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-セックスアピール-

クジャクは、色鮮やかな飾り羽を扇状に広げて振動させることで、雌へ求愛する。

その際、羽の中で一際目立つ玉虫色の目のような形の模様はほとんど動いておらず、正に相手をじっと見つめているようだ。

この目が、雌を誘う際に有効に働いているとする研究論文もある。

真っ直ぐ見つめられると恋に落ちるというのは、生物を超えて共通するのか。


その求愛テクニックを、彼が知った上で行っていたのかはわからない。

ただ、例に漏れず私は、簡単に恋に落ちてしまった。

彼と出会ったのは、友人のイベントで行ったクラブだった。

爆音が鳴り響く箱の中で、彼の視線は静かに私を捉えた。

ドリンクをオーダーしている私を、そのバーカウンターに座っていた彼が、明らかに見ているのを感じた。

視線がこれほどまでに痛いということを、この時に私は身を持って知った。

まだアルコールを注入していない私は、私に視線をよこすその彼に気付かぬフリをしてその場を去る。

しばらくして、一人の男が声を掛けてきた。

予期せずその男を介して、さっきの視線の彼と飲むことになる。

再び私を前にして、彼は先程と変わらぬ熱視線を浴びせてきた。

「ねぇ、さっきからめっちゃ見てくるよね?なに?」

初めてまともに見た彼の顔は、ホリが深く、私がタイプとする男の顔立ちだった。

意図せずして見つめ合う私達。

「一目惚れ」の成立だった。


次々に空けられるテキーラショット。

お酒の力も手伝って、キスの1つや2つしていたかもしれない。

軽く食事を摂ってカラオケに行く。

酔っていたのはお酒のせいだけではない。

私達は、お互いのセックスアピールでかなりの興奮状態だった。

かくして私達は慾るように結ばれたのだが、彼は単身赴任で来ている妻子持ちであった。

しかも、生まれたばかりの子も含め、5人も子供をもうけた愛妻家ではないか。

翌日、彼に送ってもらい別れた時には、またね、と限定的な関係の始まりを考えたものの、先の見えない恋に時間を割くほど、私はもう若くはなかった。

いいなと思える人は、とうの昔に誰かのものになっている。


私に幸あれ。

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