タランティーノと和解した日。ワンハリというバケモノ映画。
クエンティン・タランティーノ監督とはとかく合わないのが私の映画観であった。それをぶち壊したのが「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」である。めちゃくちゃ悔しかったがめちゃくちゃサイコーな映画だった。シャロンテート事件のことを踏まえるとなおのことサイコーな映画だったと思う。
タランティーノとの出会いは「キル・ビル」。他の映画をみているときに繰り返し劇場で流れる予告。印象的な劇伴にのせて、ウマ・サーマンの輝く金髪が血しぶきに濡れる。めちゃくちゃかっこいい!なにこれ!日本刀持ってる!つまり立ち回りがあるぞ!!日本ではR18指定だったが、18歳なりたてホヤホヤ高校3年生の私が、少ない小遣い握りしめてわくわくしながら劇場でチケットを買った。中学高校の6年間、月2〜3本のペースで映画館にみにいっていたが、まあ大人になるとわかる学割の有り難さよ。大人は使えるお金も自由だけどあんまり割引サービスはされない。
びっくりした。バンバンバーン。不思議な歌から始まり、間違ったジャパンが目の前に広がる。急にはさまるアニメーションパート。謎のグロさ。真っ黄色のジャージで日本刀を振り回すウマ・サーマン。ヤッチマイナー!学生服の高橋一生。ゴーゴー・夕張ってなに?源氏名?空を飛ぶルーシー・リューの頭蓋と脳みそ。血塗れの雪を背景に流れる恨み節。てかビル出てこないじゃん。
王道アクション、王道ファンタジー、王道サスペンス・ミステリーばかりをみていた学生時代の私には、繰り広げられるタランティーノ節についていくことができなかった。割引でみてなかったらキレてるわ!と半ギレで帰ったし、2はみないと心に決めた。でも続きはやっぱり気になるのでDVDでみたら、なんか普通のつくりやんけ!?なんでや!1と同じぐらいぶっ飛んどけや!とまたちょっとキレた。ちなみに25歳を超えてもう一度「キル・ビル1」をみたら意外と面白かったし、タランティーノ監督がやりたかったことがなんとなくわかってしまってそれはそれで悔しかった。とにかく、こういう映画をみなれていなかった当時の私は、タランティーノとは決別したのである。勝手に。
その後も、いつか和解できるのではないか?と、懲りずに時々目につけばタランティーノ作品をみた。「イングロリアスバスターズ」「ヘイトフル・エイト」…やっぱり仲良くなれなかった。なんとなく悔しくて何度か思い出してはみた「キル・ビル」だけはちょっと理解できたが、やっぱりタランティーノとは仲良くなれないんだな…と思った。同じようなニュアンスで語られる監督なら、ロバート・ロドリゲスのほうが好みだった。マリアッチシリーズとかシン・シティとか結構好き。
そんな私は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」もまた予告がうまい類の映画だろうさと決め付けていた。ところがどっこい、漏れ聞く話でブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオの怪演ぶりがやばい、シャロンテート事件がどうたら、うんぬんかんぬん。おやおや?と思った。なんだか私に刺さりそう。今度こそ和解できるのでは?と。
刺さった。ぶっ刺さった。お、おもしろ!!とみてる途中で声が出た。レオ様とブラピの怪演に、そうだこの人たちすげえ役者だった、と改めて思い知らされた。それにしてもブラピはいくつになってもまじカッケーしレオ様はどんどんジャック・ニコルソンに似てくるな。駐車場のところの看板シャイニングかと思った。そっちはユアン・マクレガーだ。
落ちぶれた役者の悲哀と葛藤。大の大人がふと救われて泣きじゃくる瞬間。ちょっとぶっ飛んだ相棒。共依存のようなその相棒との関係。ブロマンス要素と成功と挫折、そこにじわりと忍び寄る、マンソンファミリーという現実世界の影。頭を過ぎるシャロンテート事件。そこからの、ブラピのあの立ち回りとここで出てくるレオ様の火炎放射器、そして隣家とのオチ。最後急に現れるタランティーノ的血みどろアクションも、ここでは場が引き締まるし何より効果的に派手な見せ場だった。文句なしにかっこいい。アクションはかっこよくてなんぼのシーンだ。メリハリがあってこそ引き立つ。
ラリったブラピの鬼のような強さ。レオ様のどこか憎めないおじさん役者の溢れ出る人間味。テンポの良い展開。そしてラストに向けてだんだんリンクする実際の事件。何度思い返して整理しても、キャラクター作りも脚本もあまりに天才的じゃないかと思った。こんなのズルい。タランティーノと和解した瞬間だった。勝手に。
マンソンファミリーのことやシャロンテート事件を知っていれば、後半に流れる緊迫感はより増しただろう。知らなくても映画として楽しめる。あの現実の残忍な事件の結末とは異なる映画の結末について、私は偉そうに語る言葉を持たないので黙しておく。何が言いたかったのか、いつかタランティーノ監督が自分の言葉で伝えてくれるのを待ちたいが、例えば祈りのような、そんな感情なんじゃないかな。
納得のアカデミー主演男優賞&作品賞ノミネート、助演男優賞受賞だ。主演はね、JOKERって化け物映画にホアキンって化け物役者が揃っちゃったし、何よりワンハリって映画のことを考えたとき、「助演」を取ることの意味ってめちゃくちゃドラマチックじゃない?