「プロジェクト」の"リズム遊び"について語りたい
はじめに
「プロジェクト」とは、Hello Sleepwalkersが2022年11月2日にリリースするアルバム『PROJECT』に収録される楽曲であり、
2017年12月25日よりシュンタロウさんのSoundCloudにてデモが公開されています。
記事タイトルにもある"リズム遊び"という呼称及び、この記事での解説は独自の解釈であって、リズムの捉え方はこの限りではありませんし、人によって感じ方は異なるので正解もありません。
一つの意見としてお楽しみいただき、みなさんの楽曲(作曲)への興味がさらに深まるきっかけになれば嬉しく思います。
"リズム遊び"とは
おそらく大半の方がこの曲を初めて聴いたとき、初めの10秒を過ぎたあたりで「テンポが変わった、、、?」と感じたかと思います。しかし、実際にはテンポ自体は一切変わっておらず、リズムで遊ぶことであたかもテンポが変わっているかのような"錯覚"を生み出しているのです。
この楽曲にはそのようなリズムに関する技巧が至るところに散りばめられており、聴けば聴くほど面白い楽曲になっています。
楽曲全体のリズムに対するテーマ
突然ですが、"1ダース"という言葉を一度は耳にされたことがあると思います。12個を1組とする単位で、箱売りの鉛筆やチョコレートの「ダース」などが有名です。
12という数の約数の多さ故に広く親しまれているとも言われていますが、プロジェクトのリズムでもこの12という数が楽曲全体に大きく関わり、約数の多さがリズム遊びをする上でとてもいい仕事をしています。
一言で言うと、この曲は常に「12拍1組」で作られています。
勘の鋭い方はもうお気付きかもしれませんが、12拍は
2拍×6
3拍×4
4拍×3
6拍×2
と様々な分け方ができ、
更に1拍である4分音符を
8分音符
16分音符
と細分化することもできるため
0.75拍×16
のように、わりとキリの良い数で無限に遊べてしまいます。
そしてこれが実際に出てきます。冒頭からいきなり出てきます。
詳しくは後述しますが、この縛りとも思える12拍を意図的にテーマとして用いてると感じる箇所もあり、それが楽曲の面白さにも繋がっています。
少し長くなるかもしれませんが是非最後までお付き合いください。
※リズムの話題を扱う上で都合の良いようにセクション分けをしています。また、各セクションをセクション名のアルファベットで呼んでいきます。
資料解説
今回この記事ではこのような図を用いてリズムを解説していきます。
音程と音価(長さ)は度外視で、リズム譜的に記譜しています。
上から順番に、
ボーカル→[桃色](紫色)
ピアノ→[青色](深緑色)
ギター→[黄色](橙色)
ベース→[緑色](黄緑色)
ドラム→[朱色](赤色)
で表しています。
さらにそれぞれ、
[ ]の中の色がアクセントが強い音や目立つ音
( )の中の色がアクセントが弱い音
に対応しています。
水色の縦の太い罫線が拍の頭です。
一拍を4分割した16分音符を最小単位とした時間軸となっており、右方向に進みます。
少し見にくいとは思いますが、「一段上に飛び出してる音が重要なんだな」ぐらいに捉えていただければ大丈夫です。
A 0:00~0:11
説明なしに先に結論を言ってしまうことになってしまいますが、前提として
「このセクションはBPM=157の3/4拍子だ」
ということを念頭に置きながら読んでいただく必要があります。
3/4拍子×4=12拍です。
ご協力お願いします。
何も意識せずに聴くと恐らくボーカルがまず耳に入ってくると思います。
拍の頭を打つフレーズに聴こえると思います。
この場合
Aは4/4拍子(BPM=約209)に聴こえるのですが、
その後の
Bからの3/4拍子(BPM=157)との差が生まれます。
そのせいで、テンポと拍子が変わったように感じるのですが、先ほども触れたように実際はテンポも拍子も変わっていません。
この仕組みを理解するにはそれぞれの楽器のアクセントが鍵になってきます。
ギターとベースに意識を向けると、
1小節目は16分音符4つのかたまりを3回繰り返し、
3小節目は16分音符3つのかたまりを4回繰り返しています。
図で表すと1~4小節目は以下のようになります。
まず1,2小節目のアクセントが同じ箇所を線で結んでみます。
すると、
ギターとベースは拍と一致し、ボーカルは小節の頭でのみ一致していること。
ギターとベースのアクセント3回分の中に、ボーカルのアクセントが等間隔で4回入っていること。
が分かります。
この時点ではまだ「3/4拍子で数えてみてください。」と言われれば数えることができると思います。
しかし、3,4小節目以降はリズム感を余程鍛え上げた人でないと3/4拍子をキープできなくなるのです。
その理由は3,4小節目にも線を引いてみると分かるのですが、
3小節目からギターとベースのアクセントがボーカルに寄っており、ここまで拍の頭と一致しないアクセントを等間隔に打たれると脳は当然このアクセントが拍の頭であると勘違いしてしまいます。
これが先ほど出てきた4/4拍子(BPM=約209)のリズムです。
(本来のBPM=157の4/3倍のBPMになるため実際には209.33333…となります)
そしてさらに5~8小節目ではドラムも加わり追い打ちをかけます。
もうここまで来れば完全に4/4拍子(BPM=約209)×4にしか聴こえませんし、ボーカル以外のフレーズは3連符にしか聴こえません。
そしてそのままBに突入した時に脳がバグるのがこの錯覚の一連の流れになります。
このように、本来の拍とは違う拍を感じさせる手法を専門用語ではメトリックモジュレーションと呼ばれており、これを用いて実際にテンポチェンジを行っている楽曲もたくさんあります。
メトリックモジュレーションの例をハロスリの楽曲で挙げるなら、
「画家の死」の1:55から何度も登場する4拍3連のキメや、
「2XXX」の3:20(4拍3連)と3:40(3拍4連)などがあります。(2XXXは実際にテンポチェンジしています)
この錯覚を面白く聴かせるにはコンテクストがとても大事なのですが、
このAのセクションでは、
1小節目でギターとベースで3/4拍子をチラつかせる
4小節目にかけてじわじわと4/4拍子に持っていく
5小節目で完全に4/4拍子にしか聴こえなくする
8小節目の最後の拍の頭にアクセントを置いて3/4拍子をチラつかせる
Bで何事もなかったかのように3/4拍子を聴かせる
という流れを感じることでさらに面白く聴こえてくるはずです。
語りたいことの90%はAに詰まってたのでここからは飛ばしていきます。
B 0:12~0:43
ここは誰が何と言おうとBPM=157の3/4拍子です。
BPM=157の3/4拍子×4=12拍です。
C 0:44~0:56
無機的なピアノフレーズで一気に不穏になります。
無理矢理分解すると、
6/4+3/4+3/4
という分け方ができ、この後の複雑なリズムの絡み合いの取っ掛かりとなります。
もちろんここも12拍です。
C' 0:57~1:06
ここからの拍子の表現は、リズムの絡みを解説する便宜上行っているものなので少し大袈裟な分け方をしていきます。
まず、1~4小節目の各パートの拍子分けは、
ボーカル→2/4+2/4+2/4+2/4+1/4+3/4
ピアノ→6/4+3/4+3/4(コードは各拍の頭で鳴っている)
ドラム→1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4+1/4
となりいずれも合計12拍です。
ここでも、メトリックモジュレーションとはまた異なりますが、少しリズムを外されるような感覚があると思います。
ボーカルとドラムのアクセントが同じ箇所を線で繋ぎます。
拍の裏で等間隔にアクセントが連続し、前半の6拍はピアノが単調なフレーズとなっていることもあり、裏拍が頭に来ているような感覚がじわじわと迫ってくると思います。
ただ、ここでは最後の3拍でボーカルが表のアクセントに戻り、ピアノのアクセントに3/4のリズムが浮き出てくることで、辛うじて表の拍に引き戻されます。
気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、この裏拍のアクセントを最大限強めて完全に表と裏をひっくり返らせ、元のリズムに戻るときに0.5拍消えたかのような聴かせ方をしている曲がハロスリの曲にあります。
「LIFE is a GAME??」のBメロと、
「午夜の待ち合わせ」の間奏ですね。
本題に戻ります。
伸びやかな3拍子系のドラムとベースが加わる8~12小節目では、先ほどとは打って変わって、ボーカルと異なるタイミングでのドラムのアクセントが前面に出てきます。
そのおかげで拍の頭が分かりやすくなり、「ボーカルが裏のアクセントで歌っているな」という感覚が強まり、ノリの良いまた違った表情のボーカルが楽しめます。
そして、とても細かいところにはなるのですが、8~10小節目で唯一ボーカルとドラムのアクセントが重なる箇所があり、そこがほんとに旨味がたっぷりでたまらないので紹介させてください。
ここです。
9小節目の3拍目裏のドラムのアクセントなのですが、ここでボーカルとアクセントが重なることで、11小節目の頭拍が少し薄れ、9~11小節目のドラムが滑らかに繋がっているように聴こえるのです。ドラムだけで聴くと11小節目の頭もアクセントが付いているように聴こえるとは思いますが、
ボーカルの”2/4+2/4+2/4+2/4+1/4+3/4という分かれ方”、
ベースの”小節の境界をぼかすような拍前から始まるスライド”、
が相まって、
本来は前半2小節と後半2小節の間で感じられる境目が、
11小節目と12小節目の間にずれ込んでいる
ように感じられます。
さらに、9小節目のドラムの3拍子が2拍目と3拍目の境目を繋ぐことで、ボーカルの2/4+2/4が4/4に聴こえるようになり、10小節目と11小節目の境目が曖昧になることで2/4+2/4+1/4は5/4にも聴こえてきます。
人によっては「普通の三拍子じゃん」となるかもしれませんが、アクセントを細かく見ていくと色んなリズムの切り取り方で楽しめるのは確かです。
D 1:06~1:24
色々なことがありましたが、ようやくサビです。
4/4拍子で、「ノリやすさ重視かな~」と思わせたところを突如ぶった切る「プロジェクト」という歌詞のフレーズ。
囃し立てるようでありながら妙に心地いいセクションでもありますし、ハロスリを長年聴いてきた方は「また面白いことやってるな」、って感じになると思いますが、なぜサビをこんなにも思い切りぶった切ったのか、というところが気になって、拍を数えてみたんです。
12拍でした。
4/4拍子×3の12拍でした。
12拍でさんざん遊んだ上でのこの異様なサビ。
ここまではこのサビのためのクソデカ伏線だったといっても過言ではないでしょうし、これはもう誰が何と言おうと、意図的に12拍になるようにテーマを与えて作っているということにさせていただきます。
これで語りたいことの99%は終わりました。
2A 1:25~1:33
2Aの1~4小節目は、どっしりとドラムが鳴っていてAよりも強度の高い3/4拍子のアクセントで逆にボーカルが浮いてくるほどのパワーバランスですが、5~8小節目で一気に全部ボーカルが搔っ攫っていきます。
さらにギアを上げるぞと言わんばかりの目まぐるしさです。
2B 1:34~2:05
すっきりとした3/4拍子だったBとは対照的でやりたい放題な2Bです。
ギター→6/4+4/6
ベース→3/4+3/4+3/4+3/4
ドラム→2/4+2/4+2/4+2/4+2/4+2/4
と、約数全部盛りみたいな感じです。
E 2:06~2:15
ここはちょっと面白い構造になっていて、
Aのメトリックモジュレーションの流れと、移調したCのピアノフレーズが組み合わさったようなセクションです。
Eを聴きながらAのボーカルフレーズを口ずさんでみると楽しいです。
E' 2:16~2:33
ここです。サビ第2弾です。
今までのすべてを吹き飛ばすほどに澄み切ったサビです。
ここを初めて聴いた時はほんとに「シュンタロウさん天才だな、、、」ってなりました。
E'' 2:34~2:52
Cでは無機質だったあのピアノフレーズがこんなにも溌剌としている!
ちらつく3拍4連がAのメトリックモジュレーションを彷彿とさせる!
となる振り返り感動セクションです。
E' 2:53~3:09
落ちサビがあります。ご褒美です。
ライブでケチャらせてください。後生ですから。
G 3:10~3:33
アキレスと亀といい水面といい2XXXといい新世界といいSCAPEGOATといいプロジェクトといい、ラスサビ後にもう一段階優勝できるセクションを用意してしまうハロスリ、ずるいですよね。
しかもここまできても鮮度抜群の6/4拍子×2で締め括るという一切の妥協を見せないシュンタロウさん。感服です。
さいごに
後半駆け足になりましたが、一通り「プロジェクト」のリズムの面白みについて好き放題書かせていただきました。
先日行われた「走り出す生命体 2022」には行けなかったので音源化するにあたりどんな進化を遂げたのかはまだわかりませんが、サブスクの配信開始前のページでデモと再生時間がほぼ同じことは確認しているので、今回書いた内容はリリース後も曲と照らし合わせながら楽しんでいただけるかな、と思います。
リリースまでの約一ヶ月半、待ちきれないですね。
拙い文章だったり言語化が下手だったりで、読みにくかったとは思いますが最後までお読みいただきありがとうございました。