あの時代に。あのときに。
気がつけば二ヶ月以上も過ぎてしまっていました。少しからだがしんどくなっていて書く気力がなかった。10月に書いてから倒れてしまって入院し、長引いてしまったのもあって。
入院中体調が少しましな時に妹が差し入れてくれたタブレットで映画を観たりしたんだけど、フクザツなのとか前衛みたいなのとかちょっとダメで。誰だったか忘れたけど死期が迫ったまだ40歳になったばかりの俳優さんが「高卒だからってバカにされたくなくて哲学書を読み漁り、前衛アートやクラシック音楽なんかにたくさん触れて知識を高めようと必死に生きてきたけれど、もうあまり長くは生きられないと知った時、病床でずっと聴いているのはサザンだし、読んでいるのはコミックスの『少年アシベ』で、そういう単純なのがすごく良い」って言ってて、それすごくわかるんだよな。俺もホントにそう。
単純かどうかはわかんないけど、観た映画の中では中山美穂が主演の「Love Letter」という映画が良かった。岩井俊二監督の長編第1作なんだそうだ。
有名な山に向かって叫ぶシーン「お元気ですかー!」のところも、ラストに後輩に見せられた図書カードで彼の想いがやっと伝わるところも良かったけれど、山で滑落して亡くなった婚約者が、亡くなるまでずっと谷底から松田聖子の「青い珊瑚礁」を歌っていたというエピソードが主人公と彼の友人で交わされて、彼の友人が「なんで松田聖子だったんやろ?あいつ別に好きじゃなかったのに」と言って笑うシーンがなぜか心に残った。
自分が冬山で滑落しておそらく救助が来るまでもたないと悟ったとき、最期までずっと歌った歌が特に好きでもなかった松田聖子の青い珊瑚礁。これもすごく俺にはわかる。
多分彼は、松田聖子の「青い珊瑚礁」という歌を歌ったんじゃなくてその歌がヒットしていた「時代」を歌ったんだろう。その頃が一番懐かしく輝いていた、彼にとって大切な時代だったんじゃないかと思った。あ、この話にオチはないです(笑) 人生最期のときに、ヒット曲を歌いたくなるような「時代」を持っているということは、幸せだったんだろうな。
もうずっと母に世話になってしまっている。自分のアパートを引き払い、母と朋子と一緒に実家で暮らしている。いい歳をして本当に情けないが。実家の庭に夏みかんの木があって、その実を母が絞って、ハチミツを入れたジュースにしてくれるのを毎朝飲んでいる。最近はあまり固形物が食べられないんだけれど、これはとても美味しい。毎朝これを飲むのが楽しみ。酒が好きで毎日呑んでたのにもう臭いを感じるだけで吐き気がしてダメだな。タバコなんかまったく吸いたいとも思わないし。なんとなくそのときが近づいているように思う。
どんなに立派な人間でも もうあんまり長く生きられないとわかったら残念な気持ちになると思う。俺もいま本当に残念だ。
こうしなければ良かっただとか、もっとこうしていたら、というような後悔よりも、ただただ残念だ。残念で悲しい。
もっとずっと生きていたい。
残念だ。
山下順平の家族の者です。順平は2023年12月12日に永眠いたしました。享年54歳でした。生前皆様に賜りましたご厚情に深く感謝いたします。
順平の連れ合いに関しましては安心できる場所で新たな生活をスタートしておりますので、ご安心ください。
順平が亡くなったことで、こちらの日記の更新は今後ありませんが、短い間でしたが、彼が病や自身と向き合い生きた証としてここに残したいと思います。これまで見守っていただきまして誠にありがとうございました。
2024年1月1日
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