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#10 ヨーロッパ研修記 〜ランビックを巡る旅(Lambiek Fabriek編)〜
この日はLambiek Fabriek(ランビーク・ファブリーク)へ。
事前に調べたところ、ブルワリーの見学はオープンにはしていないため、事前にInstagram経由でメッセージをして、ブルワリーを訪問をさせてもらった。
Lambiek Fabriekの醸造所は、最寄りのRuisbroekという駅から20分超歩く。ランビックブルワリーが多く集まる、ゼネ川沿いをしばらく歩き、工場や倉庫が並ぶエリアにある。向かう途中で巨大なタンクの並ぶ、ブルワリーのような建物があったのだが、後から聞いてみたところ、あれはリンデマンスの醸造所だったようだ。
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Lambiek Fabriekは、日本でも何度か飲んだことがあり、さぞかし大きなところかと思いきや、写真に映るJoさんとJozefさんの2人だけで他にスタッフはいない。また今回訪れたブルワリー以外にも2つ拠点があるそうだが、自分たちでできる規模の中でチャレンジしているという。
秋から冬にかけての今の季節は、ランビックの仕込みのシーズン。さらに二人で作るとなれば、ますます忙しいはずなのに、とても快く受け入れていただき、じっくりとランビックと醸造所の案内をしてくれた。
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僕自身大きな勘違いをしてたのだが、ランビックのあの強い酸味はBrettanomyces(ブレタノマイス)という酵母由来のものかと思っていたが、まったくの勘違いでそれはバクテリアによる酢酸や乳酸によるもの。今思えば基礎的な情報をインプットできておらず大変恥ずかしい限りだが、それでもJoさんはそんなことすらも丁寧に教えてくれた。(なお、ベルギーの中でも同じ誤解をしている人がとても多いようだ。)
また、この前に訪れた3 fonteinenでもさまざまなオーク樽が並んでいたが、規模や数量では到底かなわないものの、Lambiek Fabriekにもさまざまな種類が並ぶ。イタリア産やオーストリア産などもあれば、ユニークなところだとウイスキーバレルまでが並ぶ。他のランビックブルワリーでも話していたが、この独特の酸味や風味を出すためにも、決して新しい樽は使わない。(そして丁寧に使うことで、おおよそ15年ほど持つそうだ。)
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ビールやブルワリーの基礎的な話だけでなく、Lambiek Fabriekを始めるきっかけ、今のランビックのムーブメント、そしてJoさん自身がつくり手になった背景(もともとは精神病院で働いていたとのこと)など、さまざまな話を聞かせてくれた。
またこの場所には、独特のインデペンデントな雰囲気が漂っており、Joさんにそのことを伝えると、それは自分たち2人で全てをやっていて、そして、資本家にも支配されていないから、だと。
ベルギーでバーや醸造所を巡っていると、キャピタリストやエコノミック、マネーという言葉を頻繁に耳にする。
それはつまり、ビール自体が投資の対象になっていることを意味するが、ランビックをはじめとした地理的、文化的な要素を強く併せ持つビールとは根本的に相反する構造にあり、ジレンマを抱えているつくり手も少なくないはず。
また今回の研修では、決して少なくないブルワリーを訪れることが出来たが、各ブルワリーの方針の違いはとても顕著に現れる。(なお、別日に偶然エルミタージュで出会ったカンティヨンのベルトさんも、この件について、大きな問題提起をしていた。)
どれだけランビックが、その土地の土着のビールであろうとも、資本主義という強大な流れに抗うのはそう簡単なことではない。
そういった意味では、Lambiek Fabriekのように、この資本主義の流れに飲み込まれずにつくり続けている醸造所に出会えたことは、本当に幸せなことのように思えた。
salo Owner & Director
青山 弘幸
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