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沖縄県障がい者ITサポートセンター主催オンラインセミナーでの講演をふり返って④〜e-ATを活用する上で気をつけたいなぁと思っていること

沖縄県障がい者ITサポートセンターさんからの依頼で2025年2月10日(月曜日)19:00〜21:00にオンラインで講演させていただいた内容のふり返り第4弾です。
第1弾はコチラ
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沖縄県障がい者ITサポートセンター主催オンラインセミナーでの講演をふり返って①〜重症心身障害児へのコミュニケーション支援とe-AT活用
第2弾はコチラ
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沖縄県障がい者ITサポートセンター主催オンラインセミナーでの講演をふり返って②〜視線入力を活用してみるのも一つの方法かな
第3弾はコチラ
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沖縄県障がい者ITサポートセンター主催オンラインセミナーでの講演をふり返って③〜e-ATを活用してスポーツに参加する
Samは特別支援学校の教員として32年間働いていましたが、そのうちの24年間は特別支援学校(肢体不自由)でe-AT活用のコーディネートに携わっていました。
特別支援学校(肢体不自由)に在籍している子どもたちの約8割が重症心身障害児と評価・診断されがちな子どもたちだと言われています。
特別支援学校教員としての経験上、e-AT活用は彼らが学校生活を送る上で、また、家庭て暮らす上で必須だと言っても過言ではないと思っています。
2021年3月で福岡市立学校教員を定年退職した後、愛媛大学教育学部が文部科学省から受託した研究の一環として、全国各地の特別支援学校(肢体不自由または肢体不自由教育部門のある知肢併置校など)にお邪魔しましたが、リクエストされるのは「重症心身障害児(=重度・重複障害児)と評価・診断されがちな子どもたちへのe-AT活用に関するコンサルテーション」でした。
学校を訪問する際は事前に大まかな実態を教えていただき、実際に学習している様子を見せてもらい、担当教員の知識やスキル、当該校にあるe-AT機器をもとにアドバイスしてきました。
また、自宅から公共交通機関で通える範囲にある【肢体不自由児や重症心身障害児に特化した児童発達支援事業所や放課後等デイサービス事業所】に月に1〜2回訪問して、その事業所を利用している子どもへのe-AT活用をサポートしてきました。
講演の最後では、福岡市立学校教員を定年退職する前と後の経験を含めて、e-ATを活用する上で気をつけたいなぁと思っていること7項目についてお話しさせていただきました。


①e-ATは大人の都合で使うものではありません

e-ATは大人の都合で使うモノではありません

VOCAやタブレット端末のVOCAアプリを紹介すると、特別支援学校の教員など支援者の方の多くが「おはよう」や「こんにちは」「さようなら」といった挨拶言葉を録音されます。
もちろん、その意味が分かっていて、ただ単に言葉が出せない子どもさんで「自分から『おはよう』って言いたい!」と思っている子どもさんなら問題ありません。
また、「やった!これで『トイレに行きたい』って伝えてもらえるから嬉しい!」とか「自分から『ノドが乾いた』って言ってくれるようになるね。それまで待つようにします。」と喜ばれる教員や保護者の方にもたくさん会いました。
気持ちはわかります!
でも、そういうケースに限って、録音する言葉の意味がまだ分かっていない子どもさんが対象なんです。
つまり、まだ言葉の持つ意味や機能が分かっていない段階...
発達年齢で言えば1歳前後未満くらいでしょうか。
そういう子が果たして「トイレに行きたい」とか「ノドが乾いた」なんていう言葉を言いたがるでしょうか?
むしろ、支援者である大人が言わせたがっている言葉ではないかと思うのです。
言葉を覚えたての子どもなんていうのは、大体において汚い言葉や悪い言葉を使おうとしたり、「やだ!」という拒否の言葉を使うのではないかと思うのです。
ですから、VOCAやタブレット端末のVOCAアプリに録音するのは「バキューン(=鉄砲で相手を撃つ音・・・聞いた人は大げさに倒れる必要あり)」とか「あっち行け」とか「そのシャツ、オシャレやね!いいねぇ!」とか「もうかりまっか?(関西限定)」といった言葉が良いのではないかと思っています。
そういう言葉がVOCAやタブレット端末のVOCAアプリから聞こえると、回りの大人が必ず反応します。
その経験を通してコミュニケーションの意味や仕組みを知ったり、大人が関わってくれることによってコミュニケーションする楽しさを知ったりするのだと思います。
したがって、大人が言わせたい言葉ではなく《子どもが言いたいであろう言葉》をVOCAやタブレット端末のVOCAアプリに録音する必要があるのだと思います。
どんな言葉を録音したら良いかが自分一人でわからなければ、その子の兄弟姉妹や近所の子どもも含めて子どもと一緒に考えてみてはいかがでしょうか?
案外、大人が思いもつかないような楽しくてワクワクするような言葉を選んで録音してくれる気がします。
ちなみに、Samの経験上、録音してもらうのは小学校2年生から3年生の子どもが良いです。
その学年というのは、国語の教科書の音読をみっちりやりますので、登場人物の心情に応じたイントネーションを使ったり、心を込めて読むことができたり、声の強弱が調整できるようになったりしますのでオススメです。

②姿勢に応じた複数の入力手段があると便利です

姿勢に応じた複数の入力手段があると便利です

最近は「猫も杓子も視線入力」という風潮があるのを心配しています。
特別支援学校にお邪魔する前には質問事項をいただくようにしていたのですが、その中に「対象児に視線入力をさせる上での注意事項を教えてください」「視線入力で効果的なアプリを教えてください」といった内容の質問が寄せられることがあります。
実際に会ってみると、手が動かせる子どもに視線入力でEyeMoT 3D GAME_00「風船割り」をさせておられるではありませんか!
でも、風船がなかなか割れないせいか(注視時間が長かったせいだと後からわかりました)、あまり楽しそうではありません...

EyeMoT 3D GAME_00「風船割り」の画面

その時に使っていたWindowsパソコンがタッチパネル式でしたので、視線入力ではなく画面を直接触って遊べる様子を見せたところ、スッと手を伸ばして次々と風船が割れる様子を見て大喜びしていた子どものことが思い出されます。
支援者って、新しいモノ(特にオモチャとかICT機器など)がやってくると、子どもの都合や興味はさておき使わせたがりますよね。
担当の教員に尋ねてみたところ案の定「教育委員会から視線入力装置が配備されたので、その成果を報告しろと校長から言われているのです」という驚くべき言葉が返ってきました。
もちろん、視線入力が必要な子もいますが、それ以外のアクセシビリティスイッチ入力ができれば、注視によるクリック操作はアクセシビリティスイッチ入力を併用した方が早いのです!
使えるアクセシビリティスイッチの種類や部位も複数あると便利ですし、なにより姿勢によって動かしやすさが変わってきますので、それに応じたフィッティングが大切になってくることを忘れないでいただきたいと思っています。
「自分は姿勢のこととか分からないので…」と凹む必要はありません。
そんな時こそ、作業療法士や理学療法士と連携すれば良いのです。
彼ら身体に関するセラピストは、どの姿勢の時にどこが動かしやすい(or動かしやすそう)ということを探り当てるプロですからね。
ただし、アクセシビリティスイッチに入力して動かすコンテンツが対象児にとって【お得なこと】でない時、子どもたちは動かせる部位があっても動かそうとしませんから…
そこは、きちんと見極める必要があると思います。
なかには、子どもを見ずに筋肉と骨しか見ないセラピストもいますし、手を動かすことや立たせたり座らせるためのモチベーションを上げさせるためだけにICT機器やオモチャを使おうとする(泣く幼児を静かにさせるためにスマートフォンでYouTubeを見せるようなもの)セラピストもいますのでね。

③姿勢、時間帯、天候などによって入力のしやすさは変わるものです

姿勢、時間帯、天候などによって入力のしやすさは変わります

呼吸管理が必要な重症心身障害児の多くが、台風が発生すると呼吸状態が悪くなることに何度も出会いました。
はるか彼方フィリピン沖で、まだ台風にもなっていない状態の時にでも体調が悪くなる子がいることって経験上ありませんか?
子どもたちがアクセシビリティ入力やタッチパネル入力や視線入力をしようとする際、姿勢が変わると入力のしやすさが変わることはもちろんのこと、朝・昼・夜の時間帯による状態の違いや天気や湿度による入力しやすさは変わってくるものです。
それを踏まえた上で、e-ATを活用すると良いですね。
「今日の3時間目は家庭科でスムージーを作るから、絶対にやるよ!」といった教員の都合に子どもを合わせるようなことがないようにしていただきたいものです。

④昨日楽しめたから今日も楽しめるとは限りません

昨日楽しめたから今日も楽しめるとは限りません

「このアプリ、昨日は楽しそうにしてたじゃない。なぜ今日はやらないの?」と叱る支援者や「あなたは、このアプリが好きだもんねぇ」と子どもの意思を無視して自分の思い込みでアプリを決める支援者は少なくありません。
昨日楽しめたアプリだから今日も楽しめるとは限らないものです!
だって、すぐに飽きるのが子どもですから!
視線入力で遊ぶアプリの定番と言えば、島根大学伊藤 史人研究室で開発され無償提供されているEyeMoT 3D GAME_00「風船割り」EyeMoT Sensoryではないでしょうか?
特別支援学校に何度かお邪魔すると、どの教室に行っても上記2つのうちのどちらかを子どもたちはやっている(やらされているのかも?)のですが、前回よりも楽しそうじゃない表情を見ることが少なくありませんでした。
担当の教員も「以前は楽しそうに遊んでたんですが、最近は喜ばないんですよぉ」とおっしゃることがありました。
そんな時「そんなもんですよ!なぜなら飽きたからです。子どもってすぐに飽きるじゃないですか。それが当たり前ですから。」と答えるようにしています。
だからこそ、子どもが興味を持ちそうなアプリを常に調べて試しておくことや視線入力じゃなくてもできる活動はないかと考えることって大切だと思うんですよね。
そうした上で、子どもと一緒に活動を探しましょうという話をさせていただきました。

⑤子どもがワクワクするような使い方を示しましょう

子どもがワクワクするような使い方を示しましょう

某特別支援学校(知的障害)にお邪魔した時のことですが、iPadの操作ができる子に支援者が使わせたいアプリを起動して、ご丁寧にアクセスガイドをかけた状態で渡すシーンを見たことがあります。
もちろん、アクセスガイドがかかっているので子ども自身でアプリを終わらせることができないので、アプリに興味が無い子どもの場合、iPadに触ろうとしないのです。
それを見た教員が「やっぱり、この子には(このアプリは)難しいのね」と評価する言葉を発しました。
その様子を見ながら「果たしてそうなのかなぁ?」と疑問に思いました。
その教員は子どものためを思って自分でアプリをチョイスして、「誤操作をさせたら意欲が下がるだろうから」という思いでアクセスガイドをかけたのだろうと思います。
でも、そこに「子どもがやりたくなるようなアプリだったのか?」という精査が必要なんじゃないかなと思うのです。
子どもにとって...という気持ちはわかりますが、本当に子どもがやりたくなるようなアプリだったりオモチャだったり活動だったりするのか?
それを分析する必要は無いのでしょうか?
まずは教員が真剣にそのアプリで遊んでみて(またはオモチャで遊んでみる)、本当にこりゃ楽しいわいという雰囲気を出しているのかというシーンを見れば、ひょっとしたら子どももやりたくなるのかもしれません。
講演時には、アニメのトムとジェリーにそういうシーンがありますので、それも見てもらって考えていただきました。
まずは、子どもがやりたくなるようなアプリや活動を自分がやって「これ楽しいわい」「ヤミツキになりそう」という姿を見せた上で子どもに判断してもらっても良いのかもしれないと思っています。

Californiaで会った重度知的障害のあるRくんが次第に近づいてきました

⑥手段が目的にならないように気をつけましょう

手段が目的にならないように気をつけましょう

流行りの視線入力...
視線で入力することが目的ではなく、別の目的があって、その入力方法として眼の前の子は視線入力が楽だろうという判断をしてほしいものです。
活動する目的が明確であれば、入力方法は何だって良いのです!

⑦e-ATは「教材」ではなく生活用具です

e-ATは「教材」ではなく生活用具だと思っています

学校では、よく「教材」という言葉で表現したり教員同士で認識し合ったりします。
「教材」と呼ぶことで教員や保護者の方たちは「授業で使うもの」というイメージが強くなります。
「教材」だから学校で使うものになってしまっていて、日常生活(特に家庭生活)に広がっていってないような気がするのです。
Simple Technologyで動かす乾電池式オモチャや家電品などのことを「スイッチ教材」と呼ぶ特別支援教育の関係者がいますが、同じ意味で私は違和感を持っています。
自分の手や口の代わりとなるe-ATは、卒業した後の暮らし(もちろん在学中の暮らしもです)を豊かにする「生活用具」ではないかと思うのです。
講演の最後に、教員をはじめとした支援者をかなり批判するような話をしましたが、まずは子どもファーストで、決して支援者の都合に合わせるためのものではないということを分かっていただきたいなぁと思います。
今日のところはココまで...

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