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映画日誌’21-55:ダンサー・イン・ザ・ダーク 4Kデジタルリマスター版

trailer:

introduction:

デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督がアイスランドの歌姫ビョークを主演に迎え、チェコ移民のシングルマザーが過酷な運命に翻弄されながらも、息子のために全てを投げ打つ姿を描いた人間ドラマ。カトリーヌ・ドヌーヴらが共演する。カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールと主演女優賞に輝いたほか、第73回アカデミー賞主題歌賞ノミネート、第58回ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞および最優秀主題歌賞にもノミネート果たした。2021年12月、4Kデジタルリマスター版でリバイバル公開。(2000年 デンマーク)

story:

アメリカの片田舎。チェコ移民のセルマは女手一つで息子ジーンを育てながら、工場で働いている。 セルマを見守る年上の親友キャシー、何かと息子の面倒を見てくれる隣人であり大家でもあるビルとその妻リンダ、セルマに想いを寄せるジェフ。周囲の友情に支えられながら慎ましくも幸せな日々を暮らしていたが、セルマには誰にも言えない悲しい秘密があった。遺伝生の病で視力を失いつつあり、手術を受けない限り息子ジーンも同じ運命を辿ることになるのだ。愛する息子に手術を受けさせるため、懸命に働くセルマ。しかしある日、コツコツ貯めた手術代が盗まれてしまい...

review:

21世紀初頭、世界中を激しく鬱にした問題作が4Kデジタルリマスター版で帰ってきたよ・・・。あかんやつが帰ってきたよ・・・。劇場で予告編を観て動揺し、観るか観るまいか迷いに迷った。一度観たことがある人ならば、この葛藤の意味がわかるだろう。生涯忘れることが出来ない作品だけど、もう一度対峙するには勇気がいる。

しかし2022年6月に国内上映権が終了するため、今回が最後の劇場ロードショーとなるとのこと。ぐぬぬ、劇場のスクリーンで観たければ今回がんばるしかないのか。というわけで、意を決して生涯2度目のセルマを観てしまったよ。ぐおー、手持ちカメラの映像がゆらゆら揺れて酔う!生々しくて、まるでその場に居合わせているみたいじゃないか。

改めて観ると、ああ、こんな物語だったのかと驚く。あまりにも衝撃的だったからか、ショックで記憶をなくしていたらしい。記憶違いもあり、全く記憶にない人物もいた。隣人の警察官、こんなテリーマンみたいな顔だったっけ。極悪人みたいに思ってたけどそんなに悪い人じゃないし、自分も歳を取ったせいか、追い詰められてしまう気持ちが分からんでもない。

展開を知っていて冷静に受け止められる分、細部がよく見えて登場人物のひとりひとりに感情移入してしまう。セルマの中にも、テリーマンの中にも、キャシーの中にも、自分の片鱗を見つける。そして展開を知ってるだけに、セルマ歌ってる場合ちゃう!!ってヤキモキするけど、周囲の人々がセルマにとても優しく寄り添っているのが伝わってきて、余計に胸をえぐられる。エグい。どんだけエグいんだ、この映画。

母親失格だとか身勝手だとか、はたまたセルマは知能が足りないだとかお門違いなアンチコメントも散見するが、それはこの作品の存在意義そのものをミスリードしている。トリアー監督は、母の無償の愛を描いて人々を感動させようなんて思ってない。トリアー作品『奇跡の海』のベスも同様だが、あのあり得ないほど純粋な直向きさは、トリアー監督のファンタジーであり、メタファーなのだろうと考える。

無垢であるほどにわがままで、無垢な魂ほど蹂躙される、この世界なのだ。だから我々は深く絶望し、自分もその世界の一部であることを突きつけられて憂鬱になるのだ。泣いた。嗚咽が漏れるほど、頭が痛くなるほどに泣いた。本当に酷い映画だ。どうしたらこんな酷い映画が創れるんだ。しかし私は、この作品のことを生涯忘れないだろう。

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