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映画から学んだ世界の人権問題#2 【DETROIT デトロイト】

2017年公開の映画「デトロイト」を観ての感想です。

作品公開の50年前1967年に起きた、アメリカの大暴動「デトロイト暴動」の最中で起きた「アルジェ・モーテル事件」を題材にしたドラマ映画です。


映画「DETROIT デトロイト」(2017)


監督:キャスリン・ビグロー 脚本:マーク・ボール出演:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、アンソニー・マッキー、アルジー・スミス配給:ロングライド© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式HP:映画『デトロイト』公式サイト (longride.jp) 


■デトロイト暴動(12番街暴動・12番街通り暴動)


1967年夏、デトロイトにある「ブラインド・ピッグ」と呼ばれる違法バーの摘発がきっかけになります。

当時の酒場は免許制で営業時間も午前2時までだったのだが、それを破って営業していたことで警官が踏み込みました。

通常は数人のオーナーや客を逮捕し警告する程度ですが、当時その店でベトナム戦争の退役軍人2人の歓迎会が開かれていて、警察の予想を上回る黒人客たちが詰め掛けており結果80人以上のアフリカ系アメリカ人を含むすべての常連客を逮捕する事態になりました。

さらに、本来こういう取り締まりは店の裏口から入って市民から見えないように行うものだが、この店は裏口の鍵が頑丈に閉まっていて警察がやむを得なく市民から見える道路側から取り締まりを行った事で目撃者も多かった。 この騒ぎに駆けつけた近所の黒人たちは警察の車両に向かって物を投げ、さらに混乱に便乗した人々(白人も含む)による暴行や窃盗が起こりました。

このデトロイト暴動は5日間続き、米陸軍も配備され最終的には
33人のアフリカ系アメリカ人と白人10を含む43人の死亡(そのうちの30人が警官によるもの)
1,189人が負傷
7,200人以上が逮捕
1,000以上の建物が焼失という
アメリカ史上最大規模な暴動とされている。

そして映画の題材となる「アルジェ・モーテル事件」は、この暴動の2日目の夜に発生しさらに暴動を激化させたようです。

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


・1967年 デトロイトの時代背景

街には自動車工場で働く労働者の黒人たちが住んでいる。この地に黒人が住み着いたのは、1910年代に発生したアメリカ南部から北部に向けての黒人たちの大移住が原因であり、第二次大戦後に加速した白人たちの郊外への移住がそれに拍車をかける。低所得な有色人種の労働者たちは都市の中の狭い住宅街に押し込まれ、治安の悪化は加速する。それを取り締まる警官たちと住人の間には軋轢が広がり、1960年代の公民権運動の加熱もあって、デトロイトの市街地は一触即発の状態にあった。

Exciteニュース ”エキレビ”より

■アルジェ・モーテル事件


アルジェ・モーテルはデトロイト暴動の場所から約1.6km東にある安宿(現在は無くなっている。)で、
この事件の際には黒人男性数人白人女性の若いグループと、地元デトロイトの黒人によって結成されたバンド、ザ・ドラマティックスのメンバー2人が市内の暴動の中帰れずに宿泊をしていました。
(実在の人物です。)

暴動の最中、アルジェ・モーテルで起きた銃声によって事件がはじまります。
これは客が持っていたスターターピストルであったが、
遠目に見えるデトロイトの街で暴動を取り締まってる警察に向けて”単にふざけてはなった”のであった。
それを警察たちは、「狙撃犯」と勘違いをしてみるみるとアルジェ・モーテルに集まってくる。
そこから誰が撃ったんだという地獄のような尋問がはじまります。


アルジェ・モーテルでの尋問部分は
映画の中で40分程使用されています。

観てるこっち側が
「これは一体いつまで続くの?」
と先が読めない恐れと不安を感じたので、
当事者の辛さは計り知れません。

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

驚きなのが、
これがほんの50年前の出来事であるということ。
実際に被害に遭われた方も撮影場所にいたそうなので、当時の様子を生々しく描かれています。

この警官による暴行により3人の黒人男性が死亡してしまいます。

そして事件の結末も衝撃をうけました。


・裁判の結果

この事件はアルジェ・モーテルの近くのホテルに狙撃手、銃を持った犯罪者またそのグループがいるとの報告が受けた後に始まり、死亡した一人は容疑者とされ、残る二人は警察による正当防衛によって死亡したとされた。

暴行、第一級殺人、共謀、職権乱用の罪で3人のデトロイト市警察の警察官と暴行、共謀の罪で民間の警備員が起訴されたが、全員無罪判決が下された。

wikipediaより


この内容の描き方が、
白人視点で描く「黒人差別を助長する映画」と批判する記事もありました。
暴動のことや、裁判に至った経緯も記載されています。
映画では描かれていない事件の背景などがあるので、映画を観た人はこちらも併せて読んだ方がいいと思いました。


■印象的なシーン(映画)

・悪をひとくくりにしない

尋問をしていたのが白人警官3人、
尋問をかけられていたのが黒人男性とその中に白人の女性もいました。

白人だから解放とかじゃなくて、ここで男尊女卑的な内容もみれました。

この中で黒人男性が3人射殺されてしまうのだが、裁判で白人警官は"無罪"になります。

裁判の帰り際のインタビューで被害者家族は怒りながら
" この中にいたのが白人男性だったら結果は変わっていたんだろうね!”
と言葉を放ちます。


しかしこの映画では、白人だけが悪いという内容ではなかった。

尋問されていた黒人男性を今のうちに逃げるんだといって解放してくれた白人の警官隊もいた。傷だらけの黒人の青年を見かけたら、
誰にやられたんだ?早くおいで 、と家にいれてくれた白人もいた。

この部分はもしかしたら作品として付け加えただけかもしれないけど、
こういう部分がないとどうしても「白人は全員差別をしている」という概念に陥りがちになります。
もしこういった部分がなくても、白人とか黒人ではなく個人の思考で起こった出来事であるということを忘れないようにしたいと思いました。


・問題解決がすすまない本質

尋問していたのは デトロイト市警の警官3名。
尋問の途中でミシガン州警察がモーテルに到着する。

外で見張っていた州兵が、到着した警官に
"中でデトロイト市警が尋問していますが、あれはやりすぎです!"
やめさせてほしいような、そんな様子で訴えかけます。


だけど、到着した警察が
中にいるのは誰かと聞いて 
州兵から"黒人の青年と白人女性です"と聞くと

少し考えて、、

彼らにまかそう。人権問題に関わりたくない"
といってスルーしていきます。

これが人権問題が解決しない本質なのかなとハッとさせらました。


・無知であることがいけない

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

尋問をしていた警官(クラウス)役を演じていたウィル・ポールターがインタビューで、
「クラウス自体が無知であった。無知であることがいけないんだ。」
と言っていました。

クラウスは無知なくせに変に正義感が強い

クラウスは映画の冒頭で、
デトロイトの暴動は、警察が今まで黒人を野放しにしてしまったからいけないんだ。」というセリフをつぶやきます。

だからそのまがった正義感で厳しく取り締まるのを正当化して、
青年たちの訴えも聞かずに銃をつきつけ地獄のような尋問を続けた。
クラウスのその信念(執念?)はすごいもので、一人を違う部屋に連れていき銃を放って悲鳴をあげる演技をさせて別の部屋にいる子たちに言わないとあいつみたいに殺すぞ、って脅迫をする場面もありました。

ウィル・ポールターはこの役を演じるにあたって、すごく苦戦したそうです。

本作でラリー・リードを演じたアルジー・スミスは、ポールターがクラウスという役柄を演じ続けることに耐えられなくなったことがあると明かした。「ウィルがセットの中で、突然泣き崩れてしまったことがあった。彼は、ビグロー監督を見上げてこう尋ねた。『あと何回このシーンを撮り続けなければならないのですか? もう耐えきれません』と。聞いていた僕たちも、押さえていた思いが一気にこみ上げてきた。彼を抱きかかえようとしたけれど、自分も一緒に泣き崩れてしまった。その時、演技をするだけでもこれほどまでに苦しみや痛みを感じるのに、これが現実のものだったとしたら、これ以上に痛ましいものだったに違いない」と痛感したという。

Hollywood Newsより


この事件の真相が明らかになったのはしばらくたってからだそうで、
日本でもあまり知られていなかったみたいです。

問題の解決は、まずは一人一人が、人権問題の歴史を知っていくことが必要なんだと感じました。

■報われたこと

© 2017 SHEPARD DOG, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

被害者の一人でもある、ザ・ドラマティックスのラリー・リードは
ミュージシャンを目指していたがこの事件後にミュージシャンは諦め聖歌隊に入りました。(映画の中でもその内容描かれています。)
このラリーと、ラリー役を演じたアルジー・スミスが一緒に歌った楽曲があります。

この動画で アルジー・スミスが
「彼は50年前に奪われた夢を果たすことができたんだ」
「チャンスは必ずめぐってくる」
とコメントしています。

「人はみな平等であるはず」
「僕らはいつ成長するのか」
という強いメッセージを歌い上げたあとにラリーが
「最高の気分だ」
と目を輝かせながら言います。

【日本語歌詞】
欺きの街で育ち見る目も失った
サイレンの音が大きくなってきた
そうさ、感じてくれ
よりによってなぜ ここが僕の居場所なのか
自分が嫌いだった 違う自分になりたかった

信じてくれ 本来 人は皆 平等であるはず
でも分かっている 間違いなくね
僕らのような人間にとっては そうではないんだ
こころが泣き叫んでいる
つらいんだ つらいのさ
僕らは いつ成長するのか

内面を磨くんだ
本来 人は皆 平等であるはず
でも分かってる 分かってる
僕らのような人間にとっては そうではないんだ

心が泣き叫んでいる
知りたいんだ どこへ向かうのか?
一体どこへ?
僕らはいつ成長するのか
どうか教えてくれ
心の中では分かっている
本当は知っているのさ
分かってる そうさ 分かってる
心の底で知っているのさ
成長したい
いつ成長できるのか
どこまで行けるのか

50年というほんとに長い間
苦しみや葛藤と向かい合ってきた
ラリーのこの一言と歌詞の重みを
ぜひ映画をみて感じ取ってほしいです。

そして、こういった映画を観て一人一人にスポットライトをあてて考えるようになりました。

尋問の際に居合わせた他の男女は、どういった未来になったのか。
警察官は?
その家族は?

そういう事もすごく大事なんじゃないかなと思う、今日この頃です。


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