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エッセイ「雑種犬タロの役割」

雑種の大型犬タロは、その昔、父が知人から

「もらってくれなかったら、保健所へ・・・」

と脅されて、我が家にやってきた犬だ。

高校生だった私は、たまに撫でる程度。
元気な父は、雨の日も風の日も、近くの海岸をタロと一緒に散歩していた。

ある日、突然。

父が、脳梗塞で倒れた。
55歳の働き盛りだった。

タロが我が家へやって来て、10年が過ぎた秋の日だった・・・

父は4ヶ月入院し、懸命にリハビリをした。
左脳の機能をほとんど失い、右半身はまったく動かない。
しかも、重度の失語症で、言葉を理解する事も話す事も出来ない。

父は、頑張っても頑張っても、元の姿には戻れない自分に、明らかに絶望していた。


退院の日。

すっかり自信を失い重度の障がい者になった父を、四苦八苦しながら車に乗せ何とか我が家に辿り着く。

その時だった!!

父の姿を見つけたタロが、大きな声で吠え出した。
嬉しくて、しっぽをブルンブルン振って力いっぱいジャンプしている!

車椅子に乗って、タロに近づく父は、すでにボロボロに号泣していた。
今まで、一人の時は、ベッドの中で何度も泣いたことだろう。

でも家族の前では、泣かなかった。

タロを囲んで、家族全員が泣いていた。

誰がお見舞いに来ても、開けなかった父の心の扉を、いとも簡単に開いてしまったタロ。

『あなたに会えて嬉しい!!』

余計な事は考えずに、ただ素直に伝えるだけでいい。

タロ、本当にありがとう!
あなたは、私達を助けるために、我が家にやって来てくれたんだ!!


それから2年後。
タロは静かに天国へ旅立った。

タロが死んで、誰よりも泣いていたのは、やはり父だった。




【あとがき】

はじめての投稿を、最後まで読んでいただき
本当にありがとうございます😊

父もすでに亡くなり
タロととも天国からモナリサを絶賛応援中!
たぶん。




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モナリサ
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