-オトナの階段-
上京したての頃、出会い系で彼氏が出来た。
飲食店を経営している彼は、新しい店舗の候補地だったり、店内の装飾やインテリアの下見だったりと、色んなお店に連れて行ってくれた。
開店時間の予約で行くと、スタッフの方が総出で出迎えてくれたお店で、この日の記念に、とキーホルダーにされたワインのコルクをもらえた時には、また一つオトナの階段を上った気がした。
彼との夜は長かった。
終わったばかりだというのに、すぐに次が始まる。
セックスを覚えたての頃は、サルみたいにヤッていたものだが、大人になってあれほど元気だったのは、今のところ彼以外に知らない。
東京に引っ越した時に私は、一人暮らしのくせに6ドアの大型冷蔵庫を新調していた。
その代わりになかったテレビを、彼がプレゼントしてくれた。
テレビを観ながら食事をすると、
「二人の会話が減るね」
と言って、次に部屋に来る時には、BOSEのCDプレイヤーをプレゼントしてくれた。
社長の彼氏と、物質的にも充実した東京ライフ。
楽しいばかりの日々なんて、そう長くは続かない。
その頃、私の携帯に無言電話がかかってきていた。
こういうことがある時に、
「間違い電話かな」
で終わらないのが私の人生だ。
思い当たる節がある。
私は、彼の部屋にお呼ばれしたことがない。
1Kの私の狭い部屋より、彼の部屋の方がもっとずっと快適だろうと提案しても、従業員の寮みたいになっているからと断られていた。
彼はきっと結婚していた。
友人から、それは怪しすぎる!と指摘され、メールで詰めると関係は終わった。
他に好きな人ができたわけでもない恋の終わり。
しばらくは彼を想う日もあったが、それも長くは続かなかった。
新しい恋はいつもすぐそこにある。
私に幸あれ。