初めてのキャバクラ
あれはもう数十年も前の話。
今よりは、もう少しだけまだピュアだった頃。
覚えたてのお酒を、味わうよりは酔っぱらうための道具として
使うような、そんな頃。
男だけで集まって、遊ぶといえば居酒屋に行くことくらい。
中学生の時みたいに、TVゲームで遊んだりはできなくなったのかとしみじみ。
その日も、いつもの悪友Tと居酒屋でくだらない話をして過ごしていた。
Tは大学進学で都会に出てから、いろんな経験を積んだらしい。
どういった流れでそうなったかは、もうすでに忘れてしまったが
「この後、キャバクラ行かね?」と誘われた。
偏った知識しか持ち合わせていなかった当時の私は
「こんな片田舎のキャバクラで出てくる女性は、母親くらいの年齢の女性だろう
もしくは、すごくぼったくられて身ぐるみはがされて路上に捨て置かれる」
と恐怖でおののいていた。
しかし、好奇心と下心には勝てず、Tが慣れた足取りで入っていく無料案内所についていった。
そこで案内されたお店に行くこととした。
店舗は2階にあった。階段を一歩一歩上るたびに、心臓が早く打つ。
店舗入り口に立った時には、フルマラソン後くらいの心拍数だったのではないか。
しかも、こういうお店の入り口ドアは重厚で中の様子が見えない。
初心者にはハードルが高い。
漏れ聞こえてくる音楽と嬌声。
恐る恐るドアを開けると、一気に流れ込んでくる音、人の声、熱、アルコールと香水の匂い。
ボーイさんに促されるまま着席したが、落ち着かない。
きょろきょろと辺りを見回し、逃走経路(不当な会計を請求された時に備え)を探す。正面にある窓は飾りだ、外から見たときに壁だったもの。
終始落ち着かない様子だった。そして席に女性が来た。我々2人に対し2人。
今となっては、どんな女性だったか、微塵も覚えていない、残念ながら。
初めてのキャバクラ体験で、なにを話したらいいかわからず、しどろもどろだったように思う。Tはそれなりに会話し、時折スキンシップなどもして楽しんでいた。
あっという間の時間だった。サクッと1時間ほどで切り上げた。
私の”初めてのキャバクラ体験”はあっけなく終わった。
帰り道、ろくにしゃべれなかった私に、Tは言った。
「ああいう店でかっこつけてもしょうがないよ。
バカになったもん勝ちじゃね!?」
これは確かに、そうだと思う。
それから、この言葉は呪詛のように、いやお守りのように
私の心にこびりついている。
「遊ぶときは遊ぶ」