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『鵞鳥湖の夜』視覚的・聴覚的ケレンミの追求

9/25 ヒューマントラストシネマ有楽町

チャイニーズ・フィルム・ノワール『鵞鳥湖の夜』は視覚的・聴覚的なケレンミを追求した作品だ。

黒澤明『羅生門』を彷彿とさせる、降りしきる雨の中で会合する二人の男女。

煙草を二本咥える水浴嬢。

暗闇の中の動物園での銃撃戦。

バイク走行中に突然吹っ飛ぶ首。

傘の内側に飛び散る血。

劇的に鳴り響く雷。

物量感的な重みを感じさせる、スタイリッシュで乾いたアクションシークエンス。

そしてあのキメにキメたライティング演出――。

『鵞鳥湖の夜』はとにかく、観たことのない「画」と「編集」に満ちている。「誰も観たことのないものを観せよう」という作り手たちの圧倒的な熱量を感じる。その代わり、物語それ自体は至って陳腐だし、正直言うとあまりスマートな語り口ではない。「語り」と「演出」がバッチリとハマっているときもあれば、そうでないときもある。「語りの経済性」よりも映画的な「ケレンミ」を優先させた結果であろう。

粗削りではある。監督の前作『薄氷の殺人』の方が総合的な完成度で言えば上であると思う。しかし、その粗削りの部分が今作の魅力としても機能していると思う。「『語り』を『ケレン』で圧倒してやる」。そんな強い意志を感じる。

「お兄さん、火貸して」

今の時代、こんなセリフを恥ずかしげもなく言ってみせる映画はこれのほかにないだろう。「陳腐」だが「斬新」、いや「陳腐」だからこそ「斬新」? とにかく何もかもが新しかった。北野武が出てきた時もこんな印象だったのだろうか。

『語り』と『演出』が合致したとき、どんな怪物的傑作が生まれるのか。ディアオ・イーアン監督の次回作にも期待したい。