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#32 「農と発酵」で新しい時代をつくるFLORA FERMENTATION
「農と発酵」をコンセプトにしたあたらしいブルワリーができるらしい。
しばらく前に、どこからかそんな話を聞いた。そして彼らが自分たちのブルワリーを立ち上げる前に、ファントムブルワリーという形でつくられたビールをPigalle Tokyoで飲んだ時、そのおもしろさや可能性に勝手ながら心躍ったことを覚えている。(なお、当時飲んだのはヒトミワイナリーのデラウェアの絞りかすを使ったサワーセゾンであるBenfinita。)
というのも、クラフトビールのつくり手の方々と話をしていると、時に業界の課題について教えてもらうことがある。そこには多種多様な課題があるが、そのひとつに輸入に依存する「原料」に関する課題がある。具体的には、円安という為替による経済的な問題もあるが、多くのブルワリーが、原料であるモルトやホップ、酵母のほとんどを輸入に頼っている現状。この、ある種の制約の中でどのようにレシピを広げていくのか、あるいはクラフトならではのローカルをどう表現していくのか、という問い。
だからこそ、地元で育った果物やボタニカル、時にお茶などの作物を副原料として使い、表現されているつくり手も数多くいるが、少なくないブルワーの方々にとって、大きな課題のひとつであるように思えた。
もちろんその課題に向き合い、自分たちで原料づくりを検討される方々もいる。だけれども、ただでさえリソースの限られるブルワリーにおいて、その工数や経済合理性などを考えると、そう簡単には解決できるような課題ではないということは、話を聞いていて痛感していた。ゆえに初めて、ホップそのものを自分たちで畑から育てると聞いたときには、ある種の驚きを伴ったことを覚えている。
だからこそ、直接足を運び、話を伺いたいという気持ちで、訪問をお願いさせてもらった。当日はコラボレーションビールの仕込みがあり、忙しいタイミングにも関わらず、代表の大西さんが最寄駅の近江八幡駅まで迎えに来てくれた。最寄駅といっても、この近江八幡駅からブルワリーのある滋賀県東近江市・永源寺エリアまでは車で1時間ほどかかる。その車中でも大西さんはビールとの出会いから、ブルワリーの立ち上げに至るまでのさまざまな話を聞かせてくれた。
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大西さんは、大学時代から滋賀県の大学で微生物の研究に打ち込む傍ら、アルバイトで見つけた長浜浪漫ビールで初めてクラフトビールと出会い、ビールの世界に進むことになる。多くのブルワリーやタップルームでの仕事、そして世界的なホップの名産地であるニュージーランドへ。そこでのホップづくりの経験がFLORA FERMENTATIONのコンセプトにつながっているのだろう。大西さんと話していて印象的だったのはとにかく「農業が好き」ということ。その熱量で、実際にホップを自らつくるブルワリーを立ち上げるのだから本当に感服する。
ただ当初は別の物件に決まりかけていたものの、資金調達や物件オーナーとの交渉がうまくいかず、頓挫してしまう。当時、共同創業者である長浜浪漫ビール時代の同僚だったカイさん、田中さんたちがそれぞれ前職を退職し、立ち上げに加わるタイミングだったこともあり、その当時の落胆は察するに余りある。
なおブルワリーが立ち上がるまでの紆余曲折がFLORA FERMENTATIONの初期のブログに書かれているのでぜひ読んでほしい。その熱量と行動力が並外れたものであることがよくわかると思う。
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そして2024年、この永源寺に古くからあった工務店に物件も決まり、免許も発行され、醸造を開始。訪問のタイミングで仕込んでいたのはジャーマンピルスナー、ヴァイツェン、コーヒーチェリーを使ったデュンケルと伝統的なスタイルのビールが中心にありつつも、Session IPAといったモダンなビールまで非常にバラエティに富む。
なにより新しいブルワリーといえども、大西さん、カイさん、田中さんたちはそれぞれ長浜浪漫ビールをはじめ、忽布古丹醸造、Steel & Oak Brewing(カナダ)、京都醸造、奈良醸造など名だたるブルワリーで経験を積んでいることもあり、その味わいと品質の高さ、完成度は驚くほど素晴らしい。
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ブルワリーの後は、車で数分のところにあるホップ畑へ。集落を離れると、この地域が山々に囲まれた盆地で、改めて自然が豊かなことに気づく。そしてこの畑のホップを育てるための柱も、地元の永源寺の杉を使っている。2024年は、この土地で初めてホップを育てた年だったが、当初の想定よりも順調に成長したために収穫することができ、実際にビールの仕込みにも使うことができた。数年後には、年間のビールの仕込みで使うホップを自社畑でまかなえるようになるようだ。
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しかし、「自分たちで育てる」というと聞こえは良いかもしれないが、実際に訪れ、その過程を聞くと、自分が想定していたよりも、はるかに困難の連続であり、また日々の重労働があってこそ成立することを痛感する。たとえばこのホップ畑も、1本100キロ以上もあるという支柱を、自分たちで穴を掘り、柱を立て、ホップを植える。生い茂った夏の雑草の除去はそれは大変な作業だったという。もちろん育ったホップも誰かが収穫してくれるものではなく、自分たちの手で採る。農作業、ビールづくりに関わるすべての仕事は自分たちで行われている。彼らはブルワーであると同時に、農家でもあることがよくわかる。
さらに今後はホップだけではなく、大麦を育てるための畑もブルワリーの近くに借り、栽培を始めるという。またブルワリーに併設される事務所の一角にはバレルルームもつくられ、すでに多くのバレルが並んでいた。今後は野生酵母による自然発酵や樽熟成のビールにもチャレンジするようだ。
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今回、念願叶ってお伺いをさせていただいたが、FLORA FERMENTATIONの取り組みとビジョンに圧倒されたというのが正直な気持ちだった。ただ同時に、3人の若い醸造家たちから生まれたこのFLORA FERMENTATIONが、新しい時代のブルワリーのあり方をつくっていくように思え、心底ワクワクしながら帰路についた。
最後に、仕込みの忙しい日にも関わらず、送迎から案内まで快く受け入れてくださったFLORA FERMENTATIONの皆さんには心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
次はホップや大麦が育った実りの季節にお伺いさせてください。
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農と発酵が織りなす最高のビールを作るブルワリー
FLORA FERMENTATION
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青山 弘幸
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