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【百物語】鬼切

はじめに

鬼切の背景ストーリーです。

正義の刀

陰陽師鬼切絵巻密謀

大江山に住む鬼共の討伐を提案すると、
集まっていた一族の長老たちの顔が曇った。

この老人たちが何を恐れているのか、
手に取るように分かった。

老人たちは私のことを、
源家一の優秀な陰陽師だと言いながら、
大江山に住む鬼王に確実に殺される、
そう思っていたんだ。

ふふ、とっくに対策は練ってある。
あの刀が襖の後ろでその時をじっと待っている。

陰陽師鬼切絵巻密謀
式神 鬼切

俺は天下の悪鬼を貫く刀である。

「皆にお前の実力を見せる時が来たぞ。」
「はい、ご主人様。」
みなが噂を耳にしたことのある、源家の鬼殺しの秘策が、私の前で大人しくひれ伏している。臆病者たちが男を目にするのは、これが初めてだ。
私はひそひそと話す一族の人間たちに視線を落とした。「怯えるのは弱い者だけだ。私は決して怯えたりしない。」

陰陽師鬼切絵巻密謀
散花の刃

死ぬ覚悟はできているか。

「天下の悪鬼を貫く刀だ。」
待ち伏せていた妖怪をすべて殺すと、男は笑顔で、そう俺に言った。
「私はお前の主人、源頼光だ。これからは、お前を「鬼切」と呼ぼう。」

俺は過去の記憶を失っていた。
その男は源家の陰陽師で、山でお祓いの最中に複数の悪鬼に襲われたそうだ。
悪鬼共に窮地に追い詰められた時、ご主人様の刀が一族の氏神の姿に変わり、彼を救ったそうだ。
その刀が俺だと言った。
「私とともに世の平和を守ろう。」

俺の左目には契約の証が刻まれた。

ご主人様は立派で、強くて、正直な人だ。ご主人様が現世の理を教えてくれる代わりに、俺は彼の背中を守る。
ご主人様の力なら、必ず正義を貫き、世の悪を裁くことができるだろう。
俺は、ご主人様の刀となった。

陰陽師鬼切絵巻契約
鬼の刀・両断

お前の罪、俺が断ち切る。

源家一族は、鬼王の首を取るために、総出で大江山に攻め込んだ。圧倒的な兵力を投入したにも関わらず、戦いは、何日も続いていた。
そんな事は、鬼共にとって大したことではない。
だが、俺のご主人様は、すっかり疲れ切っていた。

鬼王は恐ろしく狡猾で、一瞬の隙を突き、ご主人様に襲いかかってきた。
俺は瞬時にご主人様の前に立ち、鬼王の激しい一撃から彼をかばった。
強烈な妖気が一瞬にして俺の体を貫き、俺の左目もやられてしまった。

俺は強烈な痛みに耐えながら、鬼王の腕を押さえつけた。
鬼王は俺の左目を見つめてこう言った。「き、貴様は……!」
一瞬だったが、ご主人様にとっては十分だった。

首を切られた鬼王の血が俺の左目に入った。

気付くと源家の兵が放った火が、妖怪の死体であふれた地面を覆っていた。
俺の目は血で赤く染まっていた。眼球を覆う血を通して見える死体の山。だんだんと倒れている死体が……自分の様に見えてきた。

陰陽師鬼切絵巻退治
鬼の刀・羅城門

全ての悪鬼を切り裂いてやる。

ご主人様は、鬼王の首を討ち取った。
俺はご主人様の命令で、その首を都に届けに向かった。
羅生門を通った時、俺は道端に、美しい女性が立っている事に気付いた。

俺は息を飲み彼女を見つめた。そして考える暇もなく、俺は刀を抜いた!
肉体を切り裂く音が、静まり返った夜空に響き渡った!
その瞬間、女の鬼手の断面から大量の毒気が放たれ、俺に襲いかかってきた。

襲ってきた毒気が左目を刺激し、俺は、ご主人様と、彼の血まみれの手によって結ばされた、契約のことを思い出した。
左目の契約は破られた。

陰陽師鬼切絵巻断壊
復讐の刃

この怨み…必ず血を以て償ってもらおう。 

封印されていたのは……俺の記憶だった……
思い出した……!俺はご主人様に騙されていたのだ!

俺は源家の正義の刀なんかじゃない……!
俺は、大江山の妖怪だった!あいつに騙され、利用されたのだ!
あいつは俺を服従させ、鬼王を殺させたのだ!

大江山の大地は妖怪達の死体で溢れかえっている。
死んだのは俺じゃなく、俺がこの手で殺した同族たちだ!!

あれだけ信じていたのに!!源頼光……絶対にお前を殺す!!

陰陽師鬼切絵巻断壊
鬼瞬影

正義を貫き悪を裁く。

鬼王を退治した今、一族の長老たちは、私との実力の差に気づいただろう。
あいつらは害虫のように源家をじわじわと蝕んでいく。
私は生まれた時から、あいつらと違った。

山で悪鬼に襲われた時、私は自分の血を使い、妖怪を先祖の護り刀に封じ込めた。そして「鬼切」という強力な怪物を作り出したのだ。
契約を結ばせ、手なずけ、しつけをし、正義という概念を吹き込んだ。
そして偽りの記憶を植え、服従させた。


それ以来、似たような怪物を数え切れないほど作り出した。
源家は私の指揮もと、最強の一族となるのだ!

…だが、鬼切はなぜ姿を消した?

陰陽師鬼切絵巻自白
鬼の刀・影殺

これが俺の正義だ!

俺は、刀を携えた。

茨木童子の鬼手を、源頼光に捧げるために戻ったと嘘をつき、源家の屋敷に戻り、一族全員に報復した。
俺は守衛の侍達を一人、また一人と切り捨て、源頼光を目の前に、空に漂う鉄錆の匂いを、思いっきり吸い込んだ。

あの男を討つ!!!俺は心に固く念じた。

刀を抜き、源頼光のもとへと突き進んだ。

陰陽師鬼切絵巻復讐
刀鳴の刃

これは心の悲鳴だ!

うっ!
こ、これは、俺の血だ!

「フ……ハハハ、愚かな!お前の目に封印されているのは、ただの記憶に過ぎない。」「真の契約はお前の体の中にある…私の血だ。私が死ねば、お前も生きてはおれんぞ。」

「それがどうした?ハハハハハハハハ!!!」
ならば、一緒に死のうぞ!
血だ。刀を引き抜いた。血と肉の塊から。
ハ……ハハ……ハハハハハハハハハ……
痛い。だが最高の気分だ。
もう……止められない……

陰陽師鬼切絵巻復讐
覚醒・鬼切

正義の刀だと?笑わせるな!

「本当にいい刀だ…。」
源頼光はそう言いながら、倒れた。
鬼切は思わず笑い出した。彼は同時に皮肉、悲しみ、そして無念を感じていた。
自分の体を支えられなくなり、血の海に倒れこんだ。

鬼切の血は地面に広がり、茨木童子の鬼手に巻きついた。そしてじわじわと、その腕の力を奪い取った。
鬼手から一本の血筋が現れ、やがて鬼切の体と鬼手をつないだ。

血の海に倒れていた鬼切は、突然目を覚ました。
彼は立ち上がり馴染みあるようで、見慣れない景色を見渡した。

かつての正義の刀は、もうそこにいなかった。
源家が最も憎む妖怪として、生まれ変わったのだ。

陰陽師鬼切絵巻新生

黄泉の境

参考

鬼切 伝記・絵巻

おしまい

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