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祓い師イツカ【第2話】

●第2話[暗闇にあるもの]

「おじいちゃん 来たよー」

祖母の死後、その霊と共に祓い師として活動することになった 高校生イツカは、久しぶりに実家を訪れた

「おお、よく来たな」
おじいちゃんは、優しく僕を出迎えてくれる

「これ お土産だよ、芋羊羹」イツカは、袋を持ち上げながら言った

「ありがとう、ばあさんの好物だな
一緒に食べるか 上がりなさい」
祖父は、手際よく皿にのせた羊羹とお茶を
仏壇と手前にある来客テーブルに並べた

「ばあさんとは、上手くやってるようだね」
ことなげもなく、祖父は言う

「うん、まあね
ていうか、おじいちゃんも視えるんだ」
「まぁ、あの ばあさんといたんだ
自然と影響されるものだよ」

そういうものなんだ…イツカは初めて知った

「あっそうだ、おばあちゃんが遺してる、
お札とか知らない?」

「あぁそれなら、そこにあるよ」そう言って祖父は仏壇の隣に置いてあった、四角いお菓子の缶を出してきた
「ありがとう」
イツカは開けるのを少し戸惑った
“どんなモノが入ってるのか…”

開けた缶の中には、お札、木の枝、水晶、ろうそく、お香、それに…
「この包み、何だろう」イツカは、小さな和紙の包みを取り上げた

『それは塩じゃ』さっきまで仏壇の羊羹に顔を近づけていた祖母が、いつの間にか隣に来ていた
「塩?食塩?」
『そうじゃ』
「これ、どうすればいいの?」
『そうな、まぁ身につけておきなさい
お守代わりじゃ』

「こんなの効くのか?」思わず言った僕に、祖母は
『当たり前じゃ、私が包んだからな』と自信ありげに答えた

『それよりイツカ、庭の納屋 ちょっと見に行ってくれんか』
「納屋?
おじいちゃん、納屋になんかあるの?」

「あぁそうか、そうだな、うん」ぶつぶつ言う祖父について一緒に庭へ出る
「ここ開けるの 久しぶりなんだ」そう言いながら納屋の扉を開く祖父の後ろから、イツカは中を覗き込んだ

「ん?え、え!まっくろくろすけ じゃん!」
扉から光が差し込んだ部屋の中で、黒いもさもさしたものが視界の端々に散った

「これ、どうにかできるか?」
祖父に聞かれた イツカだったが
「いや、無理でしょ 今の僕に そんな力ないよ」
そう返すしかない

「ばあさんは何て言ってる?」

イツカは後ろを向いた
『掃除しろ』
「掃除?他に何かないの?ええい!みたいな、お祓いの呪文とか」
『バカかお前は、今のお前には無理じゃろ』
『掃除は基本じゃ、じいさん、わしが死んでから何もしとらんじゃろ、空気が淀むと色々つきやすくなるもんだ』

確かに、言われるとその通りかもと思う
「おじいちゃん、掃除、一緒にするよ」
“今日の休みは潰れたな…
仕方ないか”

「ところで 両親とはうまくやってるのか」掃除を始めた祖父が突然聞いてきた

「うん、まぁね」

「お義父さんともか?」

「うん」
イツカはそう 返事したが、うまくやっているというか 父親とはそんなに関わっていない
会話がないわけではないが当たり障りなく という感じだ

「あの人をイツカの母さんから紹介された時、ばあさんもワシも反対しなかった、、
頼っても大丈夫だと思うぞ」

「そうかな…」
僕も父のことを悪くは思ってない
…母さんと仲良くやっている姿を見ていると、いい人なんだと思う
ただ、母さんと違って 父も僕もあまり喋る方ではない
普段 コミュニケーションを取っていないのだ

「来週、学校で進路相談があるんだよね」
「おじいちゃんは祓い師の仕事どう思う?先生に分かってもらえないと思うんだよね、お母さんには反対されるだろうし」
そういうイツカに祖父は
「じゃあ お父さんに言ったらどうだ」と軽く言った

「え、なんでそうなるの」

「いやだって 父親だろ」
「とりあえず話してみろ、他人を信頼してみてもいいじゃないか」
祖父は、いつもと変わらない笑顔だ 

_3時間後
「やっと終わったー疲れたーー」
イツカは実家からの帰り道を歩きながら、祖母に聞いた
「お札ってどうすればいい?」
『そうじゃな 部屋の四隅に貼っておけ』
「そっか、分かった」

『…わしも進路の事を 父親に話すのはいいと思うぞ』
「え 何 急に、ばあちゃんまで」
二人して、そんなにお義父さんのこと買ってたの?

イツカは、9年前から住んでいるマンションのエレベーターを降り部屋へ向かった

「こんにちは」
隣の奥さんとすれ違い軽く会釈をする

『お前、誰に挨拶したんじゃ』
「誰って、最近 引っ越してきた隣の奥さんでしょ」
『隣は、残された旦那1人暮らし じゃろ』
ん?確かに、引っ越しの挨拶に来たのはイケオジ?ちょっと影のある男の人 一人だった…

「え!ええぇーー!」
『生きてる人間と区別がつかんとは、、
これからコントロール出来るようにみっちり修行じゃな!』
「そんなーー!……奥さん放っといていいの?」
『まぁ悪さはせんじゃろ、
あの奥さんが成仏できるかどうかは旦那しだい、というところか』
「残されて落ち込んでる旦那さんが心配で居るってこと?」
『気になるなら、お隣さんと会った時 挨拶だけでも声をかけてみたらどうじゃ』

祖母に言われたイツカは少し渋い顔をしながら
“僕が声をかけて、少しでも気持ちが動くのなら、そういうのも「人を上げる」っていう僕の仕事の一つか”と思った

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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