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世界で一番タコを食べているのは日本人なのか?

「世界で獲れるタコの6割は日本人が消費している」という説は本当なのか?

食材の「タコ」についてネットで調べていると、何度も登場するのが「日本はタコの消費量世界一」「水揚げされるタコの6割が日本で消費されている」という話。2023年11月現在も、こう言っていいのかざっくりと裏どりしてみたところ、実際は違っていたのですが、全く仕事に役立たなかったので、ここで供養します。

単純に考えて、まず2022年の国内水揚げ量と、輸入量を調べてその合計を(A)とし、世界全体の水揚げ量を探してその数字を(B)とし、(A)が(B)の6割になっているかどうかだな、と作業のゴールを定めてスタートします。
タコと一口で言っても、日本で食材として流通しているタコは「マダコ」「ミズダコ」「イイダコ」「テナガダコ」など複数あります。また、世界中には300種類以上のタコがいて、地域によって食用タコの種類は色々なので、国内の水揚げ量は「タコ類全体」、世界全体の水揚げ量を探す際は「octopus全体」の数字を探します。

まずは2022年(令和4年)の国内のタコ類漁獲量は22,200t。下記の統計を見ると、約50年間で80%近く減っています。サンマ、スルメイカに続く不漁っぷり。

令和4年漁業・養殖業生産統計(農林水産省)https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/attach/pdf/index-49.pdf

タコ類の輸入量については、
34137t(農林水産省 農林水産物輸出入情報・概況 2022年確報)
という数字が見つかりました。
国別で見ると
モーリタリア 9869t
モロッコ8534t
中国 6732t
ベトナム 5376t
(小数点以下は切り捨て)
(貿易統計2022年より)
以上が上位4カ国。元々はモロッコ・モーリタリアからの輸入がほとんどだったのが、近年スペインなどヨーロッパでの消費量が増え買い占められてしまった&西アフリカ沖のタコ不漁が重なり、中国やベトナム産のマダコ、岩ダコの輸入量が増えています。

と言うことで、2022年国内で消費されたタコ類の合計は56,337tとなりました。
ここまで書いて気づきましたが、日本から海外に輸出した数字は調べていない・・・まあ日本で消費されるのが大半だろうと見越してその数字は含めないことにします。

次に海外全体の水揚げ量。FAOSTATを見てみると、最新データは2021年で、2022年は残念ながらまだアップされていなかった。以下書き出すと、
タコの生産量(1000トン以上の国)
ブラジル 1700
チリ   2089
中国  106297
フランス 5117
ガンビア 1618
ギリシャ 2696
インド  12743
インドネシア 19098
イタリア   5754
日本     27100
韓国     19049
モーリタニア  27277
メキシコ    37386
モロッコ    63541
ペルー     1151
フィリピン   2820
ポルトガル   6803
セネガル    8809
スペイン    6299
タンザニア   3172
タイ      7739
チュニジア   2715
計      370,973t
※なぜかFaostatにベトナムの数字が含まれていません。なぜ?日本に輸出しているくらいだからかなり獲っているはずなのに。

FAOATAT Global capture production Quantity (1950 - 2021)より一部をスクショ
FAOSTAT Global capture production Quantity (1950 - 2021)より一部をスクショ

ということで、国内消費量は2022年の数字で、世界全体の漁獲量は2021年の数字なので本来一緒にしちゃいけないのですが、でもそれにしても、37万トンの6割といったら22万トンなくちゃいけないのですが、日本の消費量5-6万トンの消費では「世界の6割」とは言えないのでは?となりました。

一点気掛かりなのは、上記のFAOSTATの検索において、ISSCAAPの分類だと「Squids, cuttlefishes, octopuses」とイカ類と一緒になっちゃっているので、そっちは諦めて、「octopus」の名前がつく全てを検索したこと。(上記の検索窓参照)54種類あり、「Patagonian giant octopus」などはパタゴニア沖にいそうだけど、「Old woman octopus」とか、ええ〜?て名前もあって、タコに似ているけどタコじゃないタコもどきが含まれている可能性も。(Old woman octopusは実際にインド洋に生息しているタコと確認済み)

まあ、ともあれ、世界の6割っていうのはないよな〜と思ったのですが、さらに衝撃的なレポートをFAOの記事で発見しました。

タコはいくつかの市場で人気が高まっているが、供給には問題がある。近年は漁獲量が減少しており、限られた供給量が価格を押し上げている。ルヌーブ・リサーチが2020年に発表したレポートでは、タコの世界市場は2025年までに625,000トン近くまで成長すると予測されている。しかし、タコの世界生産量はそれとは程遠い。2021年に水揚げされたタコ(全種)の総量は約375,000トンである。2020年のタコ(全品種)の輸出総量はわずか283 577トンで、2019年から11.8%減少した。タコ部門で最も重要な国は、長年にわたってかなり一貫している。中国が圧倒的に最大の生産国で、2021年には106 300トン、水揚げ総量の28%を占めている。その他の重要な生産国はモロッコ、メキシコ、モーリタニアで、漁獲量はそれぞれ63 541トン、37 386トン、27 277トンである。2020年の最大のタコ輸出国は、モロッコ(50 943トン、4億3800万米ドル相当)、中国(48 456トン、4億400万米ドル相当)、モーリタニア(36 419トン、2億5300万米ドル相当)である。2020年のタコの最大輸入国は韓国(72 294トン)、スペイン(49 970トン)、日本(44 873トン)であった。
国際貿易
日本のタコの輸入は、価格高騰のため2016年以降激減している。2016年、日本は56 534トンを輸入したが、2020年には44 873トン、2021年にはさらに33 740トンまで減少した。2022年、日本のタコ輸入量は再び増加し、38 333トンとなった。
日本への最大の供給国は中国で、2022年には9,674トン(2021年比3.9%減)、モーリタニア(8,442トン、11.1%増)、ベトナム(8,180トン、39.1%増)であった。韓国も2022年の輸入量が減少した。タコの輸入量は2021年の73 157トンから2022年には65 380トン(10.6%減)となった。最大の供給国はすべて韓国への出荷量が減少した: 中国は15. 1%減の27 275トン、ベトナムは15.2%減の24 646トン、タイは4.9%減の5 947トンである。

FAO/globefish2023.5より 一部を自動翻訳したもの

このレポートでいくつかの数字の答え合わせができたのですが、まず「2021年に水揚げされたタコ(全種)の総量は約375,000トン」とあるので、私が統計から引っ張り出した約37万トンという数字は間違っていなかったなということ。そして日本のタコ輸入量が、ちょっと違うのは残念ですが、ここはこれ以上掘るのはやめます。
そしてそして!このレポートで一番衝撃的だったのが、「2020年のタコの最大輸入国は韓国(72 294トン)、スペイン(49 970トン)、日本(44 873トン)」という部分なんですが、タコの輸入量、韓国とスペインに抜かれている!!色々調べて読んでみると、コロナ前のスペインでは観光客相手の地中海料理の食材としてタコがそれこそ引っ張りダコだったそうで・・・。一方の韓国は、タコの踊り食い需要?いや、それだけじゃないよな。。。

というわけで、私が調べた限り「日本はタコの消費量世界一で、世界の6割のタコを消費している」という言い回しは正確ではない、と言えます。

あと、タコについての慣用句的なものに「欧米ではデビルフィッシュと呼ばれて地中海沿岸を除き忌み嫌われている」という言い回しがありますが、これについては、以下のサイトに興味ぶかい記事がありました。

確かにここんとこ、世界各国にTakoyakiブームが巻き起こっているらしい(ちょっと大げさ?)し、タコを食べたことがある人は増えているでしょうね。こういうネット上の慣用句を何も考えずに使う人にはなりたくないとつくづく思います。
以上です。

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