林檎の妖精 #21 ~ #25
ゆっくりと光のもとへ近づいていくと、徐々にその正体が見えてきた。
(・・・列車だ。)
そう、私がもう一度乗りたいと心から願っていたあの列車だった。あまりの突然な出来事に声が出ない。
「お父さん!電車だよ!!」
琴は興奮した口調で、私の手を引っ張る。
わたしはまだ上手く喋れない。
「ねぇお父さん、乗ってみようよ!!」
琴はテーマパークにある乗り物のような感覚で私に提案してきた。この列車に一度乗っている私は、そんな気楽に考えることは出来ない。
これがもしあの【夢幻鉄道】だとしたら、今まさに誰かが夢を見ているということだ。これで、うちの娘達の夢ではないことが確定した。
(・・・一体、誰の夢なのだろう。)
悩んでいる時間はない。この夢を見ているどこかの誰かが起きるまでの限られた時間しか、あの世界にはいられないのだから。
「ねぇ、お父さん!」
「・・・あ、あぁ・・・よし!乗ろう!!」
琴と一緒に駆け足で列車に乗り込むと、ドアが閉まり列車はゆっくりと走り出した。
乗り込んですぐのとこにある席に、琴と並んで座った。離れたところに車掌が立っているのが見える。私は立ち上がって周囲を見渡してみた。
今日は私達以外に、乗客はいなかった。
あれからどれくらい時間が経っただろうか。
琴は飽きずに窓の外をずっと眺めているが、特に不安に感じている様子もなく、移り行く景色を目で追いながら笑っている。
(そろそろ駅に着く頃だろうか・・・。)
前に一度来ただけなのに、何だかそんな気がした。
列車が徐々にスピードを落としていく。もうすぐ到着だ。
何だか緊張してきた。
「琴、駅に着いたから降りるよ。」
「は~い。」
手を繋いで、ゆっくりと駅に降りた。
見るもの全てが不思議な色や形をしている。変わった木、変わった花、変わった建物。
間違いない・・・ここだ。
「わぁ~、凄いねぇ~!」
琴は周りを見渡しながら、目をキラキラさせている。
「琴、もしかしたらここにイシキュアマナムがいるかもしれないよ。」
「そうなの!?」
「まだ分からないけど、お父さんと一緒に探してみようよ。」
「うん、わかった!!」
琴と一緒に歩き始めた。
歩き始めたはいいものの、どこを目指そうか・・・。
「琴、イシキュアマナムがどこにいるか分かる?」
「ん~とね、イシキュアマナムは暗い森にいるんだよ。」
確かに、前にそんなことを言っていたな。
「森か・・・じゃあ、まずは森がどこにあるか探してみようか。」
更に歩き続けた。
歩き始めると、見覚えのある人がいた。
「あ、あなたは!」
「ん?・・・誰だお前。」
前にここに来た時に話しかけた人だと思ったが・・・私のことを覚えていないようだ。
思い出してほしかったが、あまり時間をかけてはいられない。
「あの、この辺に森ってありますか?」
「森?」
「あのねぇ、暗い森で川もあるんだよ!」
横から、すかさず琴も補足をする。
「ん~、川があるかは分からないけど、森はこの道をまっすぐ行ったところにあるよ。」
「本当ですか!?」
「木が大きく生い茂っていて、陽はあまり差し込まないだろうから多分暗いと思うよ。」
「多分?」
「森があるのは知っているけど、中に入ったことがないからね。」
迷っている時間はない、早速そこに行ってみよう。
「ありがとうございました。琴、行ってみよう!」
「うん、そうだね!」
手を繋ぎ、その人に見送られながら道を歩き始めた。
(・・・そういえば、あの人の名前を聞いておけばよかったな。)
言われた通り、道を歩いていると本当に森が見えてきた。
「あった。」
「お父さん、森が見えてきたね!」
ここに本当にいるのだろうか。
いや、きっといる。
いったい誰なのか、そしてこの世界が誰の夢なのかを教えてもらおう。
ゆっくりと、森の中に足を踏み入れた。
陽はわずかに差し込んでいるが、木々がかなり生い茂っていて若干薄暗い状態になっている。
普通なら不気味に思う暗さだが、不思議と怖さはなく落ち着いた雰囲気だ。
少しずつ、少しずつ奥へと進んでいく。
一本道になっており、帰りは迷わなそうだ。
(・・・ん?)
「お父さん、何か聞こえるね。」
(・・・水の音?)
僅かにだが、この道の先から水の流れる音がする。
周りが静かなので、その音だけが聞こえてくる。
「この先に、川があるかもしれない。」
「本当?じゃあ、イシキュアマナムがいるね!」
琴は目を輝かせている。
更に奥へと進んでいく。
早くその姿を見たいという気持ちから、徐々に足早になっていく。
会える。ついに会える。
一本道が途切れたその先に、大きく光が差し込む空間があった。
その空間を横切るように、川が流れている。
その川の人影が見えた。
頭はリンゴで黒いマントのようなものを羽織っている。
どうやら、後ろを向いているようだ。
顔は見えない。
いた・・・本当にいた・・・ついに会えた。
「お~い!」
琴が、私の手を離れて走っていく。
琴の声に気付いて、こちらを振り返った。
その顔は、琴が絵に描いたあの顔だった。
私も小走りに近付いて声をかけた。
「あなたが、イシキュアマナムですか・・・?」
突然名前を呼ばれて少々驚いた表情を浮かべていたが、すぐに微笑んでゆっくり頷いた。
琴はニコニコしながら抱きついていたが、すぐ近くに花畑をみつけて走り出した。
「お母さんにあげるお花を取ってくるね!!」
よく見ると、花畑の所にもイシキュアマナムがいる・・・いや、琴と同じくらいの背丈だ。イシキュアマナムの子供だろうか?
(・・・どうして私の名前を?)
「え?」
(あ、驚かせてすみません。私は喋ることが出来ないので、あなたの頭に直接話しかけています。)
「そうだったのですか・・・」
(なぜ、私の名前をご存じなのですか?)
「あの子・・・琴っていうんですけど、この前あなたを絵に描いて教えてくれたんです。」
(そうでしたか・・・私のことを覚えてくれていたのですね。)
イシキュアマナムは琴の方を見て、微笑みながらも目に涙を浮かべている。
「あの・・・あなたは、琴とどこで会ったんですか?」
(・・・ちゃんとお話しをしないといけませんね。)
「ずっと昔からの友達だって言っていたんですが、私には何を言っているのか分からなくて」
(・・・すべてお話しします。)
Created by Ryohei Osawa
こちらは、キングコング西野亮廣さんが現在制作を進めている【夢幻鉄道】という作品の「二次創作」となっています。