#8 ヨーロッパ研修記 〜ランビックを巡る旅(Cantillon編)〜
ランビックにおけるThe Originalとでも言うべき存在ではないだろうか。
ブリュッセルについた初日、世界中のランビックやワイルドエールのつくり手から、特別なリスペクトを受けるCantillon(カンティヨン)を訪れた。ブルワリーの場所は、ユーロスターの発着駅でもあるBrussels -Zuid /Midiの駅から約10分ほど歩いたところにある。
しかし、こんなところにブルワリーが?Google mapがなければ一見簡単に通り過ぎてしまうような小さな場所だ。
カンティヨンは、一般客向けにもブルワリーの見学ツアーを受け付けていて、今回はそれに申し込んで参加をさせてもらった。昨今のランビックやワイルドのムーブメントも手伝ってか、この日は平日にも関わらず、次々と来訪客が訪れていた。
今回の旅で、カンティヨンの他にもいくかのランビックブルワリーを訪れたが、この場所はやはり特別。
それは、歴史がもたらす独特の雰囲気と空気感であり、特にランビックを熟成させる保存庫に漂う匂い、そして天井に張り付く蜘蛛の巣。
ブルワリー内で、野生酵母による自然発酵でつくるランビック。そのビールの発酵や熟成を阻害する虫を、自然に駆除するために蜘蛛の力が必要。本来であれば蜘蛛を除去してしまうのが普通だろうが、彼らは過剰に衛生的になり過ぎることなく、限りなくナチュラルな方法でランビックをつくる。
ブルワリーの見学を終えると、最後に3つのランビックを飲むことができる。(ストレートランビック、グーズ、クリークの3種類)。
僕自身、かなり久しぶりにカンティヨンのランビックを飲んだが、この強い酸味、そして酸味のあとに重なる華やかさ、苦味が織りなす複雑な味わい。これは、カンティヨンが唯一無二のブルワリーであることをあらためて思い出させてくれる。
実は、この数日後に僕はレルミタージュというカンティヨンからも目と鼻の先にある、新進気鋭のブルワリーを訪れるのだが、そこでカンティヨンで働くベルトさんに出会う。
彼は僕がカンティヨンを訪れたことを覚えてくれていて、贅沢なことに昨今のベルギービールシーンやランビックのムーブメントについてさまざまなことを教えてくれた。
それは、ランビックというビールやブリュワリーが資本主義に毒され始めていることに対しての憤りと、カンティヨンに対しての誇りだ。
ランビックというスタイル自体が、製品が出来上がるまでに、非常に時間を要するビールであり(グーズとなれば尚更で、出荷するまでに最低3年という時間が必要)、根本的に、生産性や合理性とは相反するビールであるはず。彼はその伝統的なスタイルと、経済合理性を求めるブルワリーへの複雑な問題を教えてくれた。
カンティヨンは、最新のブルワリーに比べれば、ブルワリーの規模も非常に小さく、設備だって長年使い続けてきた歴史を感じるような年季の入ったものだ。
それでも、多くのブルワリーが経済至上主義の刹那に飲み込まれていく傍で、彼らはブリュッセルの小さな街角で、変わらず家族経営によりランビックをつくり続けている。
salo Owner & Director
青山 弘幸
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