コミックマーケット101で頒布した「たなかさんの歌」アナログレコードについて
経緯
細々とした仕事をこなしていたらいつのまにか12月になってしまい、コミケ用にCDを出すならそろそろ入稿しないと間に合わない時期を迎えました。しかし、音源どころか新曲すらできていない始末。無理をすれば間に合わせることもできますが、仕事ではない趣味の音楽でそれは違うかな?と。少し考えて「今までの音源に何か工夫して再リリースをしてみよう」と思い立ちました。
そんな時にブラックフライデーで買ったteenage engineeringのpocket operator modular 400で電子工作に目覚め、たまたま仕事が暇だったのもあっていろいろ情報収集していたら、同じteenage engineeringのPO-80 record factoryという自分でアナログレコードが作れる製品の記事を発見しました。しかし、記事中のリンクをクリックしてもまだ販売されていません。そこでさらに調べると、学研の「大人の科学マガジン」にトイ・レコードメーカーという類似商品があって、実はPO-80をベースに作った製品ということを知りました。トイ・レコードメーカーは普通に通販サイトで買えるので迷うことなく注文。ブランクディスクや予備の針も一緒に買おうと思ったらOTAI RECORDしか取り扱っていなかったので、消去法的にOTAIにしました。
途中経過
商品が届いてさっそく組み立てると意外に簡単に完成しました。テストカッティングは去年DLカードでリリースした「たなかさんの歌」でやってみることにしました。なんとなく曲調がそのシートで流れていても違和感ないかなと思いまして。ところが針飛びしてなかなかうまくカッティングできません。そこで何か参考になる記事はないかと思って大人の科学マガジンの記事を読むと、「RIAAカーブ」という言葉が出てきました。アナログレコードを聴く場合、フォノイコライザーという回路を通すのですが、正しい音で再生するためにはそれと全く逆のカーブを持ったEQを通さないといけなくて、そういうEQの設定をRIAAカーブと呼ぶそうです。1kHzを中心に下は-20dB、上は+20dBを一次関数に近い感じで増減させるという目眩がしそうな周波数特性。知らないと絶対できません。
RIAAカーブのEQでマスタリングしてみると、当然ながらシャカシャカした音になります。不安になって我が家で唯一フォノイコライザーを内蔵しているMACKIEのBIG KNOBで聴いてみたら、原音とはちょっと違いますが、ふくよかな低音と甘い高音で再生されました。そこで気づきました。「これがいわゆるレコードの音」なんだ、と。半世紀以上生きていますが、まだまだ知らないことだらけですね。
そうして作ったマスター音源で再度カッティングに挑戦してみると、針飛びすることもなくすんなりと成功しました。あと削り屑が酷くて天然パーマみたいに絡まるのが嫌だったのですが、針圧をシビアに調整したら嘘のように出なくなりました。8枚ほどブランクディスクを犠牲にしましたが、ようやく人並みにカッティングできるようになりました。
企画決定
カッティングに成功したことで、このまま「たなかさんの歌」をアナログレコードにしてコミケで頒布しようというアイデアが浮かびました。もうCDのプレスも間に合わないし、印刷関係の締め切りもギリギリのタイミングだったため、腹を括りました。
とりあえず時間がないのでひたすらカッティングに励みましたが、カッティング針のギアが噛み合わないトラブルに悩まされました。ギアが噛み合わないと針を落としたところでずっと回転してしまい、一本の深い溝ができて使い物にならなくなるのです。このトラブルで6枚ほどダメにしてしまいましたが、なんとか45枚はカッティングすることに成功しました。
盤の製作が終わったところでパッケージデザインについて考え始め、ケースについて調べたら重大問題にぶち当たりました。当初はCDのケースが流用できると高を括っていたのですが、CDは直径が12cmであるのに対し、トイ・レコードの直径は5インチで13cmあります。つまりCDのケースでは微妙に小さいのです。逆だったら大丈夫だったのですが。一社だけトイ・レコードのサイズにぴったりなケースを売っているところがあったのですが、印刷も込みでとても納期的には間に合いません。逆にオーバーサイズですが、7インチのEP盤のケースなら余裕で入りますし、入手もしやすいということで代替案として決定しました。
ジャケットデザイン
7インチの紙ケースを用意したのはいいのですが、盤面が見えるように真ん中に穴が空いていて恥ずかしいと言うか…センターレーベルがあれば格好もつくのですが、印刷用のセンターレーベルは市販されていないので真っ黒な盤面しか見えません。しかもケースに対して盤のサイズが小さすぎて中で動いてしまい、なんとも見栄えが悪いのです。そこで片面だけでも穴を塞ごうと思い、表面にお気に入りのたなかさんの生写真を貼るという原始的なアイデアを思いつきました。試したら意外に悪くなかったので採用です。
完成
というわけで、時間に追われながら、悩みながらアナログ盤の「たなかさんの歌」は完成しました。何倍速とかあって自動的に焼いてくれるCD-Rと違い、アナログレコードのカッティングは最初から最後まで実時間付きっきりで見ていないといけないので大変でした。
試聴用動画
「たなかさんの歌」(オリジナル音源)
「たなかさんの歌」〜カッティング編〜
「たなかさんの歌」(アナログレコード)
追記
一番大切なことを書き忘れました。本作品は33回転モノラルです。普通のEP盤のように45回転で再生するとピッチが高くなっておかしなことになります。それはそれで味があるかもしれませんが。