林檎の妖精 #16 ~ #20
仕事帰りに、会社の近くの本屋に立ち寄った。家の近くにも本屋はあるが、都心に比べると規模が小さいので、色々見比べるのは都心の本屋の方が都合がいいのだ。
お店に入ると、入口からすぐのところに新作コーナーが出来ていた。
今日の目的はガイドブックだったが、ちょっとだけと決めてその新作コーナーを眺めていると、一冊の小説が目に入った。
【夢幻鉄道】
東山さんという人が書いた本のようだ。
(新人さんかな?聞いたことないな・・・)
中をパラパラと呼んでみると、思わず鳥肌が立ってしまった。私が先日体験した不思議な出来事とよく似ていたのだ。
(いや、まさか・・・単なる偶然・・・)
そう思ったが、少し考えてみた。
(もし・・・もし、私が乗った列車がこの【夢幻鉄道】だったとしたら・・・この小説に、何かヒントになることが書いてあるかもしれない)
しっかり読んでみようと思い、購入することにした。何ならこの東山さんという方に直接話を聞きたいくらいだ。
「これください!あ、袋は要りません。」
「じゃあ、テープで失礼しますね~。」
購入した小説をカバンにしまい、本屋を足早に立ち去った。
温泉地のガイドブックを買うことは、とうに忘れてしまっていた。
帰りの電車に揺られながら、購入した小説を読み進めていた。微妙に違う部分もあるが、私が体験したことがほぼそのまま書かれていた。差し込まれている挿絵も、私が見た景色そのものだった。
(こんなに似るものだろうか・・・。)
この東山さんと話をしてみたいと思ったほどだ。この方も実体験を小説にしているのだろうか。
私が乗った列車がこの【夢幻鉄道】だとしたら、私が見た景色は「誰かの夢の中」らしい。一体、誰の夢なのだろうか・・・。
私自身があの世界にいるから、私の夢ではないと思う。となると、琴か?・・・いや、あの時間は恐らく起きていた。私が家に帰った時は、妹と一緒に部屋で遊んでいたし。でも、もしあの世界に仮にイシキュアマナムが居るとしたら、琴以外の誰の夢なのだろうか。
これさえ分かれば、またあの世界に行ける気がするのに・・・。
・・・ダメだ、肝心なところが結局分からない。どこの誰の夢か分からないなら、列車に乗れるタイミングさえ掴めない。イシキュアマナム・・・会えるなら会って、直接話をしてみたいのに。
(・・・今日は、帰ってからこの小説を読み進めてみるか。)
そう思いながら、窓の外を眺めた。
もうすぐ降りる駅に到着する。
駅を降りると、雨が降っていた。
(明日は晴れると良いが・・・)
今の時点では予報は晴れになっているが、少し不安もある。何せこの雨が予報にはなかった。
折り畳み傘を広げながら、足早に自宅を目指した。
家に帰ると、風呂場から声が聞こえた。どうやら全員で風呂に入っているようだ。カバンを置いて着替えると、パソコンの電源を入れた。
(夢幻鉄道・・・と)
検索すると、この小説が最初に出てきた。どうやら驚異的に売れているようだ。確かに話としては非常に面白い・・・けど、私はそんな悠長なことを言っていられない。何せ、これを現実世界で体験してしまったのだから。
分からないことは、3つ。
まずは「イシキュアマナム」だ。琴から少し情報は聞いているが、実態が全くつかめていない。
そしてあの世界、あれがもしこの【夢幻鉄道】と同じ世界なのだとしたら誰かの夢の中ということになる。それが誰の夢なのかが分かっていない。
そして、何故あの世界に私が行くことが出来たのか。あの列車が私の前で止まったという事は、恐らく私に関係のある誰かの夢の中なのだろう。確証はないが。
あの世界にもう一度行きたい。そして、イシキュアマナムがいるなら会って話がしたい。
翌朝。
天気予報は的中した。快晴だ。
(夜は、奇麗な星空が眺められそうだ。)
折角だから、夜はもっと山の方へ車を走らせてみるか。奇麗に星空を眺めることが出来ると思う。
日中は、近所の商業施設に足を運んだ。中にフードコートもあるし、子供達が遊べる施設も揃っている。一日中いても飽きない。
新型ウイルスの影響で、遠出を控える傾向にあるので、家の近くにこういう施設があるのは非常に助かる。
文字通り、日が暮れるまで子供達と遊んだ。
ここ最近、あまり出掛けられていなかったので、子供達も嬉しそうだ。色々思い出も作ることが出来て、本当に良かった。
夕飯を食べ終えると、外に出て空を見上げた。奇麗な星空だ。
(よし、もう一つ思い出作りといこう。)
車に乗り込むと、家とは反対に車を走らせた。
少し走ると、妻が気が付いた。
「ねぇ、どこに向かってるの?」
「うん、せっかくだからもう少し星が奇麗に見えるところに行こうと思ってね。」
その言葉を聞いた段階から、琴は既にウキウキし始めている。
妻はやれやれといった感じで、お腹をさすっている。
辺りが徐々に暗くなってきた。もう少し進んだところに、大きな湖があるので、その辺りまで行ってみることにした。
車を停めて外へ出てみた。風も少しあって涼しい。辺りはすっかり暗くなり、街灯も少ないので星が奇麗に見える。
(やはり、ここにきて正解だったな。)
琴に星の話をしていると、妻が何かを探している。
「ん?どうした?」
「いや、写真を撮ろうかなと思ったんだけど携帯が見つからなくて。」
「まさか、お店に忘れたとか?」
「車で見てたから、多分席に置いてきたのかも。」
私は妻に車のキーを預けた。妻は次女と車の方に歩いていく。
私は、琴と一緒に空を眺めていたが、周囲に座るところがないか探してみることにした。あまり離れると、妻が困惑するから周辺を見渡してみた。
琴が、何かに気付いた。
「お父さん、あれ。」
(・・・え?)
少し離れたところにある木々の向こう側に、大きく光っているものが見える。
(車か・・・?いや、あそこに車が入っていくのは無理だ。とはいえ民家があるわけでもない。)
「ねぇお父さん、見に行ってみようよ!」
琴が、私の手を引っ張る。
この場から離れるのは少し抵抗があったが、妻も何かあれば携帯に連絡をくれるだろう。
「よし、足元に気を付けてね。手を放しちゃだめだよ?」
「うん、わかった!」
私は、琴と光の方へゆっくり歩いて行った。
Created by Ryohei Osawa
こちらは、キングコング西野亮廣さんが現在制作を進めている【夢幻鉄道】という作品の「二次創作」となっています。