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E-Learning事業のその後-2

みなさんこんにちは!ソルト・パヤタスの上田(じょうた)です。
前回に引き続き、E-learning 事業をやってみてどうだったかを書きたいと思います。もしE-learningをフィリピンや別の国の経済的に裕福ではない地域で実装することを考えている方がいらっしゃったら、参考にしてもらえれば幸いです。

まずは結論からですが、この事業の目的でもある「学習習慣の取り戻し」に関しては113名を対象者に対して提供できた事、E-Learningの平均学習時間が20時間以上であった事から、概ね成功であると考えています。一方でやってみてわかった事は下記の通りです。

E-Learning事業でわかった事

・数学(もとい算数)が非常に苦手という事。特に割り算が苦手
・低学年の方がE-Learningの学習効果が高かった事

どんなところでE-Learning事業を実施したか

僕らがプロジェクトを実施した地域のプロフィールは下記の通りです。
地域:フィリピン共和国リサール州カシグラハン村
(マニラ都市部からの距離車で約2-3時間程)
実施場所:カシグラハン村のインターネットカフェ

限られた予算の中でできるだけたくさんの参加者にE-learningを受講してもらい、学習習慣を取り戻してもらいたいということが狙いだったため、経費がかかるパソコンは購入せず、地域のインターネットカフェと提携することにしました。インターネットカフェであれば子どもたちも通い慣れているので勉強へのハードルもはずと考えたからです。

プロジェクト対象者と実施期間について

カシグラハン地域に住んでいる下記の学生を対象に行いました。
対象者層:家計収入が400ペソ以下の家庭
対象者数:中学1年生〜高校1年生 113名
実施期間:2021年10月末〜2022年3月

プロジェクト実施期間中における参加者推移

本来であればこのプロジェクトは8月から実施をする予定でした。しかし、コミュニティ隔離措置が発令されたこともあり、10月末からの開始となってしまいました。コミュニティ隔離措置の期間にモチベーションを失ってしまった子どもたちもいたり、親が参加を拒んだりなどで、当初の参加登録者から40名ほど減でスタートし、適宜補充をして80名弱で3月末を迎えたという結果です。

わかった事① 数学が非常に苦手という事実

カシグラハンの公立学校に通っている子どもたちは数学が苦手という事は過去の経験から知ってはいたのですが、中学生でも単純な四則演算が怪しい子も多いということがわかりました。特に割り算はかなり苦戦しているようで、実施した試験の科目の中で最も点数が低かった分野でした。
数学は特に基礎力が重要になってくる学問分野なので、足し算、引き算、掛け算、割り算で躓いている子どもたちが中学生の分野を学んだとしても、おそらくなんとなくでしか理解ができていないんだろうなということが予想できます。近年フィリピンでも学校教育の質が問題視されていますが、データとしてもこれが見て取れるなと再確認した結果でした。
まあ、小学校60人1クラスとかで勉強していた背景を考えると、基礎力がついていないというのは仕方がないことですが、E-Learningに参加をする事で、ここは取り返してもらいたいなと思っています。

わかった事② 低学年の方がE-Learningの学習効果が高かった事


今回はプロジェクト効果測定のために参加時と3月末に基礎的な四則演算のテストを受験してもらいました。全参加者で両方のテストをもれなく受験したのは54名、結果は下記表の通りです。

この前後のテスト結果からわかったことは、低学年の方が前後の試験結果に、より優位な差(意味のある差)が見られたことです。つまり、低学年の方がE-Learningの効果があったと言えるということです。これはプロジェクト実施前にはわからなかった点ですが、今後このプロジェクト対象者を絞っていく際には低学年を中心に施策を実施していく必要があると言えるかと思います。また、今後は小学6年生や5年生にも参加ができるようにカシグラハンで動いていきたいと考えています。
ただし、前後のテスト結果を単純にT検定した結果だけをベースに導き出しているので、因果関係は証明できていないです。低学年だからE-Learningの効果があったという結論を書いているというわけではなく、どの学年にE-Learningという投資をすべきかという問いの一つの検討材料としてこのデータを捉えているということは念の為お伝えしておきます。

難しかった事

あるインターネットカフェとの交渉がかなり難航しました。合計で3つのインターネットカフェと提携をして実施していたのですが、協力的な2つのカフェとは違い、1つのカフェからは日本の団体という事で、何度も利用料の値上げを迫られた状況でした。この交渉は現地スタッフがかなり頑張ってくれて、何度もオーナーと話し合いをしてくれたので今回はなんとか3月まで実施することができました。あまり足元を見られても困るので協力的なカフェの稼働率を上げ、売上に貢献する事でPCの追加購入などを検討してもらってもいいかも知れないなと思いました。

今後さらに調査が必要な事

3月までのプロジェクト実施状況を分析した結果わかってきたこともあるのですが、今後もこのプロジェクトを実施していく中で調査をしていきたいのが、下記2点です。

・E-Learningを真面目に受講する子どもたちと、途中で来なくなってしまう子どもたちの差は何か
・保護者の支援と子どものモチベーションの関係

これらは今手元に何かデータがあるわけではないので、かなりヒューリスティックになるのですが、事務局長や担当者からの報告を聞いている限りではこの2つの謎をもう少し解明していく必要があると考えています。
参加者推移を見ていただいてもお分かりになる通り、途中離脱者が後を絶えません。もちろん参加前に意思を確認しているのですが、今まで勉強の習慣が無かった子たちがすぐに勉強に向き合うかというと、そうでもないというのが事実です。当たり前のことなのですが。また、保護者も口を揃えて勉強させたいというのですが、客観的に見て結構子どもが勉強する事に無関心だったり、あまり勉強をどうやってするのかを理解していないような気がします。この傾向と要因さえわかればE-Learning以外のプロジェクトにも応用できるはずなので、定量的・定性的な調査両方の観点から見ていきたいと思います。


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