Rust.1(ヘウン)
好きという感情が
消えちゃえばいいのに、
そう思うことがある
こういう思考になるのは
今回が初めてでは無い
何年、いや十何年も前から
嫌になるくらい何度も考えている
あいつに
イドンヘに心を許す度に
良い奴だな、楽しい、落ち着く、
一緒にいたい、俺はこの男のことが好きだ、と
そう思わされる度に、あの男への好意が
サビみたいにどんどん心にこびりつく
必死に擦って擦って
薄くなったと言い聞かせても
あいつと、日を重ねるとまた
いつのまにか蓄積してしまう
だからその度に
好きなんていう感情は
いっそこの世から消えて
亡くなってしまえばいいと俺は思ってしまう
恐らくこんなことを公言すれば
世界中から猛バッシングされるのは
目に見えている。
有難いことに俺はアイドルで
世界中のファンから
好きだと言ってもらえる存在で、それが仕事で
「好き」が消えてしまえと考えることは
自分を、そしてファンを
否定することと同じだから
もちろん自分にだって沢山好きな物はある
ラーメンは勿論、ダンスもラップも
この仕事だって好きだし、家族のことも好き
でもどれも、アイツに対する好きとは違う
全部ふとした時に思い出しても
苦しくならないし悲しくならないし
明日も好きでいられるだろうか、
なんて考えないし
だからドンヘに対するこの気持ちだけ
このずっとこびり付いて離れない錆だけ
スっと綺麗に消えてしまえばいいのに
「ヒョク!ヒョク!!」
「なんだよ、…煩いな聞こえてるって」
「見て!!ほら!!」
俺の悩みの種は
今日もあの無邪気で人懐っこい犬みたいな、
整った笑顔を近付けてくる
人の気も知らないで酷い男だ
でもまぁ…そんなところも好きなのが
自分でも馬鹿だと思う
「なんだよそれ」
「昨日ジムに行ったらヒョンが……」
そう言ってドンヘの綺麗な目が俺を射抜く
この目に見つめられると本当に困る
吸い込まれてしまうから。
ブラックホールみたいに、目線も心も全部。
「なんだよ…そんなに見るなよ…」
「…ヒョク、なんか元気ない?体調悪い?」
「別に普通だよ。…少し寝不足なだけ
悪いけど現場着くまで少し寝かせて」
精一杯の虚勢を張って目を閉じる
こうでもしないと自分の感情に
溺れてしまいそうだから
「ヒョク、」
もう名前を呼ばないで欲しい
こんな感情消えてほしい
好きなのに冷たくなんてしたくないし
これ以上好きになんてなりたくない
この気持ちを認めたくなんてないし
でも本当は否定なんてしたくない
「ヒョク、泣かないで…」
「……ごめん」
「俺ヒョクに泣かれると、
どうしていいか分からない」
「ごめん、」
好きになってごめん
こんな感情抱いてごめん
正直に言えなくてごめん
好きって伝えられる勇気がなくてごめん
自分に嘘ついてごめん
「ヒョク、俺じゃ力になれない?
俺じゃヒョクのこと助けられない?」
「……分からない」
「…俺の事利用してよ
ヒョクが悲しいと……俺まで悲しいよ」
そう言ってドンヘは泣く。
優しいから俺のために泣くんだ
でもお前のその優しさも
俺にとっては残酷なんだよ
なぁ、今ここで好きって伝えたら
お前はなんて言う?
多分「俺も好きだよ!」って言うと思う
けど俺がここで
手を繋ぎたい、キスしてセックスして
死ぬまでずっと2人で一緒に居たいって
そう伝えたら、お前はなんて言う?
多分、俺の事拒絶すると思うよ。
なぁドンヘ、
俺の好きは、そういう好きなんだよ
違うんだよ俺とお前は
俺の好きはずっと何年も蓄積した
お前への気持ちが積もりに積もって
こびり付いてどんどん汚くなった
そういう好きなんだよ
「ドンヘ、」
「うん?」
「俺のお願い聞いてくれる?」
「うん!ヒョクが元気になってくれるなら
俺なんでも聞く!」
なんでも、か。
ならここで今めちゃくちゃに抱いてくれよ
なんて……そんなこと言えないけど
「…俺のこと世界で1番嫌いになってよ」
「……は?ヒョク、なに言って…」
「なんでも聞いてくれるんだろ
ならもう、俺の事拒絶して。
この世で1番俺の事嫌いになって欲しい」
「……」
俺のこの汚ったない
どうしようも無いサビを
綺麗に剥せるのはお前だけだよドンヘ
「……嫌だよ。俺そんなこと出来ない
ヒョクは……俺の事嫌いなの?」
「嫌いじゃないよ。」
「ならなんで…なんでそんなこと言うの」
「……冗談だよ。眠いから少し寝る
じゃあ着いたら起こして、お願い」
あぁ……
やっぱり好きなんて感情
無くなってしまえばいい。
そしたら今ここでコイツを拒絶して
めちゃくちゃに言い負かして離れられるのに結局昔から俺はこの好きに縛られて
これからも雁字搦めにされてしまうんだ