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東京農業大学「食と農」の博物館 〜美しき土壌の世界〜
東京農業大学附属「食と農」の博物館の企画展示「美しき土壌の世界」を見に行ってきました。
土壌の展示だけみても恐らく意味不明なので、ギャラリートーク付きの日を狙う。
入口にポスター。わくわく。
時々お友だちの農家さんのとこに援農にも行く家庭菜園好きクラスタとしては土壌について詳しく知りたい、そして、よく聞く黒ボク土が何者なのか、ウクライナの大地はなぜ肥沃なのかを直接専門家の先生に確認したくてやってきました。
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企画展示エリアはこんな感じで土壌を剥がした展示があるだけでやはり意味不明なのでギャラリートーク開始まで博物館附属の温室があったのでそっちへ行く。
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温室は興味深い子たちがたくさん!
目を引いたのは多肉植物の種類の多さと食虫植物たち。
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めちゃくちゃでかいサボテン。
一緒に行ったお友だちの実家でこれを育ててるって言うんでそれもまたびっくり。
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博物ふぇすてぃばるでよく見かけるウツボカズラバックの本物がここに。かわいい。
ちゃんと中に液体もたまってました。
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色んな食虫植物たち。
一番右のハエ取り草は育てたことあるけど長持ちできずに枯らしてしまった。
食虫植物育てるの難しい。
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動物もいて、ワオキツネザルとカメもいました。
カメは寝てたのか動作停止してたけど、試しに息を吹きかけてみたら食べかけのエサをまたモグモグし始めて可愛かった。
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変わった形の魚もいました。
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こんなところに榎本武揚が。
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東京農業大学の前身組織を創ったのが彼とのこと。
私にとって榎本武揚といえば土方歳三と戊辰戦争を戦い、最後まで新政府に抗い、降伏したのち新政府に参与したというイメージしかなかったけど、東京農業大学前身組織の創立者だったとは初めて知った。
そうこうしてるうちにギャラリートーク開始。
まずは初代学長横井先生に関するエピソードから。
左側の幟旗は、東京農業大学の初代学長横井時敬先生が亡くなったときに、足尾銅山鉱害被害にあった被害者の方たちがこの幟旗をもって横井先生のお葬式に参列したときのもの(のレプリカ)。
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足尾銅山といえば、いかりや長介に似たあの田中正造じゃね?と思った方もいるかもですが、田中正造があのような活動ができたのは横井先生あってのことだったとのこと。
もともと足尾銅山のせいで何かおかしなことが起きていると住民の人たちは気づいていたけど、いくら訴えても証拠がないので聞いてもらえなかった。
そこで横井先生が土壌調査を東京帝国大学に依頼して鉱毒の鉱害を科学的に証明。そのとき横井先生はすでに引退済で国に遠慮することなく自由に動けたので、足尾銅山の鉱害について広報活動を行い、それを足がかりにして田中正造が頑張ったというのが経緯らしい。
それは被害者の方々にとって大恩人だなというのも納得。
これは横井先生の名言。
土がどれだけ大事かを説いたもの。
勉強すればするほど土というものがどれだけ人類にとって大事かがよく分かる。
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今回の展示はモノリスと言われる土壌標本を利用したものでした。
これは阿蘇の黒ボク土のモノリスで自由に触れる体験型モノリス。すすきの根っこがそのまま残ってる。
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まずは日本の土壌の説明から。
日本の土壌は
火山灰でできた土壌(黒ボク土)
沖積土
森の土
で全体の9割以上を占める。
これが火山灰でできた土壌で、日本土壌の30%を占める。
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一方で、世界でみると火山灰でできた土壌は1%程度しかないので日本の土壌は世界でみてもかなり特異性があるみたい。
炭素をたくさん含んでいるので見た目は黒い。炭素をたくさん取り込める土というのもひとつの特性。
なぜ黒ボク土と呼ばれるかというと、九州の方言で歩くとボクボクいうとのことで黒ボク土と言うらしい。
九州、関東、東北の太平洋側、北海道の根釧地域にに広く分布していて関西にはあまりない。
ただ、日本は111もの火山があるので火山灰の影響を全く受けてない土地はない。
黒ボク土の性質として、リンを土が吸着してしまうので植物が育ちにくく昔は痩せた土地扱いだったのが、化成肥料としてリンを追加で入れられるようになってからは問題なく農地として使えるようになったとのこと。
大和の民がいたところが黒ボク土がないところに集中してるというのも、収穫量がある程度見込める土地にいたということかもねと先生は言っておりました。
黒ボク土は普通の土地より10倍もリンを入れないといけないので日本のリン投入量は世界一な状況にも関わらず、リンは日本でつくれないので輸入に頼っていて今はモロッコからたくさん輸入してるみたい。
元はアメリカから輸入していたけど輸出してくれなくなり、中国からも輸入していたけどリスクあり、今は世界的にみても埋蔵量の豊富なモロッコと取引しているとのこと。
私たちの根幹となる農作物の、そのまた根幹を成す肥料を輸入に頼るしかない脆弱な状況なんだなというのが改めて分かる。
お次は森の土。
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森の土はどこも似たようなもので、落ち葉がたくさん落ちる有機物豊富な地表は黒く、下は茶色い。
温暖な地域は分解が進むのが早いので、西日本の方が地表の有機物量は少ないとのこと。
お次は沖積土。写真撮り忘れた。
全体的に黄色がかった土壌で、日本でいわゆる肥沃な土地といわれるのがこの沖積土。
川が氾濫して火山灰を流して山の栄養を運びできたのが沖積土なので農作物はよく育つ。
沖積土にまつわる深谷ネギエピソードが面白い。
深谷市の北は沖積土、南は沖積土ではない高台で同じネギの品種で育てているのにあの太い深谷ネギができるのは北側だけ。でも南側も同じ深谷市だからそっちの普通の見た目のネギも深谷ネギと呼びたい。でも、北の人は太くないネギは深谷ネギではないと主張。ということでちょっと揉めてるとの話も聞いた。
日本にある珍しい土壌のポドゾルについても説明してもらった。
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寒い地域の針葉樹林が生えるような土地に特有の土壌。
上層の落ち葉が溜まる有機物層、間に白い土の層、下層に黄色い土の層という構成。
有機物から染み出した酸性の水が土を洗い白くなり、その下には不純物がたまるのでこのような見た目になるみたい。
木を伐採して土壌撹乱しても、植樹して100年ほど経てばまたポドゾルの状態に戻るとのこと。
あとは、ポドゾルの見た目に少し似てるけど形成過程が異なる沖縄のフェイチシャという土壌もあった。
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根っこも入り込めない粘土層の上層に少し柔らかい土があるところに雨が降ると粘土層に雨がしみこみづらいので水浸しになり、水浸しになると鉄分が溶けてそれがしばらく経つと流されて鉄分が抜けるので土が白っぽく見えるというものらしい。
どこでも広く見られるものではなく、ポイントでしか見られないので珍しい土壌とのこと。
見た目は似ているのに形成過程が違うってのがおもろい。
あとは、未熟な若い土壌と年寄りの古い土壌についても説明してもらった。
若い土壌はこれ。
岩石が砕けたままの状態の土壌はまだ「若い」らしい。
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お年寄りの古い土壌はこちら。
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時間が経つと他の成分が流出して鉄分が残るので、含有率の多くなった鉄の錆がオレンジとか赤色に見えるもとになる。
特に火山が少ないエリアは新しく火山灰が供給されないので新しい地層を形成せずに土壌の材料が風化しやすいみたい。
知り合いの農家さんが関西の土は黄色だったり赤っぽいと言ってたのはこういうこと?
他に、温暖化対策に土壌が重要な鍵を握っているという話も聞いた。
地球上の植物全ての炭素量合計よりも、土壌表面30センチの炭素量合計の方が4倍炭素量が多いらしく、この土壌表層30センチにあと0.5%炭素追加すると地球上の炭素を全て入れられるという試算になっているとのこと。
パリ協定でもこの0.5%を土壌に入れていきましょうとなっているらしく、山梨県では果樹の枝を土壌に積極的に入れる活動を行っているみたい。
私もカットした枝、芝生や雑草をプランターの古い土で山積みした上にのせているけど、気がついたら分解されてなくなってるので普通にゴミに出すよりもCO2削減に貢献してたのねと思った。
以下、ギャラリートーク後にした質問。
炭素をたくさんためているという黒い土は炭素を使い果たしたら黒くなくなるのか?
化成肥料を入れると、土壌中の微生物が栄養豊富のため増えすぎて有機物をたくさん分解するので炭素含有量は少なくなる
耕すと空気が入って分解が進んで土中の有機物が減るので耕し過ぎもダメ。微生物の働きをちょうどいい感じにすると土地が肥える
ウクライナにある肥沃な土壌チェルノーゼムの形成過程は?肥沃な土地で作物を育て続けたらそのうちやせてしまうのか?
チェルノーゼムは氷河期にできた。ウクライナのような高緯度地域は冬になると氷河に覆われる地域。氷河期も四季があって、氷河ができたり溶けたりする過程で氷が岩石の表面を削ることがあり、削られた岩石=レスを材料にしてできたのがチェルノーゼム。炭素をよく含むので肥沃。
ウクライナのチェルノーゼムは広大な地域にあるので、適当な感じで作物を自然に育てていれば循環がまわって大地は肥沃なまま。一方で、収穫量を上げるために化成肥料をまくと土中の富栄養化が進み微生物が有機物を分解し過ぎてしまい、土地がやせるということが起きている。化成肥料の使い方で土地がやせてしまう。
疑問に思っていたことが全部解消でき、かつ土壌について新しいことをたくさん知ることができたとてもよい展示でした◎