продукт:КАМАЗ-6559_(Юпитер_30)
https://www.tadviser.ru/index.php/Продукт:Атлант_49_(беспилотный_грузовик)
https://kamaz.ru/about/general-information/
https://www.autostat.ru/press-releases/56570/
https://5koleso.ru/bez-rubriki/prodazhi-kitajskih-gruzovikov-v-rossii-chto-berut-i-pochemu/