令和2年の年末調整は大変だった
令和2年ももう残すところあとわずか。年末調整業務も大分落ち着いてきました。まだ、再年調・新年分の提出書類の配布と回収・法定調書の提出というタスクは残ってはおりますが、ゴールは見えてきたので、令和2年の年末調整は大変だったなーと、その理由を備忘録として書いていきたいと思います。
自己紹介
年齢40代前半の男、職業SEです。就職してから職種は変わっていないので、もうすぐこの道20年です。業務としては、給与計算システム、特に年末調整機能とその周辺機能を担当/率先?してやっています。
給与計算システムにかかわり始めたのは8年位前からで、当時は全く何もわからなかったのですが、毎年のタスクをこなしていくうちに、今やオフィスでも一目置かれる年末調整通になっています。
令和2年の法改正
年末調整システム担当といっても、1年を通してずーっと年末調整の仕事をしているわけではありません。通常は、こんな感じで業務をやってます。
2月~7月:他の仕事
8月~1月:年末調整の仕事、特に10月~12月はがっつり
年末調整というのは簡単にいえば所得税の帳尻合わせの作業です。所得(給与)税に対する国の方針が変われば法律が改正され、年末調整のシステムもそれに即した形で変更する必要があります。令和2年はそんな法改正対応がてんこ盛りでした。主だったものをあげると、
①給与所得控除に関する改正
②基礎控除及び所得金額調整控除に関する改正
③各種所得控除等を受けるための扶養親族等の合計所得金額要件等の改正
④「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」の新設
⑤単身児童扶養の対応
⑥ひとり親控除及び寡婦(寡夫)控除に関する改正
こんな感じです。業務として年末調整に関わっていない人には大変さがあまりピンとこないとは思いますが、私が関わっているシステムにおける改修工数をざっくり見積もったところ10人月の工数が必要となりました。通常の年は、改修や準備には1~1.5人月程度の工数なので、約10倍近い改修が必要となったわけです。
これだけの修正が令和1年の末頃から明らかになっていたため(⑥のひとり親に関しては公式発表はされていませんでした)、人事業務が円滑にまわるようにPhaseを2つに分け、いつもより前倒しで作業を開始しました。ざっくりとこんな感じです。
Phase1:①、②、③を3月にリリース
Phase2:全機能を10月にリリース
Phase分けの根拠は、海外赴任等があるとその時点で年末調整計算処理を実施する必要があるため、まずは計算部分だけでもリリースする必要があったからです。年末調整の根拠となる「給与所得者の基礎控除申告書」及び「所得金額調整控除申告書」については一時的に紙運用でしのぎ、その間に全機能を開発して、10月にリリースという作戦で動くことにしました。
色々あった
ここで大変だったことを振り返り
単身児童扶養の廃止
「単身児童扶養」は、令和2年の扶養控除(異動)申告書に新たに欄が追加された項目です。今まで従業員の属性データにはなかった項目なので、当然 データベースや画面に追加する対応をしました。しかし夏頃に、この「単身児童扶養」が、更に令和2年に新たに追加された「ひとり親」を流用することが決定となり、「単身児童扶養」はなかったことになりました。
ここで初動が速かったゆえにダメージをモロにくらいました。既に製造は完了していた「単身児童扶養」系の項目を消すという仕様変更を追加することに。。。まさかお上の指示に従って足もとを救われるとは思いませんでした。
所得金額調整控除申告書
現在はFAQなど、ある程度資料はそろっていますが、設計を始めた頃は参考資料もほとんどなく、また、最後の駆け込み寺である国税庁電話相談センターもコロナによる緊急事態宣言の影響でほとんど電話が繋がらなくて、設計が大変でした。
所得金額調整控除は、簡潔に記載すると以下に該当すると控除が適用されます。
・年収が850万を超える
・以下の要件のいずれかに該当する。
-あなた自身が特別障害者
-同一生計配偶者が特別障害者
-扶養親族が特別障害者
-扶養親族が年齢23歳未満
が、この年収以外の要件が曲者で、所得金額調整控除申告書の裏面には、以下の説明が記載されています。
あなた以外の所得者の所得金額調整控除の適用において、次のイ、ロ又はハに該当する特別障害者 又は年齢23歳未満の人とされた人であっても、あなたの所得金額調整控除の適用において、次のイ、ロ又はハに該当する特別障害者又は年齢23歳未満の人とすることができます。
イ あなた自身が特別障害者
ロ 同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者
ハ 扶養親族が年齢23歳未満
つまりわかりやすい例でいうと、夫婦共に850万を超える年収があり、その世帯に23歳未満の子供がいる場合は、夫婦ともにこの所得金額調整控除を受けることができます。
そして私が混乱したポイントは、この「ロ 同一生計配偶者又は扶養親族が特別障害者」の部分
一見、親が扶養している配偶者についても適用要件になりそうなんですが、裏面の説明に更にこんな記載が。
2「同一生計配偶者」とは、あなたと生計を一にする配偶者(青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専 従者を除きます。)で、本年中の合計所得金額の見積額が48万円以下(給与所得だけの場合は、給与の収入金額が103万円 以下)の人をいいます。
3「扶養親族」とは、あなたと生計を一にする親族(配偶者、青色事業専従者として給与の支払を受ける人及び白色事業専 従者を除きます。)で、本年中の合計所得金額の見積額が48万円以下(給与所得だけの場合は、給与の収入金額が103万円 以下)の人をいいます。
まず2で、同一生計配偶者はあなたと生計を一にすると言っているので、本人が扶養するということになります。また3の扶養親族の欄では、配偶者は含まれないと説明されています。ただし、前文では、「あなた以外の所得者の所得金額調整控除の適用において、次のイ、ロ又はハに該当する特別障害者 又は年齢23歳未満の人とされた人であっても、あなたの所得金額調整控除の適用において、次のイ、ロ又はハに該当する特別障害者又は年齢23歳未満の人とすることができます。」と書いてあります。結論としては、恐らく配偶者に関しては、あなた以外が扶養する場合は同一生計配偶者は適用されないので、このケースはその他の扶養親族の際のみ考慮すればいいということにしたのですが、この結論に至るまでに、やっと繋がった国税庁電話相談センターに、サザエさんで例えると、「マスオさんが仕事辞めちゃって、サザエさんが波平の扶養になっている世帯でですね~」みたいな説明をして、「はー」みたいな塩対応をされながらもなんとか理解して答えをもらうみたいなことをしていました。
余談 マイナポータル
実は令和2年は、年末調整におけるデジタル元年でした。マイナンバーカード保有者が使用できるマイナポータル上からAPIを利用して、保険料払込証明書と住宅取得控除の証明書をシステム側からも取得できるという画期的なサービスが開始されました。当然、私もシステムへの組み込み対応をやりたかったのですが、数人で開発しなければいけない状態で、法改正以外の改修は対応できませんでした。この辺りは来年にお預けです。
最後に
こんなマニアックで文字ばっかりな内容ここまで読む人はいないと思いますが、少なからずいるとは思われる同志の方達にむけて、今年もお疲れ様。
よいお年を