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【百物語】山風と薫
はじめに
山風と薫の背景ストーリーです。
少年妖怪と少女
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栄誉の継承とは責任を負うという事だ。
月が輝く夜、辺りは静まり返っている。
突然、目の前に巨大な妖怪が現れた。
両目は燃え盛る炎のようだ。
一歩また一歩こちらに近づき、体からは強い血の匂いが漂ってくる。
俺は逃げようとするが、足に力が入らない。もう駄目だと諦めた時、奴は俺の後ろをすり抜け、俺の後ろにむかって肉肉しげに一回吼え、誰かを威嚇するように唸り続けた。
全身震えが止まらなかったが、なんとか気を持ち直すと、後ろの林には狼たちが飢えた目つきで俺を見つめていることに気づいた。
あの妖怪は、俺を助けてくれたんだ。
奴こそ真の森の王だ。
俺は色々なことを教わり、奴の基で修行を続けた。
そのうち、縄張りの見回りに連れて行かれるようになり、奴の仲間にも尊敬されるようになった。俺にはわかった。
奴は俺に栄誉を与えることで、責任を負う、という事を教えてくれた。
でも、あの日・・・・・・急いで駆けつけた時には、奴の体と内臓は食い尽くされ、トゲのついた皮だけが残り、一帯には狼の匂いだけが漂っていた。
その傍らでは奴の仲間が泣き崩れていた。
だが俺は泣かなかった。
俺は冷静に、黙って奴の皮を身に着けた。
奴の栄誉を受け継ぎ、奴の責任を負うのだ。
陰陽師山風伝記2
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あの夜の出来事を繰り返さないために。
しばらく経って。
川辺で休んでいると、かつてみたあの光景に出会った。
対岸に見えるのは狼たちの目。奴に初めてあったあの夜と全く同じだ。
俺の体からは血の匂いが溢れ出、刀は戦いの傷跡でいっぱいだ。
狼の群れに歩み寄ると、自分は異常に興奮していた。
ずっと・・・ずっとこの日を待っていた。
興奮して両手に青筋が浮き上がった・・・!復讐の日だ。
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遅かったな。
狼たちは危険を察して逃げようとしたが、遅かった。
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復讐のときが来た。
辺りには死臭が漂い、川は血で赤く染まった。
俺は狼どもの死体を踏みつけ、森の奥へ戻っていった。
森の秩序は、森の王のこの俺が守る。
俺は森に住む狼達に復讐を遂げたが、最後の一匹に毒爪で傷を負わされた。
ヤツのあざ笑うかのような断末魔の一鳴きが耳元でこだまし、視界が霞んでいった。
悔しさと怒りに飲み込まれ、俺は最後の力を振り絞り、毒に侵された肉を噛みちぎっていった。
毒の作用だったのか、全く痛みを感じなかった。
口の中に広がる自分の血の味は甘く香ばしかった。
毒に侵された肉を一欠片も残らず噛みちぎったその時、小さな足が目に留まった。
彼女は怯えていたが、俺の顔を見つめ、両手を伸ばしてきた。
そして気を失う寸前、彼女の「お兄ちゃん」と呼ぶ声が聞こえてきた。
陰陽師山風絵巻出合い
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弱くても、大切な人を守りたいの!
「俺はお前の兄ではない」
お兄ちゃんと違って、山風が笑顔を見せてくれたことはない。
「ねえ、ついてってもいい?」
そう聞いても、彼は答えなかった。
そんな彼はお肉が大好きで、
ある日料理をしていたら私に「これは何の肉だ?」って聞いてきたの。
「ネズミの肉だよ。私が狩って来たの」って言ったら
「オエェ…...」って彼は口に入れた肉を吐き出しちゃった。
そしたら彼、「お前は果物を拾え、狩りと料理は俺にまかせろ。」って言ってきたの。
山風はお兄ちゃんと同じことを言ってた。
山風はお兄ちゃんにそっくりな姿をしてた。
お兄ちゃんみたいに、寒い時は獣の毛皮で私を包んでくれて、
美味しいものは必ず私に残してくれた。
ずっと一人だった私は、山風に出会えて幸せになるはずだった……。
でも、山風は一度も笑わなかった。
あ、思い出した……
いつも笑顔だったお兄ちゃんは、冬の狩りで、私を守る為に死んだんだった。
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きっと…ここから離れる。一緒に。
山風が私のお兄ちゃんじゃなくて、人を食べる妖怪だっていう事は解っていた。
でも森の狼達に襲われた時、お兄ちゃんのように守ってくれた。
けれど、狼達の罠に嵌(はま)り、巨大な岩と結界に挟まれ、山風の妖力が抑え込まれてしまった。
山風は何日も穴を掘って逃げようとしたけど、明かりは見えて来なかった。
それでも彼は「大丈夫、俺がいる」と声をかけ続けてくれた。
だけど、その声は弱くなるばかりで、やがて爪も折れてしまった。
そしてトドメに空腹が襲ってきた。
私は彼が自分の腕を食べるところを見た…
山風は人を食べる妖怪だったけど、私と出会ってからはそれを止めた。
そのせいで、彼は狼達に捕まるくらい弱くなってしまった。
山風が死ぬのはイヤ。
私は覚悟を決めて、兄が残した短刀を自分の胸に突き立てこういった。
「私を食べて、そして、生きて!」って。
山風はいつも冷たかった。
彼の笑顔を想像した事もあったわ。
きっと、山に吹くそよ風みたいに清々しい笑顔なんだろうって思っていた。
けど、まさか彼が泣くなんて思ってもいなかった。
醜い泣き顔だった。
もういいよ、今度は私が守ってあげるから。
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今度こそ私が守ってあげる。
長い長い夢を見た、長過ぎてもう夢の内容など忘れてしまった。
目が覚めたとき、目の前に人がいて、山に吹くそよ風のような笑顔で、私を見つめていた。
懐かしい…でも、誰なんだろう?
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俺に近づくな刺されるぞ。
「山風山風、助けてあげようよ!」
私は薫を連れて森を離れてから、誰もいないところを探して住み着こうと思っていた。しかし変な流れで頼みを引き受けてしまい、村人のために「鬼林」を退治することになった。
彼らの話によると、「鬼林」の中には凶悪な妖怪と猛獣が極めて多く、よく村を襲っていたらしい。
村人が山を下るには、ほかの小道を探す他なく、昼夜問わず日々怯えていたそうだ。
「私から絶対に離れるな。」
私は薫と慎重に「鬼林」の中を歩いた。ここは瘴気がとても濃くて、普通の小妖怪なら一歩も進めないだろう。
「あうううううぅ・・!」と耳を刺すような悲鳴が、遠くから聞こえてきた。
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森の王はこの俺だ!
「何者だ?」
「森の王」
「王?はは…ハハハハハ!俺の前で王と自称した奴らは全員そこにいる。」
あやかしは無造作に散らばった死骸を指した。血は地面に凹み沿って小さな川になり、周りの木々には戦闘の爪痕があちこちに残っている。ここが、極めて残酷な戦場であることは言うまでもない。
あやかしと対峙している間に、薫は速やかに安全な場所に隠れた。
あやかしの紅い瞳には、「奴」を連想させられるものがあった…非情で恐れを知らぬ、物慣れいる眼。
「小僧、その目は気に入った」
「不思議だ。俺もそう思った」
「ならば、どっちが戦利品になるか、見てみようではないか!」
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山風…みんな…無事でいて。
あやかしと対峙している間に、薫は速やかに安全な場所に隠れた。
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大丈夫よ。ゆっくり休んで。
俺は蟲師の洞窟が嫌いだ。周りの暗闇を照らすのは蛍火しかない。洞窟を抜けた先にある滝、そこを目指して俺は進んでいた。
突然、薫の笑い声が聞こえた。フクロウに乗って洞窟に飛び込み、頭上を掠めて行った。
彼女の笑い声につられて俺もつい笑ってしまった。
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梟!任せたよ!
その時蟲師が言ってきた「薫がまた人間の村へ行きましたね。妖怪が人間の住処に行くなんて。」と。
「いいんだ、薫はもともと……」って俺はそう返した。
薫が以前人間だったとは、彼女には言わなかった。
人間だった薫は、俺に食われた。
そのあと、俺は禁じられた術で彼女を妖怪として復活させたんだ。
今の彼女は全てを忘れ、無邪気なままだ。
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お前のことは俺が守る。
今でも時折、あの嘔き気を催す血肉の味を思い出す。
蟲師が、「でも、万が一何かあったら…...」と言うのが聞こえてきた。
俺は力強く答えた。「大丈夫だ。何があっても、俺がいる。」と。
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梟。気を抜いちゃだめ。ちゃんと警戒して。
冥界からの2人の使者がきた。
黒無常様が「本来死ぬべき人間が妖怪に変わり、陰陽の均衡を乱している。一緒に連れて帰らねば」と大騒ぎしている。
白無常様は、私に最近珍しい妖怪を近くで見たことがないか訪ねてきた。
「お伝えしたら、何か良い事でもあるのでしょうか?」と尋ねたら…。
「情報と引き換えに、そなたが知りたがっているあの御方の行方を教えてあげましょう。」と彼は言った。
洞窟の入口から差し込む日差しが、滝に向かう石の道を照らし出す。はるか昔、私が住んでいた漆黒の森にもこんな蛍火に照らされた道があった。
私はこう言った「珍しい妖怪なんてしらない。」と。
どうにかして虫の知らせを……
山風様に、今日は薫を滝に連れて来てはいけないと知らせて……
山風追憶絵巻別れ
参考
1.陰陽師 山風 伝記・絵巻
2.陰陽師 薫 伝記
おしまい
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