-オトメン-
アラサーと呼ばれる歳の頃、5歳くらい年下の男の子とお付き合いをしたことがある。
ブログを毎日更新できるほど婚活真っ最中だったその頃、結婚前提目線(外見の優先度は低め)でランク付けをすると、大手シンクタンクに勤める彼は、一見上位ランクだった。
だが、これまで付き合ってきたどの男性よりも面倒な男だった。
もともと相手の外見にはさしてこだわらない私だが、彼は彼自身の外見に相当なコンプレックスを持っていた。
まるで、そのコンプレックスを纏う鎧のように、企業ブランド(年収)を前面に押し出してきているようでもあった。
確かに、婚活女子を釣るには有効な手段の一つではある。
きっと私も、それに目が眩んだ女の一人だ。
私たちは街コンで2対2で知り合い、その場で連絡先を交換した後、すぐに友人が彼とデートをすることになった。
私は彼の友人の方が気になってはいたがこちらは何も進展せず、彼とデートが決まった友人を祝福する側だった。
しかし、友人とのそのデートは、彼が私の気持ちや好みなどをリサーチするためのものであったと、デート直後の友人からすごい剣幕で報告された。
長身であり、秘書という職業柄、華やかな印象を持たれることが多かった当時の私には、自分が不釣り合いではないかと相談をされたと言う。
そこで彼の気持ちを知ることになり、私も彼のことを意識するようになる。
でもそんな男、面倒なことになるってわかってたよね。
そしてそれは、想像を遥かに超えるものだった。
彼は女性経験が決して豊富なわけではないが、女友達はそこそこにいた。
同期の女子会に、一人彼が混じるのも当たり前な純粋なお友達。
「女子かっ!」って突っ込みたくなるところは沢山あったが、その女々しさは女以上だったと思う。
絵文字がふんだんにあしらわれた長文メール、おはようからおやすみまで監視されているかのような連絡量、放っておけばあらぬ嫌疑をかけられ、不穏な空気が漂うとすぐに駆け付けられる。
デート予定だった週末、私が風邪をひいて会えないことを伝えると、「俺は気にしないから」と甲斐甲斐しく看病をする彼に、私をゆっくり寝かせるという考えは浮かばない。
「会いたくないの?」の質問に正直に会いたくないなんて答えても、会わないという選択肢は絶対に与えられないのだ。
比較的初期の段階で、私が寝ている間に私の携帯を覗かれた。
会えない日が続くと、私が身に着けていた衣類の匂いを嗅いでいたらしい。
私がブログをしていると知って、来る日も来る日も検索に検索を重ね、とうとう私の読者から私のブログにまで辿り着いた。
過去の恋愛遍歴を非難される日々の始まり。
彼の機嫌を伺いながら彼とのラブラブぶりしか発信できなくなった私は、それまで数年続けてきていたブログを閉鎖することになった。
彼の部屋に置いていたお気に入りのブランド服や化粧品を撤退させようとすると、目ざとい彼はすぐに気付き、失敗に終わった。
いい加減うんざりして彼から逃げることばかり考えるようになったある日、私のボスに彼からメールが送られてきた。
私と付き合っているという自分の存在を、彼と同じ出身校である私のボスにアピールしてきたのだ。
外堀から埋めていこうと考えたのか、その浅はかな計画がもちろんボスに通用するわけもなく、ますます私の気持ちを彼から遠ざけた。
別れ話をしてもすぐに別れられるわけもなく、私が会社から出ると目の前に彼がいた時には血の気が引いた。
横浜からその時間にそこまで来れるって、仕事すら放棄してきたのか。
最後まで、自分と付き合うメリットとして年収ステータスを懇々と言い聞かせてくる彼は、結婚相手の有力候補から、もはや勘違いストーカーに成り下がっていた。
友人から防犯ブザーを携帯させられ、しばらくは彼の影に怯えていたが、それもすぐに次の彼氏ができたことで簡単に払拭されることとなる。
彼の部屋に置いていた私の物は、私の元に戻ってくることはなかった。
私に幸あれ。