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『途中下車してウンコしたらバイオリズムが変わりそうで心配』の回

生来、わたしの一日のうちでウンコがしたくなるタイミングはいつも規則正しいものであった。高校生のときも、大学生のときも、社会人になってからも、それぞれ朝に起きる時間は違えど、だいたい家に出る二十分ぐらい前になるとウンコがしたくなるように体が自然と出来上がっていた。それでも出来上がっているとはいえ、わたしはサイボーグではない。ときおりそのタイミングの狂うときがあった。それがわたしを非常に不安にさせていた。

特に大学時代、わたしは電車で一時間以上かけて通学していたのだが、たまにいつもの時間にウンコが出ずに家を出ることになり、電車に乗っているときにしたくなることがあった。そんなとき、わたしは毎回『もし途中の駅で降りてウンコをした場合、体にこのタイミングが刻み込まれて、明日からこの時間にウンコがしたくなるようになってしまうかもしれん...』と考えていた。もしそんなことになってしまえば、わたしは毎朝、わざわざ途中の駅で降りてトイレに行く羽目になる。さらにはトイレが終わって再び電車に乗るとなると、乗り換えで電車を待っている時間が無駄になる。その時間を想定していまよりも余裕をもって朝早く起きて家を出なければならないなんて、そんなの...無茶だよ...

だからわたしは電車の中でお腹が痛くなっても、あらん限りの力を振り絞って耐え続けた。仮に途中で降りてウンコをした場合、この瞬間の苦しみからは解放されるが、ウンコのしたくなる体内リズムが更新されてしまい、明日からは電車の中でウンコがしたくなる地獄の日々がわたしを待ち受けることになる。家に居るタイミングでウンコができなかったことはしょうがない。しかし、せめて電車に乗っている間は耐えきって大学に着いてからウンコをすれば、最悪明日、体内リズムが変わってしまったとしてもそれは大学に着いたタイミングであり、大学でウンコさえできれば遅刻の恐れなどはなくなる。そう考えると、いまは苦しくても耐えよう、耐え忍ぶときだ。人生には苦しい場面が訪れることがある。ただ、それを乗り越えてこその人生。わたしは耐えきってみせるっ!なんて風にひたすらに便意と闘っていた。

波のように引いては押し寄せる便意。わたしはそれに耐えるために、人差し指の第一関節と第二関節の間、いわゆる中節に親指の爪を突き立て、その痛みによって意識をお腹ではなく中節にひくことで便意を紛らわせていた。これはNARUTOの中忍試験編で、サスケが大蛇丸の恐怖に飲み込まれ体が動かなくなったときに、自らの太ももにクナイを突き刺し、その痛みによって正気を取り戻したシーンから着想を得たものだ。漫画はただ単純に面白いだけではなく、ときに人生のピンチの場面で乗り越える指針を与えてくれる素晴らしいものである。そんな風に耐えきりたどり着いた大学の最寄り駅。『ああ、やっとウンコができる』と思いトイレに駆け込むと、まさかの大便器は全て塞がっている。あのときの絶望感たるや、膝から崩れ落ちそうになるほどよ。この苦しみからやっと解放されると気を緩めてしまった分、肛門の限界はさらにやばい状況に。マジで無茶なことを言っている自覚はあるが、駅のトイレには余裕をもって大便器を十個ぐらい設置しておいてほしい。ホンマに無茶を言っているとは思うけど。十個お願いします。

こんな風にして、電車の中で便意に襲われる状況が年に三回以上はあったのだけれど、そう思うとわたし以外にもこんなことになりながら電車に乗っている人がいたのかもしれない。けれども電車内でめちゃくちゃウンコに耐えている人を見たことはない。みんな普通の顔をして乗っている。すごいよ、みんな。ひとりぐらい『もうホンマに無理...マジで...』みたいな顔をした人を見かけてもおかしくないのに、本当に一度も会ったことがない。普通の顔をしている人でも、その人の手に目線をやれば、わたしみたいに親指の爪をギューっと突き立てていたりしたんだろうか。それでも、電車内では便意に苦しんでいる人を見たことはないが、駅のトイレでは、大便器の前に並んで空くのを待ちながら悶えている人を見たことがある。その人は体をクネクネくねらせていて、目に見えて限界が近そうであった。そのときはわたしも結構お腹が痛かったが『だれか早くこの人と代わってあげて』と思ったほどであった。やはりみんな、電車の中では絶対にここではウンコはできないと気を張ることで我慢できるが(気を張るって気張るみたいで逆にウンコが出てきそうですよね。すみません、どうでもいいですよね)、トイレに入って大便器の目の前まで来ると気が緩んでしまい、我慢できなくなってくるのであろう。そして『早く代わってあげて』とは思ったものの、いざ自分の順番が来て便座に腰を下ろすとホッと落ち着いてしまい、大便器の外で体をよじらせているおっちゃんがいるかもしれないことにまで想像が及ばないのも事実。だからホンマに各駅に大便器を十個設置しよう。

その他にも、家にいる間は全く便意がなかったのに、家を出てすぐにウンコをしたくなるときとかもある。あれはホンマにやめてほしい。意味が分からん。ホンマにやめてほしい。誰に言ったらいいんやろう...


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