No.1 はじめまして
1月○○日
被検体の身体、精神に著しい過剰な負荷を受け、それに伴い対象の心が壊れたのを確認。
傷を負った怪我の一部、首に触れ刺激を与えても無反応。呼びかけると数秒後に反応を見せるのを確認。ただし言葉は発しない。脳の動きが悪いと思われる。修復の余地は無いと思われる為処分を求める。
2月□□日
処分の依頼をしていた被検体を保護するという変わり者が現れた。その者は丁度先月ここに配属された新人になる。実験に被検体が適任だという。
彼の実験内容は「壊れた人間を修復した後、その者の自我の変化について」だった。
我が国では勝手に一人の人間の未来を壊す事は禁止とされている。例えそれが自殺志願者がいたとしてもだ。それ故、既に壊れた被検体は適任と判断された。彼の熱意が伝わったのだろう。
処分は白紙、代わりに被検体には新人の研究アシストをすることになった。私自身は記録係として彼らのやり取りを記録していこうと思う。
ユーカリの傍で今日も
No.1はじめまして
「初めまして、かな。今日からここが君の部屋だよ。」
「………」
被検体の瞳は変わらず光が無くただただじっと彼を見つめている。反応の鈍さに先月対応していた研究員は彼に暴言を吐いていた。しかしこの新人は首を傾げながら少ししゃがみ視線を合わせる。
「欲しいものがあったら教えて欲しい。私はあまり人の考えが予想はしても合ってることが無くてね」
いいかい?と聞く新人に彼女は静かに頷いた。
語源理解は出来ている。負傷時と比べ少しずつ回復している。しかし、それでも今の被検体は人形のようだ。
椅子に座っている彼女の目は足元から少し先をじっと見つめている。
空間の変化に伴い不安を感じているような素振りも見えない。何より相手の会話を理解しているようだが、言葉を発しない。
無音の空気の中、それを崩したのは新人だった。
「君の名前はなんて言うんだい?」
「………」
やはり何も答えない。何時になったら彼女は口を開くのだろう。しかし新人は特に責めることも無く隣の席につき、笑みを浮かべた。
「では、私がつけてもいいかい?君に似合う名前を思いついたんだ。」
こくり、と彼女は頷く。今回の反応は遅れが無かった。新人は手を握り、新しい名前を告げた。
「君の名前は、零だ。これからよろしくね。」
彼女…零は目を見開くが、久しぶりに声を発した。
「あなたのことは…なんて呼べばいいの」
「んーそうだな。では"先生"と呼んでくれ。」
先生…、小さく呟き彼女はもう一度告げる。
「よろしく、…せんせい」
少しずつですが元々好きだった創作活動を始めようと思います。拙い文字になりますが二人の末路をしっかり書いていければと思います。
壊れた少女を元に戻す一人の研究員の話。
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