-禁じられた遊び-
罪悪感というのは、時として極上の快楽を私たちにもたらす。
秘密の共有。
赦されない関係。
望めない未来。
禁じられたらつい手を伸ばしたくなるのが人間の性なのだ。
「不倫」という意識もなく、いわゆるそれをしたことがある。
相手は、アルバイト先の社員だった。
年の差は、一回り程離れていたか。
私は、ビルの一階に設けられた店舗に勤務していたのだが、営業の彼は、駐車場に繋がるその店舗によく顔を出していた。
彼が私がいない時はあまり店舗に来ないことを一緒に勤務する先輩から聞き、私のいたずら心に火が点いた。
彼に会えば、ことあるごとに彼に気がある言動を忍ばせる。
単純な彼は、舞い上がっていることを隠すこともできない。
からかってキスをしたら、絵に描いたように顔を赤らめ、「覚えていろよっ!」と逃げるように駐車場へ向かった。
彼に惹かれるような「大人の魅力」なんてのは全くなく、反応がわかりやすくて面白くて仕方がなかった。
その内、彼は外回りをサボっては、私の部屋で朝から夕方まで過ごすようになった。
不思議なことに、その期間の彼の営業成績はいつにも増して順調で、彼は私をアゲマンに仕立て上げ、仕組まれた感情を勝手に加速させた。
彼は時々、仕事終わりにストリートをしていて、彼作詞作曲の歌をいただいたことがある。
会えない間も気付けば私のことを想っている、的なありきたりの内容だったが、一生懸命な想いをプレゼントされるのは、まぁ悪くない。
彼と会えない週末は寂しい。
なぁんて感傷に耽ることもなく、悪いことをしているんだという自覚は多少なりともあったものの、その状況をスリルとして純粋に楽しんでいた。
社屋で人目を盗んでするキスは、とても高揚したのを覚えている。
ある週末、店舗に彼が来た。
店舗は、営業や事務が休みの日も営業していて、私の勤務日は彼も把握している。
そこに、休みの彼が「近くに来たから」と予告なしに訪れた。
奥さんと子どもを連れて。
いつも、いつでも、私に翻弄されている自分が悔しくて、私より優位に立てる要素を見せつけに来たわけだ。
私への当てつけだろう。
彼はきっと私に嫉妬してほしかったのだ。
残念。
私、そんなにあなたのこと好きぢゃない。
「先に出会った方が偉いの?!」
なんて言葉、吐いてみたかった。
私に幸あれ。