
2024年。書き残さずにはいられない韓国ドラマ「怪物」
そう。沼への入り口はバラエティ番組
きっかけはハ・ジョンウだった…。
特別な理由はない。とにかく思いきりツボにはまってしまった韓国映画「神と共に」シリーズの1と2を、まぁ飽きもせず繰り返し見続けていたとある日。さすがにヘビロテが過ぎた為、少し気分転換をしようかと、ハ・ジョンウの他作品紹介を順繰りに眺めていた時だった…。
ん? バラエティ番組??? しかも、「神と共に」でおなじみのチュ・ジフンも出演!(劇中とんでもなくナイスコンビな彼ら。ぜひ「神と共に」シリーズ見てほしい!)。
つまりは、この2人の名があるだけで、もう即座に鑑賞は決定。ワクワクしつつ勇んで見始めたバラエティ番組の名は「歩いてチケッティング」。これ、予備知識は一切目にも耳に入れず、特段の期待もせず見始めたのだが、いやいや、これ、なんだ?面白い!!!

内容は、ハ・ジョンウ、チュ・ジフン、ヨ・ジング、ミンホという豪華メンバー4人が、キャンピングカーで旅を楽しみつつ、様々なミッションに挑むというバラエティ。ロケ地は、韓国から遥か離れた南半球ニュージーランド。でも、その大自然の画の素晴らしさに番組は一切甘えることなく、各回の構成や編集は無駄がなく、とてもうまい。それはテロップの絶妙な入れ方や、ドローン映像の使い方…端々に女性監督のセンスのよさを感じる。
なにより、惜しみなく画面に大量に流れる…というか、画面いっぱいに溢れる、初めて出会うハ・ジョンウのかなり(!)自然な素顔、自然体…がズルい! いや、よいっ!!もっと見せてー!!!(と、一話見ただけで既に後戻りなんてありえない、強力な画の吸引力。)。
ハ・ジョンウは「神と共に」もだけど、映画の中ではとにかく笑顔なんてとんと見られやしないので(比較的そういう役柄が多いせいか?大概むっとしているか、冷ややかな目線のすまし顔が常。ま、そのすまし顔がたまらなくよいのですが。)、それゆえこの大放出の自然体ギャップの破壊力がとんでもなくすごい。笑(でもありのままな自然体すぎて、おそらく知らない人が見たら本当にただのおじさんでしかない…笑。)。
脱線しましたが、とにかくそのように出演者たちの素が余すことなく画面にあふれ続ける番組で、非常に贅沢な時間を過ごせることは間違いなし。
いやしかし、はじめましてのヨ・ジングはいい子~。画面越しにあふれ伝わる人の良さ。3人の兄貴たちにかわいがられる理由がよーくわかる。ミンホは、身体全身から発光しているかのような陽気さや食べっぷりで常にまわりを和ませる。かっこいいクールな兄さんなイメージだったチュ・ジフンは、意外にもしっかり者の女房役、しかもこだわりのスーパー料理人であった…と、まぁ見終わった頃にはすっかり4人が好きになってしまうような番組だったのですが、ここからですよ。沼に続く道へと、知らぬ間に足を踏み入れていたのは…。
で、ヨ・ジングくんて何に出てるの?
このバラエティ番組を通して、すっかり親しみを感じてしまった”末っ子”キャラ、ヨ・ジング。ふと、どんな映画に出ているのか…?どんなキャラを演じているんだろう?と、気になって配信サービスを検索することに。すると時代物もあるようだけど、なんとなく…直感的に目に入ったのがそう、ドラマ「怪物」。
しかしヨ・ジングが俳優している姿を、ちょいと見てみよう…というとても軽いノリで見始めた「怪物」に、まさかここまでどっぷりと頭の先までめいっぱい沈み込んで、思いっきり心を揺さぶられることになるとは。この時点では知る由もなく。
いやでも受けた衝撃がこれほどまでに大きかったのは、おそらく、ニュージーランドの空の下で常に笑顔なヨ・ジングが、自分にとって”はじめまして”のヨ・ジング、だったからかもしれない。そんな彼が「怪物」で見せた顔。笑顔の封印どころの生易しい存在感じゃない、そこにいたのは全くの別人。まさに、とんでもない”怪物”級の演技力。その上、その共演相手がシン・ハギュンという、これまた上を行く化け物級(演技が!)ともなれば、ドラマ自体の持つパワー総量が計測不能となるのは言うまででもなかった…。
さぁ、「怪物」の話をしよう
※ネタばれでは無いものの、若干最終話には触れていますので、本当に予備知識無しで鑑賞したい方はまずは観てから読んでね。
まずはさらっとあらすじを。
「怪物」あらすじ
エリート警察官のジュウォン(ヨ・ジング)は片田舎のマニャン派出所勤務を命じられる。パートナーを組むことになったのはドンシク(シン・ハギュン)。実はドンシクは20年前に妹を連続殺人事件で失い、その容疑者となった過去があった。そんな中マニャンで20年前と同じような猟奇殺人事件が発生。事件の捜査を始めるジュウォンだったが、かつての事件の資料が消えていたり、警察庁次長の父から捜査しないよう命じられる。町ぐるみで何かを隠しているのではと感じたジュウォン。実はジュウォンがマニャンにやってきたのはある理由があった。そして一方のドンシクも胸の内に秘密を抱えていた。ジュウォンとドンシクはお互いに疑いの目を向けながら共に事件を捜査することに。
韓国ドラマは日本のドラマと比べて1クールの回数が多いらしく、どうやら途中でリタイアしてしまう人も一定数いるらしい?のですが、自分そのあたりの事情を全く知らずに見始めたものの、「怪物」では一切そんな気持ちはおきることがなく。
むしろ各回の山場を迎える度に胸苦しさがMAXというか、息が出来ないぐらい(おそらく無意識に息止まってたんでは思う)、ひたすら視聴時の体力消耗が激しいドラマでリタイアなんて話とは無縁の境地。見進めるごとにずぶずぶと足を取られ、ストーリーを早く追いたく気は急くものの、いやしかし気力体力温存の為に一度に観るのは2話までと自己セーブする始末。
まぁしかし、主人公ドンシクを演じるシン・ハギュンが…
初回からひらすらに怪しい(超絶褒めてます)。見た目には静な表情を浮かべていても、その肌下には休火山のごとく、行き場のないグラグラと煮えたぎったマグマを抱えているような男。
対するヨ・ジング演じるハン・ジュウォンはクールなエリート警官役。警察大学を主席で卒業したお坊ちゃんで、良くも悪くもド直球。冷ややかな目つきで、とげとげしい言葉を真正面から相手に突き刺していく、躊躇や遠慮なんて言葉は知りもしない、登場したてはとことん嫌なヤツである。

そんな真反対の性格の二人が、マニャンという閉ざされた空間で出会い、ぶつかり、傷つけ合い、疑い合い、反目し合いながらも…
周りをそれは大きな激しい渦に巻き込みながら、気づけばいつしか同じ目的を成し遂げる為、彼ら自身ですら想像していなかった熱量の絆を築き上げていく。
そこに至るまでの過程が本当に二人熱演過ぎて。
劇中、二人の距離がそれは近く、両者共にアップになるシーンがやたら多いのも「怪物」の特徴でまるで表情戦…。画面いっぱいに映し出されるこめかみや、薄い目元のピクピク痙攣はほんの序の口、感情が高ぶるあまり目尻や眼球が真っ赤に充血(否。流血?)させてみせる離れ業とか(この辺りはハギュンワールドの真骨頂でおそらく向かうところ敵なし。笑)。
対するジュウォン。最初は一見人形のように感情スイッチオフ仕様だが、回が進むににつれ血が通い出していく様(それまではコントロール出来ていた自身の感情を、途中から抑え切れずに爆発させていくのだけど)、その変化は鳥肌ものだ。

中でも後半にとことんこの二人が、これ以上の最悪はないんじゃないか?!というぐらい救いようのない真実に直面していき、その時のジュウォンが冷たい雨の中、静かに…でも恐ろしく感情を大爆発させるシーンがあるのだけど、本当にそのシーンは、視聴者の全感情がギュッと鷲掴みに持っていかれる最高潮のシーンだと思う(ヨ・ジングが、演じるあまり魂を削り過ぎてないかと思わず不安になるほど)。
感情の谷底へと堕ちていくジュウォンの悲痛さも見ていて堪えるが、苦しみや絶望を20年あまりただ一人抱え、対峙してきたドンシクが醸し出す闇の深さも半端ない。辛うじて人として生きていくことが出来ているような、粉々になる限界ギリギリの心を擁し、誰かにすがりたくてもすがれない果ての無い孤独の中。人前では飄々としているドンシク…シン・ハギュンの大きな瞳が、ふとした瞬間に怖いぐらいに色を失い、底無しの虚無感でいっぱいになる…。
下手したら大げさな演技になりかねない、そんな表情の変化ひとつひとつを、シン・ハギュンは恐ろしく繊細に、こちらが予想だにしないいくつもの表現で”感情”にしてみせてくれる。まさにドンシクは、シン・ハギュンの当たり役だと思う。いや、シン・ハギュンに演じてもらえてよかった…。

ジュウォンとの衝突がドンシクの感情の水面に波紋を広げていく。「怪物」より
ドンシクとジュウォンの、関係性が縮まりつつも間に残る、互いに対する信頼への薄氷を履むような緊張感。その緊張感を抱きつつも、気づけば相手がこれ以上傷つかぬよう、互いを思い、願う姿が多発し始める13話以降は…相手に向けて溢れでる言葉が連投連射、刺さりまくりです。
際立つ他キャラクターの存在感、そして耳に残るOST
このドラマの際立っているところ。
それはドンシクとジュウォンだけでなく、登場する他のキャラクターたちの存在感。とにかく負けじと個性や魅力が強くて。
彼らも皆、二人に劣らず重く暗い物語をその背に抱え、正直皆で不幸比べをしたらどっこいどっこいのいい勝負なんじゃないか?というぐらい、同じ陰の下で肩を寄せ合って生きている。
でもどんなに重苦しい夜が続こうと時折、微かに救いのような温かさを感じるのは、登場人物たちが互いを思い、信じることを諦めていないからだと思う。
マニャンを、どんよりと覆う緊張感や閉塞感は終始晴れることはないが、そこにふと、ウィットのきいた会話がはらりと差し込まれるバランスも、これまた「怪物」に絶妙にスパイスをきかせている。
なにより彼らの、時に静かに時に激しく揺れ動く心情を表現するようなOST(オリジナルサウンドトラック)。これがとんでもなく良く!!
とにかくものすごく絶妙なタイミングで、まさに!なメロディーが流れるものだから、見ているこちらの感情ボルテージ上昇は必然必至。OSTに煽られ、涙した回がいくつあったことか…(というかほぼほぼ煽られっぱなしだった)。
自分は映画ならまだしも、ドラマでサントラが印象深く耳に残る…という経験があまりなかったので、今回見終わった後にサントラにも手を出す、という事態はかなりの異常事態、しばらくはサントラを聞く度にマニャンの町へと心は引き戻され、ドンシクやジュウォンの様々なシーンが走馬灯のように脳裏に浮かんでは消え…音だけでギュっと胸が苦しくなってみたり、しんみりしてみたり(完全にロス体)。
いやもうとんでもないドラマである。
そしてこのとんでもなさを成し得たのは、間違いなくシン・ハギュンとヨ・ジングの”凄まじい”としか言い表せない、ぶつかっては積み重なり合う、演技の応酬。
息も絶え絶えにようやく辿り着いた最終回は、こちらの目じりが完全充血…否、決壊。ただただドンシクと、ジュウォンの幸せを強く願う自分がいて(いや、もはや仲間たち皆が幸せになってくれ!!)、ドラマへの没入感、主人公たちへの共鳴感が半端ない、密な濃い鑑賞体験は幕を閉じたのでした…。

「怪物」がnoteを開かせた
見終わって…大きく大きく放心。そして脱力。と同時に湧きおこる、あぁ…遂に見終わってしまった!!という絶望感。笑 でもその後、「ものすごいものをみてしまった」と、じわじわと感動のようなものが心の底の方から滲み出てきて。
この大きな余韻をどこかに書き残したい。いや、書き残さねば!!と、ナゾの強い思いに背中を押され、そして今、noteに向かっています。
果たして書き残せたか?