本当は恐い起業家ものがたり6
引用です。
第五章までをまとめますと、
・レストランで起業(見通しの甘さ)
・小成功(忙しさと人材確保のむずかしさ)
・利益率(ランチ&ディナーへの業態の変化)
・人間関係(自分のことは自分では見えない)
・感情のもつれ(人は理性では動かない)
いやはや、この物語は約12年前に
教えていただいたものですが、
今でも私(田中)のバイブルと
なっております。
聡明なあなたであれば、
理由をおわかりになって
いただけることでしょう。
それでは第6回目を、
どうぞお読みください。
(誰もがお一人で考えることの
多い回だと感じるため、
今回は私(田中)の
所感はお休みします。)
■閉店
レストランを初めて
5年目の記念日。
「5年も歳を重ねた上に
借金までかさむなんて」
と、ジョンはかつてに聞いた
カントリーソングを模倣しながら
しょんぼりとして言った。
■彼の声には力がなく、
何のユーモアもなかった。
ウィラは、ただ夫に目を向けた。
そして、一言もしゃべらなかった。
ウィラは容貌よりも
歳をとっているように見えた。
ジョンも「歳をとった」と感じた。
■2人は、アレクシスの
キッチンに座っている。
「この事態が好転する
何か劇的なことが起こるべきだ」
と、久しぶりに同意した。
確信はなかったが、
「劇的な好転はもっと身近にある」
と思っていた。
■「私たちができることは
これ以上はないのよ」と、
ウィラは小さく平坦な声で言った。
「私が思うに…
いいえ、わかっているの。
店を閉じなくてはならないのよ。」
■ウィラはアレクシスのことを、
今まで一度も「店」とは呼ばなかった。
まるで一人の友人であるかのように。
それが独自の生命を
持っていたかのように、
「アレクシス」と呼んでいた。
それを「店」と呼んだということは、
ウィラの決断が正しいという証拠だった。
■ジョンは一度も
「アレクシス」とは呼ばなかった。
彼にとってのアレクシスは、
単なるビジネスであったからだ。
張り切っていた開店の当初も、
どうしても「アレクシス」と
呼ぶ気にはなれなかった。
■もちろんジョンは、
「意固地になり名称では呼ばない」
という気持ちを持って
いるわけではなかった。
ジョンにとっては、
「気恥ずかしい」とまでは
言わないまでも、
「ビジネスはビジネス」
「物事は物事」
という感覚だった。
■ウィラは、申し訳なさそうな
声で言った。
「ビジネスの成功を不可能だと
考えていたわけではないのよ。
可能であったとは思う。
でも、私にできる
ことではなかったの。」
そこまでしゃべってから
彼女は言い直した。
「いいえ、私たちには
不可能だったの」
■今度はジョンが
無言になる番だった。
もちろん彼も、
「ウィラは正しい」
とわかっていた。
「我々にはできなかった。」
ジョンは、どのように
次の段階に進むかを考えると
途方に暮れた。
■彼は、突然として
抑えきれない悲しみの波に
飲み込まれる自分に気づいた。
結局のところ閉店は、
開業と同じく
少しも難しくはなかった。
事実、驚くべきことに。
いったん閉店を決めると、
ジョンとウィラは
それを実行するだけだった。
■彼らはあっさりと決断した。
それだけのことであった。
顧客には告げなかった。
いや、ウィラは数人、
伝えるべき友人や、
今後も定期的に顔を合わせる
ことがわかっている
人々にだけは告げた。
■ウィラは知っていた。
「ランチ・アレクシス」と
「ディナー・アレクシス」には、
本質的には何の違いもなかった。
「違いは自分とジョンの
間にあったのだ。
自分とジョンが悩み
和解できないものは、
個人の対立であり
ビジネスの対立ではなかった。」
■単にビジネスの
対立であったなら、
2人は何とか解決する
ことができただろう。
ウィラは、
2人の関係がどこから始まり、
なぜビジネスの芽が生まれ、
そこから失われたものが
なんだかわからなくなった。
■ジョンは、ゲストの
誰ともつながりを築かなかった。
「結局のところ、それが核心か」
と彼は思った。
だから誰に対しても
彼が告げるべきことはなかった。
「みんな、すぐに知るだろう。」
彼らが住んでいるのは小さな街だ。
■そう考えるや否や、
彼は解決できない他の思いと共に
すべてを放棄した。
しかし依然としてジョンは、
悲しみから来る痛みを感じた。
閉店するのは容易であったが、
次にすべきことに面と向かうのは
全く容易ではなかった。
■その一方で、
まだ従業員はいた。
ウィラは最終日の
最後の瞬間まで、
彼らに告げる勇気はわかなかった。
それは彼女にとっては、
とてつもなく苦痛なことだから。
■彼らを家族のように思った。
中でも数人は、
彼女とジョンが今まで
手にしたことのない
子供のようだった。
■彼らは長年にわたり、
生活やボーイフレンド、
親、進学に関する問題を
相談してくれた。
「必ず返済する」
との約束をしながら
お金を借りにもきた。
■ジョンは、
「貸すな」と言った。
そして、「返してもらえ」
と激怒した。
ウィラは「わかったわ」と
口では返事をしていたが、
最後までローンの返済を
要求する勇気は出なかった。
■そして、返済はされなかった。
彼女がお金を貸した者たちは、
毎週の賃金を手にしても
返済はしなかった。
最終日がやってきた。
慣れ親しんだ従業員が、
「他のどこかに職場を探す」
ことをウィラは恐れた。
■「今日が最終日だ」と
ジョンが従業員に告げるのは、
ひどくプライドを傷つけた。
今後、従業員がどうなるのか?
という問題よりも、
彼は自分のプライドが傷ついた。
事実、
「レストランを廃業する」
とジョンが告知をしたときは、
安心感がほとばしった。
彼にとっては、ビジネスの
責任を負いながら生活するよりも
簡単なことだった。
■そして最終日は、
何ごともなく過ぎ去った。
レストラン「アレクシス」は、
永久に閉店をしたのだ。
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