レンタル彼氏に捕まる話[R-18]
元ネタ曲
元ネタ人 ▶︎ 女風のお兄さん
レンタル彼氏に金を落とし始める日が来ると思わなかった。
見た目が好みだったことで指名した彼だが、とっつきづらそうな外見に反してデートでは荷物を持ってくれることに始まり何もかもエスコートしてくれる彼――玲也(れいや)さんに気付けば夢中になってあの日以来毎月のように会いに行ってしまう。
御歳(おんとし)二十五歳、仕事は充実している。男周りの方はと言えば、必要ないと強がってみてもやはり寂しくなる一方だ。
けれど、いつまでも玲也さんに頼ってばかり居ても意味が無い。両親も高齢で、孫の顔ひとつ見せてやらなければという思いもある。そろそろ彼氏を見付けなければ、と焦る気持ちはあるのだが、玲也さんからのTwitterのDMが愛おしすぎてそれどころじゃない。
でも、私もそろそろ……
「――で、マッチングアプリ久々に始めたんだけど。」
二時間のデート枠も終盤に差し掛かった頃、居酒屋でいい具合に酒が回り始めた私はみかんサワーに口を付けて飲み干した後に玲也さんに打ち明けた。
頬杖をつく玲也さんはにやにやと笑い、私の話に目を細める。
「居ないんだろ。」
「うん、めんどくさいプロフわざと書いたら、めんどくさい陰キャしか残らなかった。」
肩を落とす私を笑いながら、ビールに口を付けてる姿に私はため息を漏らす。
いや、良いのだ、陰キャでも。見た目なんて二の次だし、性格の相性の方が大切なのは分かっている。分かっていても、玲也さんにされるのと、他の男にされるのとでは訳が違うのだ。
口には出さないけれど、玲也さんにいい子と言われれば飛び上がるくらいに嬉しいのに(もちろん素振りは隠すが)、他の男に言われれば私の何をしっているのだと殴り倒したくなる。
けれど、これもそろそろ別の男に移行しなければ。
「あなたはさ、俺みたいな男しか無理なんだよ。分かるでしょ」
大きな手のひらで向かい合ったテーブル越しにがしがしと髪を撫でて乱され、反論したいのにその通り過ぎてぐうの音も出ない。
唇を噛み締める私に、玲也さんは軽やかな笑い声をあげて煙草を口に咥えた。
「てかトイレ行きたいんじゃ無いの。今空いたし行ってくれば。」
「あ、そうだった。行ってくる。」
促されるままハンカチをバッグから抜き取って、席を立ってトイレへと向かった。
玲也さんの笑みに含みがあることなんて、この時はまだ知らなかった。
「飲み過ぎだからラムネ頼んどいたから。それ飲んだら行こう。」
ブルーハワイの様な色合いをした飲み物に私の頭はハテナでいっぱいになる。この店、ラムネなんてあっただろうか。けれど、私が酒を飲んだあとに甘いものが欲しくなる性質をよく知っている玲也さんの気遣いらしいとも感じる。
「ありがとう。払うの私だけどね。」
「ご馳走様でーす」
「うるせえよ」
軽口を叩いて笑いながら肩の当たりを小突き、グラスに口を付けて渇いた喉を満たしてゆく。そのさまをじっと玲也さんに見詰められ、少しばかり気はずかしいのと、
ぐにゃぐにゃと意識がねじ曲がって、瞼が開かなくなる。身体に力が入らなくて、机に突っ伏して、頭のなかには、
「馬鹿だなあ」
玲也さんの声しか、聞こえない。
ふかく、おちてゆく、いしきが
おちて、
おちて
?
瞼を開けると、遠くに見える玲也さんと、見知らぬ空間。私、あのまま寝ちゃったんだ、と思いながら身体を起こそうとすると、かちゃり、と金属の音が鳴る。
状況が飲み込めなくて、ハテナと恐怖が脳みそを埋め尽くす。
「玲也さん、あの……」
意識がはっきりと軸を持ってきたとき、手足にはっきりと冷たい感触が伝わる。その瞬間背筋に寒いものが伝わって、身体中の震えが止まらない。
「お前が逃げようとするから捕まえてあげたんだよ。俺に世話されるなんて本望だろ。」
いつもの笑顔と、しゃがみこんで私に目を合わせる、私の大好きで堪らない顔と声。大好きなはずだったのに、今は怖くて堪らない。
呼吸が早まって涙が浮かんで、涙を拭おうとしたのに腕が枷で繋がれて動かせない。顔を床に向けてぼたぼたと涙を溢れさせる私の髪を強引に掴みあげて、訳が分からない私が玲也さんを睨み付けると、喉から掠れた甘い声を出した。
「可愛いよなあ、自分じゃ何にも出来ねえのにそんな睨んでさあ。」
煙草を口に咥えたまま楽しげに私の喉に右手を当てて、そのまま絞めあげられる。苦しいのに、腹の奥がぎゅんぎゅんと疼いて仕方がない。
ふざけるなと思うのに、涙がとまらなくて、睨み付けることも忘れて喉が詰まって酸素が無くなる感覚が、きもちいい。
こひゅ、と息が漏れて、視界が暗くなる寸前、玲也さんは煙草を私の腕に押し付けながら唇を塞いだ。
――ぬ゙ろぉ゙ ~~ ♡゙ ――
口内に入り込む舌の感触と、皮膚が焼ける感覚に叫び声をあげたいのに首を絞める手のせいで全く声が出せない。視界が歪み出したとき、やっと左手をを離される。一瞬の出来事なのに全身に血が巡り、一気に酸素が取り込まれる体内に脳みそが痺れて止まらない。止まりかけていた心臓が握り潰された後に解放したかのように、大きな音を立てて脈を打つ。
びりびりと電流が身体に流れたような感覚と、怖いのに気持ち良くて、言葉にならない声が止まらない。
こわい。
こわいのに、きもちいい。
脳みその中まで指を入れられて無理くり前頭葉を弄り回されて、興奮する何かを無理に引き出される感覚がきもちいい。
どうしよう、わたし、きもちいいしか考えられない
目を見開いて天井を見上げたまま戻って来れないでいる私の意識を、玲也さんは頬に鋭い痛みを与えて無理矢理呼び戻した。
「分かった?俺は、お前の、ここ、」
指で額をつつかれて、息があがってしまう。
そんな所に触られたら、わたし、
「ここに、直接俺の飼い犬だって覚えさせるから。」
飼い犬、というワードを人差し指で額をつつかれたまま囁かれて、何もされていないはずなのに、きもちよくて、身体も脳みそも芯がとろけてふやけていく。
腰が震えて、とまらなくて、言葉がとけて、声が止まらない。
きもちいい
きもちいい、きもちいい
「分かった?俺のわんちゃん」
がく、がく、と身体を震わせる私の喉元に、また右手が伸びてきて――
玲也くん
レンタル彼氏。夢主ちゃんをぶっ壊したい人
あなた(夢主/ネームレス)
玲也くんを指名したばっかりにぶっ壊されちゃう人