見出し画像

【短編小説】金魚の餌

「ヤッフゥー! ヤッフー!」
「うぉっ!?」
急に背後から聞こえてきた声。俺はその場で飛び上がるほど驚いてしまった。
な、何だ? 誰だ……? 恐る恐る後ろを振り向くと、そこには一人の女性がいた。
綺麗な銀髪で整った顔立ちの美人さんである。年齢は俺より少し上だろうか? 身長は165センチくらいでモデル体型と言えるだろう。
その女性は何故かハイテンションだった。
そして両手を頭の後ろに組みながら、スキップをするかのようにクルクル回り出したのだ。
「えへへ~♪」
その表情は笑顔が絶えない。
いや、あの……いきなり何なんですか? あなた誰ですか? どうしてここにいるんですか?そう聞きたいのだが……この人の様子を見ていると聞くに聞けなかった。
しかし彼女はそんな事などお構いなしに、突然ピタッと動きを止めると、俺の顔を見てニコッと笑った。
「こんにちわぁ~♪」
「あ、こ、こんにちわ……」
俺はつい反射的に挨拶を返してしまった。
すると彼女は更に嬉しそうな顔をしてこう言った。
「ねぇねぇ! 君の名前は?」
「えっと……九条透ですけど……」
「そっか! 私はリリアナ・ブルックスよ!よろしくね!」
そう言って右手を差し出してくる彼女。握手を求めているようだ。
「あ、はい……よろしくお願いします」
とりあえず差し出された手を握り返す。
すると彼女は満面の笑みを浮かべた。
「うふふ、透くんの手って大きいんだね♪」
「あ、ありがとうございます……」
あれ? 何か距離感近くないか? 初対面なのに呼び捨てだし……。
それに彼女の服装も気になるところだ。何故なら彼女が着ているのは水着なのだ。それもビキニタイプの……しかも布面積の少ない際どいやつ。
さすがにこれはちょっとまずいんじゃないのか? いくらここが海とはいえ、見知らぬ女性と一緒に歩くなんて……もし知り合いに見られたら大変な事になるぞ?
「あの……ところでリリアナさんは何をしているんですか?」
「ん? 私? 私はもちろん海水浴だよ! 見ての通り泳いでるの!」
「あ、はい。それは見ていれば分かりますけど……」
「えへへ、じゃあ何を聞きたかったのかな?」
「いえ、別に何でもありません……」
俺は苦笑いしながら答える。
「うんうん、それでいいんだよ! 変な事聞かないでよね! それともナンパでもしようとしてたのかなぁ?」
「違いますよ! ただここで何をしているのか聞いただけです!」
「本当にぃ~?」
「本当ですよ! それよりもほら、もっと離れた方がいいんじゃないですか? 誰かに見られて勘違いされたら大変でしょう?」
「大丈夫だってば! こんな所に誰も来ないもん!」
確かに周りを見渡しても人っ子一人見当たらない。
だがそれが逆に不自然でもある。何故ならここは海水浴場なのだから。「う~ん、まぁそれもそうですね」
「そうそう! だから気にしないで一緒に遊ぼうよ!」
「遊ぶと言われても困りましたね……」
「もうっ! 仕方ないなぁ! じゃあ私が泳ぎを教えてあげるよ!」
そう言うと彼女は俺の腕を掴むなりグイッと引っ張ってきた。
「ちょ!?」
そしてそのまま海にダイブする形になってしまったのだ。
ザブーンという音と共に水飛沫が上がる。
「ゴホッ! ゲホォッ!!」
海水を飲んでしまい激しくむせてしまった。
しかし彼女はそんなのお構いなしである。
「死ねェー!! 九条透ぉー!!!」
「げほっ! な、なんだと……!?」
どうやら俺を殺すつもりらしい。
まさか俺の命を狙っていたとは……油断したぜ。
しかしこのままでは確実に殺される! どうにかしないと! だがどうやって反撃すれば良いんだ?相手は素手だ。対してこちらは丸腰状態。これでは戦うことすらままならない。
クソッ……! 一体どうしたらいいんだ……? するとその時だった。
突然、海中に大きな影が現れたのである。
その正体は巨大なサメだった。
しかも1匹ではなく10数匹の群れとなって現れたのである。
サメたちは大きな口を開けながら、一斉にこちらに向かってきたのだ。
おいおいマジかよ……! 嘘だろ……? 俺は恐怖のあまり声を出すこともできなかった。
すると彼女は俺の顔を見るなりニッコリと笑った。
まるで勝ち誇ったかのような表情だった。
彼女はこの状況を楽しんでいるようだ。
なんて奴だよ……。
くそっ……! こうなったら最後の手段を使うしかない! 俺は覚悟を決めると目を閉じ意識を集中させた。
イメージするのは最強無敵の自分。
その瞬間、俺の中に眠っていた力が覚醒していく感覚を覚えた。
よし!この力があれば勝てるはずだ! いくぞ化け物ども! かかってこいやぁあああ!!!
俺はカッと目を開くと迫りくるサメたちに向けて両手を突き出した。
すると次の瞬間、強烈な衝撃波が発生し、襲い来るサメたちを一瞬にして粉々に吹き飛ばしたのであった。
……だったらいいなぁ。
俺は恐る恐る瞼を開いた。
サメは一匹も減ってなかった。むしろ増えていた。
いや、そりゃそうだろうよ。
今のはただのイメージトレーニングだし。
それにしても我ながら情けない。
どうしていつもこうなるのか……。
はぁ~……。
ため息をつきながら立ち上がる。
「ハハハハッ! やっぱり透くんって弱いんだね♪」
彼女は楽しそうな表情を浮かべている。
ムカつくな……コイツ。
でも今は言い返せない。悔しいが事実だからだ。
そもそもの話、俺が彼女より強いなんてあり得ない話なのだ。
「私には未来が見えるんだから♪将来あなたは障害になる。だから今のうちに殺しておかないとダメなんだよねぇ」
そう言って舌なめずりする彼女。
ヤバイな……。
完全にイカれてやがる。
これはいよいよもって逃げないといけない状況になってきたぞ。
とりあえず何とかして隙をつくらないと……。
何か……何か方法はないか……? 必死に頭を働かせる。
何か……何かあるはずなんだ……。
しかし、何もなかった。
時間だけが過ぎていく。
その間にも彼女の顔からは狂気に満ちた笑顔が消えることはなかった。
どうやら俺の命もここまでかもしれないな。
俺は覚悟を決めた。
そして大きく深呼吸をする。
さようなら……みんな
リリアナが美人だから騙されてたよ。
本当はこんなにも恐ろしい人だったなんて。
さよなら……母さん 父さん、先立つ不幸をお許しください。
俺は心の中で両親への別れを告げると、静かに瞳を閉じたのであった。
あっ!そういえば金魚に餌やるの忘れてたわ! まぁいいか。また明日で。
こうして九条透の短い人生は幕を閉じたのである。

しかし、金魚に餌をやるのを忘れた未練からか、彼は再び現世へと舞い戻った。
金魚の餌をやるのを忘れてよかった……。
そして運命は再び交差する―――。

チュン、チュン、チチッ、ピチュピッ! 小鳥たちのさえずる声と共に、カーテンの隙間から差し込む朝日によって、九条透は目覚めた。
朝だ。今日もいい天気になりそうだ。
布団から起き上がる。
「そういえば金魚に餌をあげなきゃな……」

あとがき

本文は「AIのべりすと」で作成、挿絵は「Stable Diffusion」の「ACertainThing」で作成しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?