映画日誌’23-40:キリング・オブ・ケネス・チェンバレン
trailer:
introduction:
名優モーガン・フリーマンが製作総指揮を務め、無実の黒人男性が白人警官に殺害された実際の事件を映画化したサスペンス。事件が起きた90分間をリアルタイム進行形で描く。自閉症の兄弟を描いた『NightLights』で長編デビューしたデヴィッド・ミデルが製作、監督、脚本を務めた。『ハンニバル』などのフランキー・フェイソンが主演を務め、アカデミー賞の前哨戦であるゴッサム賞で最優秀主演男優賞を受賞。(2019年 アメリカ)
story:
2011年11月19日午前5時22分。双極性障害を患う黒人の元海兵隊員ケネス・チェンバレンは医療用通報装置を誤作動させてしまう。まもなく3人の白人警官が安否確認のため到着。ケネスはドア越しに、通報は間違いであることを伝えるが聞き入れてもらえない。最初は穏便に対応していた警官たちだったが、ドアを開けるのを頑なに拒むケネスに不信感を募らせ、次第に高圧的な態度を取り始める。更には差別的な表現で侮辱し始め、恫喝はエスカレートしていく。
review:
2011年11月19日、アメリカ・ニューヨーク市ホワイト・プレインズで実際に起きた事件である。双極性障害(躁うつ病)と心臓病を患う元海兵隊員のアフリカ系アメリカ人、ケネス・チェンバレン・シニア(68歳)が誤って医療用通報装置を作動させてしまい、安否確認に来た白人警官に誤作動であることを繰り返し訴えるも、自宅に押し入られ射殺されるという、にわかには信じがたい顛末で、だ。
この「にわかには信じがたい」という感覚は私が平和ボケした日本人であることを露呈しているだけで、アメリカにおいて無実の黒人が白人警官に暴力を振るわれる、命まで奪われてしまうような事件は珍しくない。これまでも『フルートベール駅で』や『デトロイト』で描かれてきたし、2020年にはミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性ジョージ・フロイドが白人警察官の不適切な拘束方法によって死亡した事件をきっかけにブラック・ライブズ・マター運動が起きた。
アメリカの黒人男性の1000人に1人が警察官によって殺害されているとも言われている。精神疾患を抱えていたとは言え、黒人男性であるケネスが白人警官に対してドアを開けられなかったのは、それなりの理由があるのだ。キング牧師暗殺から半世紀以上が経ち、オバマが大統領になろうと、アメリカ社会には根深い人種差別が残っている。黒人の冤罪事件は無くならないし、白人警察官は丸腰の黒人を射殺する。
本作ではケネス本人と救急医療センターの通話記録、医療用警報器に録音された警官との会話などをベースに、事件の顛末が忠実に再現されている。実際の事件とほぼ同じ尺でリアルタイム進行する構成になっており、暴力に蹂躙されるケネスの恐怖を生々しく追体験させられてしまう。同時に彼が家族に愛される父親であったことも映し出され、胸が押し潰される。辛い。直視できないほどに辛い映画体験だったが、私たちはこの現実から目を逸らせてはいけない。
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