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忘れたとは言わせねぇぜ!?「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」


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またこんな邦題付けて!!!
許しませんよ!!

原題は「ドン・キホーテを殺した男」。
これを念頭に入れて観ないと、おそらく翻弄されて途中で寝るだろうね。
だって念頭に入れてた奴ですら途中危うかったからな!!!


これは自分のスタンスの話だが、映画や演劇、アニメなんかの表現や物語に触れる時は、極力、「この監督はこういう作風だから〜」とか「この俳優はこんなイメージだから〜」といったような一種のメタ的思考は排除するようにしている。
その方が純粋に楽しめる気がするからだ。
(もちろん観賞後には色々リサーチする。これも醍醐味の1つ。)

だが、何事にも例外はある。
事前にある程度の情報を把握していないと、面白味に欠けるような映画も存在する。
それがコイツだ。

完成まで約30年!
企画頓挫9回!

そのあまりの呪われた製作過程により、監督自身にも「もう一生完成しないと思ってたよ!」と言わしめた、
誕生日に欲しい物を買ってもらえないダダっ子よりも諦めが悪い、不死鳥と言えば聞こえは良いけどここまでくると細胞1つからでも再生する特殊な生命体の様な映画「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」だ。

というかこの製作過程は、生まれる事なく消えて行った他の映画のためにも、色々な方々に見習って貰いたいですね。


▼概要

仕事への情熱を失くしたCM監督のトビーは、スペインの田舎で撮影中のある日、謎めいた男からDVDを渡される。偶然か運命か、それはトビーが学生時代に監督し、賞に輝いた映画『ドン・キホーテを殺した男』だった。
舞台となった村が程近いと知ったトビーはバイクを飛ばすが、映画のせいで人々は変わり果てていた。ドン・キホーテを演じた靴職人の老人は、自分は本物の騎士だと信じ込み、清楚な少女だったアンジェリカは女優になると村を飛び出したのだ。
トビーのことを忠実な従者のサンチョだと思い込んだ老人は、無理やりトビーを引き連れて、大冒険の旅へと出発するのだが──。
(公式サイトより引用)

▼感想


・そもそもテリー・ギリアムって誰?
「今時タイトルの前に所有格付けるのなんてダッサ~い!小学生までだよね~!」と思う若人たちもいるかと思うが、一昔前はタイトルの前に監督の名前付けるのがデフォルトだった時代もあるのよ。

つまり、テリー・ギリアムはこの映画の監督である。
代表作は「12モンキーズ」や「未来世紀ブラジル」等。
レンタルビデオ屋のSFコーナーに行くと、だいたい1本はテリー・ギリアムを推していたりするので、作品自体は目にしたことがあるだろう。
「12モンキーズ」はブルース・ウィルスや、ワンハリで助演男優賞を獲ったブラッド・ピットが出ているので、テリー・ギリアム初心者にはオススメだ。

作風はというと、現実と非現実、事実と妄想の境目が段々と曖昧になっていく作りが一貫されていると思う。
つまり、パッと見で目の前で夢の様なことが起きていても現実だったりするのが、テリー・ギリアムの世界観である。

斬新なアイデアや奇抜なものに惹かれる人は、テリー・ギリアムが合うかもしれない。

・どこまで行くんだアダム・ドライバー。
カイロ・レンの揺れ浮くパワー系厨二病ティーンエイジャーのようなイメージも去ることながら、「ブラック・クランズマン」の潜入捜査中の極限まで緊迫した演技、「マリッジ・ストーリー」での不器用な父親の悲哀と愛情に満ちた演技…等々、その演技力で魅力を発揮しまくって、今や身長180cmの男性が生まれ変わってみたい漢No.1の座に輝いているアダム・ドライバー。
異世界転生モノが苦手な俺でも、アダム・ドライバーが異世界行くなら絶対見るもんね。

そんなアダム・ドライバーだが、今作でも全力でアダムをドライバーしている。

見るアダム。

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キスするアダム。

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踊るアダム。


他にもまだまだあるぞ!
アダム・ドライバーファンにとっては過剰摂取で死ぬかもしれない。
今作は、まさにアダム・ドライバーの終身保険といえる。(?)

・ちゃんとした感想
正直、予告で煽りすぎてるかなって思った。
製作過程が呪われているだけで、本編は真っ当なテリー・ギリアム。
ちゃんと面白いです。

ドン・キホーテをしっかり理解していなくても大丈夫。
「本の物語に影響されて、現実でも本に書かれてる事やっちゃうおじさんの話」くらいの認識で問題なかったし、その根幹がテーマでもある。

ちなみにサクッと分かるドン・キホーテのあらすじは、これが分かりやすい。


何者でも無かったオッサンが、フィクション上ではあるが「役目」を与えられて尊大さを取り戻し、逆に「役目」を与えたオッサンは、何者かにはなれているがその尊大さを失いつつある…という主演2人の構図が良いですね。
まだ情熱と自信に満ちていた若かった頃の自分が、現代にタイムスリップしてきて今の自分を叱咤するような。
ただちょっと気恥ずかしいような。
過去からの自分にエールを貰うような。
そして今の自分も、忘れていた「我」を取り戻し、前に進めるようになる。
そんな関係性にも似た2人が行動していくだけで、観ている側は勇気づけられるよ。

誰だって、大人になっていくに連れて昔の夢を諦めたりするじゃないですか。
「プロ野球選手になる」「アイドルになる」「ウルトラマンになる」とか。
始めは夢に向かって突き進んでいくけど、次第に、才能、環境、努力、運…色々な理由を付けて、折れてしまう。みんな、憧れていたものに蓋をする。見ないようにする。忘れたい記憶にしてしまう。どこかで妥協点を見つけてしまう。
そうした時、周りからは「大人になったね」なんて言われる。
理想と現実の分別が付いたと。お前は正しいと。
確かに、社会に適合できるようにはなる。
が、そうなったら得てして、昔ほど、物事に情熱を注げなくなるものだ。
自我が無くなると言っても過言じゃない。
そうして満たされないまま生きていき、死ぬ間際に諦めた夢を思い出しながら死んでいく。

夢を諦めずに現実を無視して突き進めとは言わない。
ただ、捨て去って忘れて良い物ではない。
そこに掛けた情熱や信念は紛れもなくホンモノで、確実に財産になっているからだ。

アダム・ドライバー演じるトビーは、目標へ辿り着く事の出来なかった、全ての人の代弁者だ。
そしてこの物語は、彼が「諦めた自分」と向き合い、再び何者かになるために前へ進んでいく物語だ。

ラストの結末は「悲しい」という感想が多いけども、僕はこんな風に前向きなものとして感じました。

……と、ちょっと真面目な口調になったけども、本編はとてもポップだから安心してほしい。説教臭い社会派映画なんかじゃないから。
ギャグもあからさまで笑いやすいし。(踊るアダムドライバーは筆頭として、スタンガンババアなんかも大好き)

「我」を持ち続けるのが厳しい社会になってきた今日この頃。
普段から我を出し過ぎるとイカレた奴だが、決して棄てるようなことはしてはならない。
誰にでも忘れちゃいけない騎士道があるはず。

そして何より、監督自身がその大切さを証明している。
30年間もの間、諦めてなかった。
9回失敗しても、諦めてなかった。
そんなオッサンが「夢はいつか叶うんだぜ!」って言ってるんだから、そうなのだ。
ドリカムよりも説得力があるぜ。

もちろん、今からじゃ叶えられないような夢もある。社会人になってからプロ野球選手を目指そうとも、もう間に合わない。
ただ、夢を追っていた自分を忘れてはならない。
そういう騎士道は捨ててはならない。
自分が生きていると実感するためにも、曲げられない騎士道は必要なのだ。

79歳のオッサンがそう言ってんだ!
俺も黒歴史に蓋をしないで生きる事にするよ!!
ありがとう!テリーギリアム!!!!!

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