犬男

-犬男-

犬を拾った。

きっと出会った時は、たまたま飼い主がいなかっただけだ。


歓迎会だか新年会だか、何かの飲み会の後に女3人でラーメンを食べて騒いでいた時、その地域で有名なマダムに声をかけられて、同じくそのマダムに絡まれていた一人の男と出会った。

既に酔っ払っていた彼は、身長がそこまで高いわけでもなく、いわゆるイケメンの部類にはギリギリ入らないくらいの容姿ではあったが、ファストファッションをうまく着こなす雰囲気イケメンだった。

同い年で住んでいる場所もご近所ということで意気投合した私と彼は、朝を迎えて友人と別れた後も尚飲み直そうと、コンビニでビールを買って飲みながら彼の行きつけのお店を渡り歩いた。


その日付き合うことになったことを、彼が本当に認識していたかはわからない。


彼は、お酒に酔うと近くにいる女に誰彼構わずハグしたりキスしたりするような男だった。

そのせいで、彼のことを自分の彼氏だと思い込む女も多く、いやきっと彼がそう勘違いさせているのだが、そんな女達から私は目の敵にされていた。
そして、あろうことか、その事実を彼から聞かされていた。

私は呆れつつも、彼は犬みたいな男で、どんなに吠えようと、どんなにトイレトレーニングが上手くいかなくとも、憎めないというか「仕方ないなぁ」と母性本能をくすぐられては赦していた。


そんな節操のない彼氏を、私の妹や友人が良く思うわけもなく、不安に押し潰されて別れ話を持ち掛けたのは私の方からだったが、私と別れてすぐに勘違い女の一人と付き合い始めたことを知った時は、私が失恋気分に陥り、彼の友人に慰められたことを覚えている。


彼は、まさに彼のために作られていたものであるかのような、彼によく似た犬のスタンプをLINEで使っていた。

どうやって見つけたのか、彼から以外、その犬のスタンプを使われることはない。

モチーフとなっている犬を見ると彼を思い出す。

犬のように尻尾を振りながら私に駆け寄る彼のことを。


私に幸あれ。

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