#26 「天盃」は情熱と論理のダイナミズム
昨年、旅行と壱岐焼酎の勉強を兼ねて訪れた壱岐の帰りに立ち寄った福岡で、偶然出会い、驚いた焼酎がある。「天盃」という名の蔵がつくる焼酎で、僕はこの時に、初めてその名前を知った。
今回、福岡・糸島で用事があり、天盃へもぜひ立ち寄りたいという思いで調べていると、天盃・五代目の多田匠さんと自分に共通する方々が多く、日頃お世話になっている方に無理を言ってつないでいただいた。驚いたことに僕が新卒で入社した会社の後輩にあたることがわかった。
そんなこともあり、多田さんからすると断るに断れないお願いだったと思うが、二日間にわたって福岡の街と、そして天盃の蔵をご案内いただいた。
天盃へは、福岡駅からおおよそ1時間少々で到着する。国道沿いの最寄りのバス停まで多田さんに迎えに来ていただき、そこから車で数分で到着する。少し脇道を入ると、蔵までの間にも、麦畑が広がるような景色だ。
蔵に到着すると、直売所に案内してもらう。そこでは天盃の約120年の歴史とその変遷、そして基本的な焼酎づくりの考え方を教えてもらう。さらには天盃のある筑紫地域の気候や作物についても。
その後は酒蔵へ。蔵には大麦を蒸した甘い匂いと発酵するもろみの甘酸っぱい香りが漂う。ちょうどクラフトマン多田のもろみを仕込中で、仕込んだ日付違いのもろみを味合わせてもらう。こうして比べるとその味わいの違いに驚く。発酵というプロセスの変化を直に感じることができる。
事前に用意したメモをもとに矢継ぎ早に質問をするが、多田さんの答えはどれも丁寧であることはもちろんのこと、すべてに「論理」や「理由」があることに気づかされる。いわゆる常識とされる方法や一般論を疑い、仮説と検証を繰り返した上で、次のつくりに反映させているから、あらゆることが「言語化」されている。
例えば、なぜ常圧蒸留なのか?なぜ2回蒸留を行うのか?1回目と2回目の考え方はそれぞれどういったものなのか?なぜ焼酎用酵母ではなく、清酒酵母を使うのか?例を挙げればキリがないが、その考え方や理由を聞くと、数えきれないほどの問いと検証を重ねてきたことがよくわかる。
それは天盃のウェブサイトを見ても感じることができるはず。120年を超える歴史の中で、様々な紆余曲折と転機、そして変革を繰り返している。
個人的に、結果だけではなく、どうしてそこに至ったのか?という仮説や検証のプロセスに強い興味と関心がある性分ゆえに、様々な質問をさせてもらった。ともすると僕の稚拙な質問にさえ、丁寧に、そしてわかりやすく答えてくれた。
一通り蔵をご案内いただいたあとには、天盃の様々なお酒を試飲させていただいた。特にクラフトマン多田・キャンティブラウンの現在販売中のお酒と、瓶詰めを終えたばかりのものを比べたとき、大きな衝撃を受けた。なぜならば、同じラインナップとは思えないほど変化をしているからだ。
ともすれば変化することには、恐れが伴うものだ。しかし、多田さんが案内中に何度も言っていた、変わらないことよりも、未来を見て、常にアップデートし続けたいという言葉が、このキャンティブラウンに表現されていた。
それだけでなく、今はコーヒーやブラックペッパーのつくり手と協力して作ったお酒など新たな企画にも力を入れていて、その可能性を広げるような進化を続けている。
正直に言えば、つくりのディティールや裏話など、様々お伺いすることができたが、ここでは伏せておく。なぜならば、天盃を訪れ、教えていただいた本質的な学びは、繰り返される問いと検証、それを繰り返し続けている様であり、古びてしまう各論ではないからだ。
天盃とは、酒づくりに対する情熱に、本質的な問いと検証をしつづける酒蔵だと思う。こんなにもダイナミズムを持って変化し続ける姿勢に、大きな感銘を受け、帰路に着いた。
大変お忙しいところ、二日間もご案内いただき本当にありがとうございました。
salo Owner & Director
青山 弘幸
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