-鼻毛とアロワナ-
鼻毛が出ていた。
どうしても無視できないため抜こうと指でつまんだ。
一本集中の痛みは走るのに、鼻毛は一向に抜けそうにない。
何度か失敗した挙句、ハサミで切った。
あれ、もう一方の鼻の穴からも鼻毛が・・・。
こうして鼻毛と対峙すると、一人の男を思い出す。
大学の友人の知人である彼は、独身で高台の大きなマンションに住んでいて、カーテンも付けられていない部屋は、生活感のない無機質さを放っていた。
その中で異彩を放っていたのが、大きな水槽の中で悠然と泳いでいた2匹のアロワナだった。
初めて彼の部屋に行った時は夜だったのだが、それは明るい中で見ても異様だった。
それまで、個人宅にある水槽の中では、キレイな色をした小さな魚たちが飼われているものだと思っていたし、餌はパラパラと粉みたいなものが撒かれるんだとしか思っていなかった。
彼はアロワナのために、なにかの幼虫を育てていた。
その幼虫がアロワナの餌となる。
あまりにも未知すぎて走る衝撃は、彼への興味へとすぐに変化した。
彼は、いつも鼻毛が出ていた。
1本や2本ではなく、全体的に鼻毛が長かった。
アロワナの体調管理には神経質なまでに気を遣っているのに、自分のことになると無頓着だったのかな。
ずっと気になっていたから、ある時指摘してみた。
「ねぇ、鼻毛出てるよ?」
すると彼は、顔を赤らめながら
「お前も出てるわっ!」
って私に返してきた。
きっと、彼の羞恥心からくる咄嗟の当てつけだったんだろうけど、うん、まぁ確かにちょっと・・・。
長い鼻毛は、抜けども抜けども同じ場所に同じ角度で生えてくる。
だからいつも、こうして奮闘している鼻毛は、あの時彼から指摘された鼻毛なんだろうな。
私に幸あれ。