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おつまみ感覚で読める利益を増やすプライシング講座

プライシングに関しては、並ぶものが無いバイブルであるプライシング大全で語りつくしたのですがいかんせん分量が多すぎる。

なので超ざっくり最低限プライシングについて知っておくべきことを書いてみました。→プライシング大全を履修済みの人には不要です。

プライシングにおける3つの基準

プライシング(値決め)には大きく分けて3つのやり方があります。

  • コストベース

  • 競合ベース

  • 顧客(市場)ベース

プライシング大全#3でも話したよ

コストベースのプライシング(値決め)

このプライシング方法はその名の通り、コストを基準にして販売価格を決定するという多くの方がイメージするプライシングです。

例えば、「製品原価率を20%にするために価格は原価の5倍!えいや!」という決め方ですね。潔い。プライシングを真剣に考えた場合、あまり素晴らしいやり方とは言えませんが、実用的メリットはあります。

まず第一に、コストは自社内で事前に観測可能な数値であるため、推測データを使う必要がないです。そして第二に競合他社が同じプライシング法を採用すれば価格競争をする必要がなくなります。

ただし、顧客の反応を無視するという大きなデメリットが生じることになります。基本的にコストベースのプライシングで適正価格が選ばれることは無く、高すぎるか安すぎるという状況に陥るでしょう。

競合ベースのプライシング(値決め)

B2B企業では一般的な方法かもしれません。「競合A社がこの値段だったんですよねー」という相見積もりを見せられるとそれより安く設定する。営業担当が「5%の値引きをしたら即決してくれるというので、値引きしました!」的なことはよくあると思います。

B2B企業に限らず、価格に敏感な消費財などは競合の価格を参考に決めることも多いでしょう。

一見すると、当然のように思えるこのプライシング方法は自社のプライシング根拠が他社に依存しているという超致命的な欠点を抱えています。競合他社のプライシングに注意して自社の値決めをすることは重要です。しかし、自社と競合他社ではコスト構造も需要パターンも違うにもかかわらず競合をベースに決めるのは愚かとしか言えません。

顧客価値(市場)ベースのプライシング(値決め)

最も賢く、最も難しいプライシング方法が顧客価値ベースのプライシングです。顧客価値ベースのプライシングというのは「顧客の言いなりになる」プライシングの事ではありません。

市場の反応を想定することによって最大の利益を上げるための最適価格を見つける方法です。自社のコスト構造によって最大の利益を生む価格は変わってきます。それは必ずしも需要曲線の均衡点とは限りません。

極論を言うと「やってみな分からん。」という領域なのですが、考えることに意味がないわけではありません。大事なのは「市場の反応を想定すること」です。

どう考えてもこれが一番いいに決まってますよね。でも、実際自分の事業でこの顧客価値ベースのプライシングができている人はほとんどいません。だって怖いんですもん。

販売個数と単価はトレードオフなのが怖いよね

皆さんご存じの通り、販売個数と製品単価の間にはトレードオフがあります。

一般的な言い方をすると価格弾力性があるというやつです。
値上げをすれば、販売個数が下がる。値下げをすれば販売個数が上がる。という関係の事です。

この価格弾力性、業界によって強さが異なります。

日常から触れる機会の多い、消費財。消費財は弾力性が大きい、つまり価格変化に敏感な業界です。

考えてみると分かりやすいですが、主婦の皆さんは家計を握っているので日々の出費、スーパーでの価格変化に敏感なイメージありません?

おや、この牛乳いつもより10円高いぞ…?的なね。

まぁでも消費財はちょっと例外です。多くの業界においては需給が釣り合っている均衡地点付近での小さな変化(1%)レベルでは販売個数に変化がないことも多々あります。

※ちなみに価格弾性力は1.3~3の間に収まることが多く、その中央値は2と言われています。つまり、5%値上げしたら10%販売個数が落ちる的なイメージ。ただ、利益額が増えることは多々あるし、販売数量を"極力"落とさないようなプライシング方法もある。

Price Elasticity - Research on magnitude and determinants

コスト削減って簡単に言うけどめちゃくちゃ競争力が必要

コストは大まかに固定費と変動費用に分けられます。この二つを下げることができればそのまま利益率の向上につながります。

ただ、注意してほしいのが「無駄をなくすコスト削減は良くても、関係会社に無理をさせるコスト削減は長期的にメリットがない」ということです。

例えば、紙での印刷を削減する、エアコン温度やオフィスレイアウトの変更により電気代を削減するなど無駄を削減する方面の施策であればどんどんやればいいでしょう。

しかし、仕入原価を下げるといった製品パフォーマンスに直結したりステークホルダーに無理を強いるコスト削減案はおすすめできません。

もちろん交渉すること自体は良いですよ?実際、パフォーマンスを落とさずにコスト削減ができるなら越したことはありません。

ただ、理想はあくまで理想です。求めすぎてステークホルダーに無理を強いてはいけません。TOYOTAくらい競争力が強い会社であれば多少無理を強いても力業で突破できますが、そんな競争力を持っていないことがほとんどですよね?

簡単そうにコスト削減を叫ぶ輩に言ってやってください。

ステークホルダーとWin-Winの取引ができるか?という視点をもったままコスト減を実現するのはめちゃくちゃ難しいんだぞ、と。

正しい値決めについて簡単に説明

正しい値決めが利益に与える影響は凄まじいです。

  • 販売数量UP

  • 価格UP

  • 固定費DOWN

  • 変動費DOWN

この4つの要素で最も利益に与える影響がでかいのが価格UPです。販売数量UPの3倍の影響があります。凄いよね。

詳しく知りたい方はプライシング大全#1を見てください。

正しいプライシングをするための大原則(忙しい人向け)

忙しい人は次の大原則だけでも覚えてください。

大原則
・企業側の費用ベースで設定するな
・消費者の価値を基準に設定しろ
・消費者に考えさせない
・顧客の価値認識は価格によって左右される
・客が感じる商品ポジションで価格が変わる
・独自性が強ければ、高価格を支払ってくれる消費者をメインターゲットにすべき

大前提:値下げは地獄への片道切符

何よりもまずはじめに、値下げによって起こる悪循環を頭に入れて先に進みましょう。

コスト構造に強みを持っているとかでない限り値下げは良くない"ことが多い"

そもそも正解の価格ってなに?

購入前に消費者の感じる価値と価格のバランスがとれている値決めが正解です。

例えば、1万円の牛丼を販売してそれを購入する人がいればそれは消費者にとって正解の値段だったということです。

逆に、めちゃくちゃ赤字になるけど5000円のフレンチフルコースを販売して誰も購入しなければそれは不正解の値段だったということです。

つまり「消費者の感じる価値>価格」であれば購入するし、そうでなければ購入しないということです。

ただし、これは初回購入のときの話であり、商品のパフォーマンスが悪ければ二回目以降は見向きもされません。

つまり、

購入前: 事前情報によって感じる価値>価格であればOK。

購入後: 体験価値 > 価格であればOK。

当然、企業側の都合でコストベースの決め方なんてしたらダメですよ。

「商品原価は5,000円で原価率を50%にしたいから希望小売価格は10,000円にしよう」とか素人じゃないんだからさ。

重要なことは
顧客価値ベースのプライシングを心がけること。

リビングハウスの独特な値付け

最近売上を順調に伸ばしている家具ショップのリビングハウス。リビングハウスはカンブリア宮殿でも独特な値決めをしていると紹介されていました。

  1. 複数人でいくらなら欲しいと思うかを決める

  2. せーので互いが決めた金額を見せ合う

  3. 実際の原価を確認し、利益率を調整する

大原則にもある「消費者の価値を基準に設定しろ」を地で行くプライシングをしています。

顧客はいくらなら欲しいと思うか?お買い得だと思うか?を考える値決めの手段がとられています。

このやり方をとれば、「作り手・売り手」というバイアスはあるものの、できるだけ顧客価値ベースでプライシングすることができます。

商売がうまい企業は例外なく値ごろ感の設定が上手いです。あなたが商売をする場合でも客観的視点・顧客視点で買いたくなる価格なのか?を追求してください。

値決めのコツ

値決めのコツ: 消費者の後押しをしよう

考えることってしんどいですよね、疲れますよね。だからこそ、お客様に考えさせるのではなく、後押しをして「買おう!」と思ってもらいましょう。

例えば、結婚式場のセールスでは99%の確率で次のトークスクリプトが使われます。

「この場で決めていただくと会場代から30万円値引きさせていただきます。」→この場で決めないと、30万円増額してしまう…という損失回避傾向を利用したやり口。

「このお日にちは大変人気ですので、早めに決めないと埋まってしまうことがある点、ご了承ください。」→いま決めないとなくなってしまうかもという損失回避と希少性を突いたやり方。

いろんな話を聞かされて疲弊したあとに言われるため、冷静な判断ができてないんですよね。個人的には良いやり方だとは思いませんが、間違いなく成果が出るやり方です。

他にも「消費者自身が選択して決めた」という形で後押しをする方法もあります。

それが選択肢を設けるというやり方。

人間には極端を回避する傾向にあるので、松・竹・梅の3つの選択肢がある場合、真ん中の価格(竹)を選ぶ確率が高まります。

消費者に頭を使わせ過ぎない形で選択肢を用意しましょう。

※選択肢を増やしすぎると逆効果
心理学で有名な「買い物客とジャム」というコロンビア大学のシーナ・アイエンガー教授がスーパーマーケットの試食コーナーで行った実験があります。
24種類のジャムを用意した試食コーナーと、6種類のものを並べます。
まず、立ち寄るお客は24種類の試食コーナーの方が多かったのです。
買い物客の60%を集めました。
一方で6種類の試食コーナーでは、買い物客の40%しか集客できませんでした。
購入した顧客の多さを比べてみると
24種類: 60%のうち3%が購入=0.6*0.03*100=1.8%
6種類: 40%のうち30%が購入=0.4*0.3*100 = 12%
少ない6種類のほうが購入者数では多くなりました!

重要なことは「消費者に考えさせない」ことです。

値決めのコツ: 価格が高いものは価値が高い、重いものは価値が高い

人間の感覚は本当にあてになりません。

「重いものは重要・価値がある」と思うくらいにはいい加減です。

嘘だと思いますよね?本当なんですよ、これ。心理学的に証明されている事実です。

一見関係のなさそうな身体感覚が思考・態度に効くことを表した論文
[Incidental Haptic Sensations Influence Social Judgments and Decisions]

人間の感覚バグりすぎワロタ。

つまり「価格が高いものは価値が高い」し「価格が安いものは価値が低い」と感じる程度には適当です。

何度も「値下げは地獄への片道切符だよ」と伝えているのはこういった価値と価格への誤解があることも加味した結果です。

本当ならもっと価値を感じてもらえたかもしれない商品・サービスを値決めによって失っているんです。

ただし、コンセプト検証の段階では”価格が障害となって選ばれない”という最悪の事態を避ける必要があります。安売りがダメ、というよりも意味のない値下げが良くないということなので誤解の無きよう。

スモールビジネス大全「月額980円が安い→価値も低い」と思われるのが本当辛いです。

まぁ、価格=価値と思う人に何をやらせてもダメか。

値決めのコツ: 高い価格帯の類似サービスを連想させる

5,000円の牛丼

高いですか?安いですか?

高いですよね。

5,000円のフレンチコース

高いですか?安いですか?

安いですよね。

5,000円の牛丼が高いと思うのも、5,000円のフレンチコースが安いと思うのも頭の中で類似商品と比較しているから発生する感情です。

つまりですよ、あなたのサービスを顧客の頭にある高価格帯のサービスと紐づけることで「お買い得感」を感じてもらうことができるのです。

ポジショニングってやつですね。

例えば、「スナック菓子としてのクッキー1000円」は高い。しかし、「贈答用クッキー1000円」は安くないですか?

他にも「マッサージ60分10,000円」は高いでしょうが「脂肪吸引10,000円」は安い。

あなたのマッサージに消費者が実感できるボディラインメイクの効果があるなら脂肪吸引やその他のサービスと連想させることで「ボディメイクマッサージ60分10,000円」が売れるようになるのです。

このように、顧客が比べる対象をこちらが誘導しすることで顧客の感じる許容価格は変わります。

ただし、この手法、無敵の方法ではありません。当然、リスクも伴います。

例えばマッサージであれば、消費者が期待するパフォーマンスは「気持ちよさ・ストレス解消・リラックスなど」でしょう。

この場合、期待したパフォーマンスを提供するのは容易です。ただマッサージをすればいいだけですから。

しかし、脂肪吸引と紐づけさせたボディメイクマッサージの場合、「ボディラインの変化、美しさ」などの体感できるほどのパフォーマンスが期待されます。

この期待を満たせない場合、プレファレンスの低下がおこり、結果的に経営状況が悪化していきます。

高く売りたい!という気持ちは分かります。分かりますが、一旦立ち止まって見て、「消費者が期待するパフォーマンスを提供することができるか」を考えてから思考を誘導しましょう。

値決めのコツ: 高額を払ってくれる消費者をメインターゲットに

あなたのサービスを高く買ってくれる消費者はどんな人ですか?

アパレルであれば、ルイヴィトン、エルメスなど。高いですが許容されています。

自動車であれば、ロールスロイス、マクラーレン、ランボルギーニなど。これらも高いですが許容されています。むしろ熱望されています。

上で述べたようなトップTierのブランドは企業側のこれまでの投資によって築かれたブランドエクイティがなせる業です。

ブランド自体が圧倒的な独自化要素になっているわけです。

LVやシャネルとその他の有象無象ブランドとイメージがごっちゃになったりはしません。これが独自性です。

当然ですが、一朝一夕で作り上げられるものではありません。しかし、我々も強固なブランドイメージを築いていく努力はしていくべきです。

あなたが提供するサービスは独自性を持ったものであるべきですし、そうすることでプレファレンスというのは高めていくのです。

そうして、独自性が高まってくれば通常のお客さんと比較して高い料金をお支払いいただけるお客様が見つかります。

大事なのは「どういった独自性があれば高いお金を払ってくれるか?」を考えることです。

例えば、あなたが提供しているのが普通のマッサージであれば価格競争に巻き込まれ高い値付けをすることはできません。しかし、独自性として「美顔効果」を持っていればどうでしょう?

普通のマッサージを求める人は来ませんが、「美顔効果」を求める人は高価格を払ってでもあなたのお店に来店します。

「素早く終わるが効果は抜群」という独自性に、忙しくない普通の消費者は高額を支払おうとは思いません。むしろもったいなく感じるでしょう。

しかし、時間のないお客さん(例えば会社の重役など)をターゲットにした場合は高額を支払ってくれる可能性があります。

あなたの独自性は誰にとって価値があるのか?を考えた後にメインターゲットを検討していくべきです。

ニッチを狙いすぎて失敗しちゃうこともあります。失敗が怖い人は上の記事を読んでください。

まとめ

・企業側の費用は消費者にとって関係ない
消費者が感じる価値を基準に価格を決めるべき
・消費者に悩ませない、背中を押す方法を考えよう
・価格が高ければ価値は高いと感じてもらえる
・価格が高い商品カテゴリと紐づけることで、高い値付けが許容されやすい
・独自性を活かして、高価格を支払ってくれる消費者をメインターゲットにすべき
・値下げは地獄

プライシング大全があるのに作った理由

プライシング大全、とんでもないボリュームですが、あれでも削ったほうなんですよ。

ただ、もっと簡単にポップな感じで読める記事があってもいいかなと思ってこの記事を作りました。だから特に意味はないんですよね。笑

ではまた。

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