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Cappadox RTN 4: 古代教会跡のララージ

English follows Japanese


Cappadox Returns!

トルコが誇る世界遺産、カッパドキアの奇岩風景を舞台にした総合アートフェスティバル「Cappadox(カッパドックス)」が2024年5月下旬に帰ってくる!

「Cappadox」は初夏のカッパドキアの野外で、4日間にわたりトルコ内外のスピリチャルな音楽アーティストのライブを中心に、モダンアートの展覧会、薪火を使ったファインダイニングや地産ワインのワークショップ、ネイチャーウォーク、ヨガや瞑想ワークショップなどを詰め込んだ現代トルコならではのフェス。

2015年から2018年まで4年連続で開催され、国内外からの参加者に「奇跡のフェス」と評されながらも、一旦終了してしまっていた。

それが今年2024年に満を持して再開することになった!

再開を祝して、2016年から3年連続で「Cappadox」を取材した僕、サラームが当時書いた原稿を元にして「note」のマガジンを作ろう!

第4回目の記事は僕が初めて「Cappadox」訪れた2016年のレポート第2話「古代教会跡のララージ」。

読者の皆さん、5月下旬のカッパドキアで乾杯しましょう!

Cappadox 2016の前夜祭にて

Cappadox RTN 4: 古代教会跡のララージ

2016年5月18日「Cappadox」初日の朝、日本との6時間の時差ボケで朝早くに目がさめてしまった僕は、ホテルの地下にあるハマムでひとっ風呂浴びて、同じ宿に泊まっているモントリオールのポストクラシカルのバンド、Esmerin(エスメリン)のメンバーとともに中庭で宿の自慢の朝食を食べていた。

Esmerinのメンバーたちと宿のテラスで朝食

すると、アウトドアジャケットにカーゴパンツ、肩にかけたかばんにウールのキャップまで全てオレンジ色で統一した姿の黒人男性が芝生のテーブルに一人で現れた。アメリカ人のアンビエント~瞑想音楽家のLaraaj(ララージ)じゃないか! 今回出演することは知っていたけれど、まさかこの宿に泊まっていたとは! 

猫が自然とLaraajiの腕の中に入って眠ってしまった!

僕は「Cappadox」の開催が発表された段階でプレス申請を行っていたが、出発の直前までパンパンに仕事をつめていたので、出演するアーティストすら知らないままに現地まで来てしまった。出演アーティストやタイムテーブルを含むフェスの詳細はスマホのアプリになっていて、もちろんダウンロードしていたが、文字が小さすぎたので、あまり見る気がしなかった。いや、忙しすぎてチェック出来ないのなら、あえて誰が出演するか知らないままフェスに挑み、本番直前に知って、その場で驚きたい。知らないアーティストに出会うのもフェスの楽しみとも言えるし……そんな天の邪鬼な思いもあったかもしれない。しかし、ぶっつけ本番、行き当たりばったりの行動が良い方向に働くこともあるが、当然マイナスに働くこともある。その失敗については次回の原稿で書こう。

ララージとは?

ララージは往年のロック・ファンならご存知だろうが、1980年、ブライアン・イーノがプロデュースした作品「Ambient3: Day Of Radiance」で世界デビューを果たしたエレクトリック・ツィター(ドイツやオーストリアで用いられる小さな琴状の弦楽器)奏者。1960年代のニューヨークでコメディアンとして活躍していたが、ヨガやヒンドゥー教に出会い、音楽家に転向。古道具屋で見つけたツィターにディレイやリバーブなどのエフェクターをつなぎ、独自のチューニングや奏法を開発し、不思議と心休まる音楽を生み出した。1970年代末にニューヨークの公園で演奏していたところを、ブライアン・イーノに見出され、アンビエント音楽の演奏家として注目された。1990年代には細野晴臣とも共演を果たしている。その後、彼は常にアメリカのヨガ~瞑想のシーンと密着した活動を行い、20巻を超えるカセットテープのアルバムを発表し続けていた。

僕は朝食を済ませた彼に近づき、1994年に東京で行われた彼のライブを見ていたと話しかけた。そのまま、しばらく彼の近年の活動について伺っていると、宿の飼猫が彼のテーブルにそろそろと上ってきて、テーブルの上に組んだ彼の腕の間に入り、身体を丸めて眠り込んでしまった。彼が身に着けているオレンジ色の服は太陽の波動を表しているとのことだが、猫はそれに反応したのだろうか。

高級ホテルArgosの中にある古代の教会跡を改装した会場

古代の洞窟教会で聴くアンビエント音楽

午後5時から、宿から徒歩10分の距離にある高級洞窟ホテル「Argos(アルゴス)」の一角の会場にララージの演奏を聞きに行った。会場は200人ほどがらくらくと入れるだろう岩を穿った洞窟。古代のキリスト教徒が集会場として使っていた場所とのこと。集まった150名ほどの観客を前に、ララージは木の枠に吊るした直径40cmほどの円形のゴング(鐘)の表面を、マレットでこすり始めた。次第に金属の共鳴音が「ボワ~ン」と膨れ上がってきて、洞窟の中で不思議な反響を生み出した。「ボワーン」という通奏音が響き続ける中、ララージはゴングの表面をこすり、叩く。すると、金属の倍音がその場で変化していく。通奏音はお腹に響き、倍音は耳や頭蓋骨を刺激する。実に気持ち良い音楽、というよりバイブレーションだ。ゴング演奏に続いては、得意のエレクトリック・ツィター、そして親指ピアノを使って、木漏れのような不思議な音のシャワーを紡ぎだす。そして、自ら鳴らした音と、その音が洞窟内部で引き起こす残響、その双方を耳で確かめながら、ゆったりと一時間、演奏を行った。

ツィターを爪弾き歌うLaraaji

朝に彼から聞いた話では、彼は自分の音楽の向かう先について、聖書の冒頭に「はじめに音があった」という言葉とともに登場する「宇宙の音の波動」、ヒンドゥー教でいう「オーム」、ヨガの用語でいう「ナーダム」にあると言っていた。僕は瞑想やヨガには関心はないが、古代のキリスト教徒が迫害を逃れて共同生活した場所で体感するララージの音楽は、東京やニューヨークの立派なコンサート会場で聞くより、彼のそうした意図に近い音に思えた。

親指ピアノを弾きながら立ち上がり、部屋の鳴りを確認しながら演奏するララージ

農園でポストクラシカルバンド Esmerine

午後6時過ぎには、やはり宿からそれほど遠くないウチヒサル農園で、同宿のバンド、エスメリンが友人のハッカンをゲストギタリストに迎えて演奏を行った。

来た坂道を登り、さらに下り、城塞の裏側にある農園へと向かった。会場に近づくにつれ、チェロやヴァイオリンの音が遠くから聞こえてきたが、音のする方向に進んでも、行き止まりの道ばかりでなかなか会場に辿りつけず、行ったり来たりを繰り返す。やっとのことで山の中腹に開けた農園にたどり着くと、幸い演奏は始まったばかりらしかった。500人ほどの観客が芝生の上で好き勝手に陣取り、音楽を楽しんでいる。ステージの近くまで下ると、友人のアイリンやイスタンブルから来た別の友人たちが芝生に寝そべっていた。

カナダのポストクラシカルバンドEsmerinは野外農園で演奏

エスメリンはチェロ奏者レベッカ・フーンとエレクトリック・マリンバ奏者のブルース・コードロンを中心に、ドラムス/ヴィブラフォン、ヴァイオリン/コルネット、コントラバス/エレキベースという編成で、室内楽をハード&ミニマルに演奏し、ポストクラシカルのバンドとして国際的に注目を集めてきた。近年はトルコやバルカンの音楽を取り入れ、イスタンブルでも公演を行っている。

マリンバによる短いフレーズの繰り返しの上で、チェロやヴァイオリン、エレキギターなどがそれぞれに異なる色あいのフレーズをのせ、一曲をゆったりとジワジワ展開していく。そして、次第に音が荒々しくなり、ヘビーロックやシューゲイザーのような轟音のクライマックスに至る。

カッパドキア名物の陶器作りワークショップも

西洋的なメロディーと、歌がないインストゥルメンタル演奏はトルコ人にアピールするのだろうか? そんな心配は無用だった。「Cappadox」の主な客層は30代以上で、多くはイスタンブルやアンカラからわざわざにやってきたインテレクチャル層だ。日本人の僕たち同様に普段から西洋音楽のジャズやクラシック、ロックにも親しんでいる。それでも一番盛り上がった曲は、トルコの9拍子のリズムを取り入れた曲ではあったが。

ステージの背後にはカッパドキアの奇岩が広がり、夕暮れの一刻一刻と色を変えていく空にエスメリンのミニマルな音が溶け合っていく。エスメリンは日本ではほとんど知られていないが、アイスランドのポストロック・バンド、シガー・ロスやスコットランドのモグワイのファンには受け入れられそうな音だった。

チケット切りのアルバイトはイスタンブルの女子大生たちだった

プロデューサー、アフメトさんとの会話

エスメリンの演奏終了後、ウチヒサル城塞の会場で、「Cappadox」の総合プロデューサーで、当時のコンサート制作会社「Positif」の代表、Ahmet Ulug(アフメト・ウルー)さんに再会し、話を聞けた。

「Positifは1989年にイスタンブルでアヴァンギャルドなジャズのコンサートを開く所から始まった。その頃から自然に囲まれたカッパドキアでフェスを行うというアイディアはあったんだ。しかし、僕たちは常にイスタンブルの仕事に追われていた。そして、僕の亡くなった兄、メフメトが5年ほど前にカッパドキアを訪れ、「Cappadox」のプロジェクトをスタートした。しかし、兄が病気で亡くなり、一旦宙に浮いてしまったんだ。その後、一昨年の暮れになって、僕は兄の遺志を継いで、「Cappadox」を開くことにした。それからの半年はとんでもなく忙しかったよ。そして、昨年の5月に第1回を開催した。合計で5000枚のチケットが売れたんだ」

「全ての機材はイスタンブルから持ち込んだ。でも、最初は僕たちはこの地域のことをまったく知らずにいた。夜は寒いし、天気も刻々と変わる。お客さんの多くもそれまでカッパドキアに来たことがなかった。それでもお客さんは自分たちで飛行機を予約し、宿を手配してここまで来てくれた」

「Cappadox」は外国人アーティストとトルコ人アーティストを半々にしている。ポップスやロックはあえて避けて、ジャズ、ワールドミュージック、クラシックが中心だ。静かでアトモスフェリックで、アーティスティック、そして質の高い音楽を選んでいる」

当時の総合プロデューサーのAhmet Ulugさん

「そして、「Cappadox」は単なる音楽フェスではなく、現代美術の展覧会、地元の美食、ヨガや野外アクティビティーなどを含めた総合フェスでもある。音楽を楽しむだけでなく、「Cappadox」を通じてカッパドキアを知ってもらいたいんだ」

「トルコには素晴らしい場所がいくつもある。もしかしたらカッパドキアではなく、エーゲ海で開いても良いのかもしれない。でも、やはりカッパドキアは神秘的で、特別な地形と美しい景観があり、マジカルなフィーリングがある。トルコ人にとって特別な場所であり、ここに来ると人は感覚がオープンになるんだ」

(次回へ続く)

Cappadox RTN 4: Laraaji Plays in the Ancient Church

Cappadox Returns!

The comprehensive art festival "Cappadox," set against the backdrop of Cappadocia's otherworldly rock formations, a World Heritage site in Turkey, is returning in late May 2024!

"Cappadox" is a unique festival in modern Turkey that packs outdoor concerts by spiritual music artists from Turkey and abroad, modern art exhibitions, fine dining using firewood, workshops on local wine, nature walks, yoga, and meditation workshops over 3 or 4 days in early summer in Cappadocia. Held consecutively from 2015 to 2018, the festival was celebrated as a "miraculous fest" by attendees from both within Turkey and internationally before it was temporarily concluded. Now, in 2024, it is set for a grand reopening!

To celebrate the reopening, I, who covered "Cappadox" for three consecutive years from 2016, plan to create a magazine on "note" based on the manuscripts I wrote back then!

The fourth article will be the second part of my report from my first visit to "Cappadox" in 2016 titled "Laraaji Plays in the Ancient Church”.

Let's toast in Cappadocia in late May, dear readers!

Laraaji Plays in the Ancient Church

On the morning of May 18, 2016, the first day of "Cappadox," I woke up early due to a six-hour time difference with Japan. After taking a bath in the hotel's hammam and having breakfast in the courtyard with members of Montreal's post-classical band, Esmerine, staying at the same hotel, a black man in an all-orange outfit from his outdoor jacket and cargo pants to his bag and wool cap appeared at a table on the lawn. It was none other than the American ambient-meditation musician Laraaji! I knew he was performing at the event, but I had no idea he was staying at the same hotel!

By the time I applied for press credentials for "Cappadox," I had packed my schedule so tight until right before departure that I hadn't even checked which artists were performing. Although the festival details, including the performers and schedule, were available on a smartphone app (which I had downloaded), the text was too small for me to bother reading much. In fact, there was a rebellious part of me that wanted to dive into the festival not knowing who was performing, to be surprised at the last moment, and to encounter unknown artists... Part of the fun of festivals, I thought. However, such spontaneous, unplanned actions can sometimes work out well and sometimes not. I'll write about that failure in my next piece.

Who is Laraaji?

Laraaji might be known to seasoned rock fans as the electric zither player who made his global debut with the 1980 album "Ambient 3: Day Of Radiance," produced by Brian Eno. Starting his career as a comedian in 1960s New York, he switched to music after discovering yoga and Hinduism. Finding an old zither in a second-hand shop, he connected it to delay and reverb effectors, developed his own tuning and playing techniques, and created uniquely soothing music. Discovered by Brian Eno while playing in a New York park, Laraaji gained attention as an ambient music artist. He even collaborated with Haruomi Hosono in the 1990s and has since been closely involved with the American yoga and meditation scene, releasing over twenty cassette tape albums.

Approaching Laraaji after breakfast, I mentioned seeing his performance in Tokyo in 1994 and learned about his recent activities. A hotel cat climbed onto his table, curled up between his folded arms, and fell asleep. Did it respond to the orange color of his clothes, symbolizing solar energy?

Ambient Music in an Ancient Cave Church

At 5 PM, I went to listen to Laraaji's performance at a venue located a 10-minute walk from the hotel, in a section of the luxury cave hotel "Argos." The venue, a cave that could easily accommodate around 200 people, was once used by ancient Christians as a meeting place. In front of about 150 spectators, Laraaji began by rubbing the surface of a large gong hung within a wooden frame with a mallet, creating a mesmerizing resonance throughout the cave. Amidst the continuous drone, he rubbed and struck the gong, changing its harmonics. The performance, featuring his electric zither and thumb piano, wove a fascinating tapestry of sounds and resonances for an hour.

Laraaji believes the direction of his music aligns with the "vibrations of cosmic sound" mentioned at the beginning of the Bible as "in the beginning, there was sound," akin to the Hindu "Om" or the yogic "Nadam." While I'm not particularly interested in meditation or yoga, experiencing Laraaji's music in a place where ancient Christians lived in communal hiding felt closer to his intentions than a performance in a fancy concert hall in Tokyo or New York.

Post-Classical Band Esmerin at a Farm

Afterward, near 6 PM, Esmerine performed at a farm close to Uchisar, with Hakan as their guest guitarist. The audience of about 500 people freely occupied the lawn, enjoying the music near the stage, where I found Aylin and other friends from Istanbul.

Esmerine, known for their hard and minimal interpretation of chamber music, has gained international attention as a post-classical band. Incorporating Turkish and Balkan music, their performances have been well-received in Istanbul. Their music, mostly instrumental and devoid of singing, appealed even to the Turkish audience at "Cappadox," known for its intellectual crowd from Istanbul and Ankara, familiar with Western music genres.

Talk with the Producer, Ahmet

After Esmerine's performance, I had the chance to reconnect with Ahmet Ulug, the overall producer of "Cappadox" and the representative of the concert production company "Positif," at the Uchisar Castle venue.

"Positif started in 1989 in Istanbul, opening avant-garde jazz concerts. Since then, we had the idea of hosting a festival in Cappadocia, surrounded by nature. However, we were always swamped with work in Istanbul. Then, about five years ago, my late brother, Mehmet, visited Cappadocia and initiated the 'Cappadox' project. But after he fell ill and passed away, the project was left hanging. At the end of the year before last, I decided to carry on my brother's will and start 'Cappadox.' The next six months were incredibly busy. And last May, we held the first edition. We sold a total of 5,000 tickets.

We brought all the equipment from Istanbul. But initially, we knew nothing about the area. It gets cold at night, and the weather changes constantly. Many of our guests had never been to Cappadocia before. Yet, they booked their flights and accommodations themselves to come here.

'Cappadox' features an equal mix of foreign and Turkish artists. We deliberately avoid pop and rock, focusing instead on jazz, world music, and classical. We choose music that is quiet, atmospheric, artistic, and of high quality. Moreover, 'Cappadox' is not just a music festival but a comprehensive festival that includes modern art exhibitions, local cuisine, yoga, and outdoor activities. We want not only to enjoy the music but also to introduce Cappadocia through 'Cappadox.'

Turkey has many wonderful places. Perhaps we could have held it in the Aegean Sea instead of Cappadocia. But Cappadocia is mystical, with its special landscapes and beautiful vistas, creating a magical feeling. It is a special place for Turks, where people's senses open up when they come here."

(To be continued)


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