[ソウル暮らしのおと]韓国の公衆トイレ、いまむかし
世界中どの国にも必ずあり、生活のなかでなくてはならないもの。
なのに、話題にするのがちょっと気まずいもの。
なんでしょう?
答えはトイレ。
今日は、韓国の公衆トイレについてのお話。
韓国に旅行にきて、公衆トイレで困ったことはありませんか?
じつは私は、こちらに住み始めて間もないころ、公衆トイレの文化にかなり戸惑いました。
まず、小さな食堂やカフェ、特に雑居ビルに入っている店舗などでは、お店ごとにトイレがない!ということがよくあります。
ビルの階ごとにテナント共用のトイレがあって、お店で鍵を借りて入ったり、ときにはトイレットペーパーもお店からもっていって、用を足さなければなりません(お店に備え付けの大きなロールペーパーから“自分の使う分”をくるくる巻き取って持っていくのは…なんだか微妙な気分)。
そして、なによりも慣れなかったのは、使用済みのトイレットペーパーを流さずごみ箱に捨てるという習慣。
これ、海外から来た方で困ったり嫌だなあと思った方は少なくないと思います。 世界でも、使用したトイレットペーパーを流さずごみ箱に捨てる国はあまりないそうです。
どうしてペーパーをごみ箱に捨てるのか、水洗トイレに流すとそんなにしょっちゅう配管がつまってしまうのか、
私はずっと疑問でした。
そこで今回調べてみたところ、トイレにまつわるいろんなエピソードが出てきたのです。
まず、韓国のトイレの歴史。
1960~70年代くらいまで、韓国では汲み取り式が一般的だったので、トイレは家の外にあるのが普通でした。
用を足してから拭くのは新聞紙やわら半紙だったので、その紙は別の箱などに捨てることになります。
水洗トイレが普及しはじめたのは1970~80年代になってから。
特に1988年のソウル五輪を機に、街中で公衆トイレが本格的に普及するようになったのです。
しかし、まだ便器に紙を流すと配管がつまってしまうことも多かったので、使用した紙をゴミ箱に捨てる習慣は残ったようです。
さらに、そのころは、公共のトイレのマナーというものはほぼ共有されておらず、韓国の公衆トイレはお世辞にもきれいとは言えない状況が長く続きました。
そのことに関心をもち、韓国のトイレ環境を改善しようと取り組んだ人たちがいました。
1999年に立ち上げられた「トイレ文化市民連帯」という市民団体は、ある広報活動で大きな活躍を果たしました。
「美しい人は、とどまる所も美しい」
아름다운 사람은 머문 자리도 아름답습니다
という、韓国に住む人ならほとんどが「ああ、アレね」とわかる有名なフレーズがあります。
ほとんどの公衆トイレにこのフレーズが書かれたシールが貼ってあるので、誰もが一度は目にしたことがあるはずです。
これは、トイレ文化市民連帯のピョ・ヘリョン代表が「トイレをきれいに使用する文化」を広げるために考案し、その後あっという間に普及したそうです。
人々の認識が変わってきて、韓国の公衆トイレ環境はどんどん改善されていきました。
なんと韓国には世界で唯一「公衆トイレ法」という法律があります。
この法律は何度か改正を重ね、2018年1月1日から、公衆トイレのごみ箱を全てなくすということが公式に決まりました。
いまではほとんどの公衆トイレで、トイレットペーパーは便器に流すようになっています。
ただ、長年の習慣のためか、いまだに紙を便器に流さなかったり、または施設が古いため配管が詰まりやすい所では、トイレットペーパーを流さないでくださいという貼り紙がしてあったりで、まだまだ改善の余地はありそうです。
とはいえ、韓国の公衆トイレは飛躍的に良くなってきています。
毎年、政府と市民団体が主催する「美しいトイレ大賞」という賞まであるのです。
今年で第22回目となる2020年の美しいトイレ大賞が10月に発表されました。
大賞は水原市の「美術館の隣のトイレ」。水原市立美術館のすぐ隣にあるこの公衆トイレは去年建てられた新しい施設で、きれいなだけでなく、適材適所に備えられた設備や、体の不自由な人・乳幼児を連れた人などの安全と便利さが配慮されている、ということで評価されたそうです。
(ユニークなのは、授乳室にベビーベッドやおむつ交換台はもちろん、シンクやミルクを温める電子レンジまで備えてあるということ!)
たかがトイレ、されどトイレ。
暮らしの中で、トイレの環境を変えていくのは、生活の質を高めるとっても重要なものだと改めてわかりました。
というわけで、変わりゆく韓国の公衆トイレ・いまむかしについて、ご紹介しました。
[KBS World Radio「土曜ステーション」2020.10.24放送]
http://world.kbs.co.kr/service/program_main.htm?lang=j&procode=one